社会の無関心の打破という理念のもと、「社会課題を、みんなのものに。」をスローガンに掲げ、多角的な事業を展開する株式会社Ridilover(リディラバ)。今回お話を伺ったのは、事業開発チームを率いる堤さんです。大手金融、LINE Payの立ち上げ、リクルートでの新規事業開発と華々しいキャリアを歩んできた彼が、なぜ全く畑違いとも思えるリディラバを選んだのか。そこには社会課題に「圧倒的に無関心だった」という堤さん自身の心を動かした、ある原体験がありました。
金融・IT業界でのチャレンジングな日々
── まずは堤さんのこれまでのキャリアについて教えてください。
大学は成城大学の経済学部でしたが、正直に言うと、あまり勉強はしていませんでしたね。当時はテニスサークルの主将を務めていて、100人規模の組織をまとめることに注力していました。いろいろな学生がいる中で問題も頻発しましたが、その調整に奔走する日々はいま思えば良い経験だったと感じています。
── 新卒としての就職先に金融を選ばれたのはどんな理由から?
当時、Suicaなどの電子マネーが出始めた頃で、決済のあり方が大きく変わっていくのではないかという予感があったんですね。そこで就活でいくつか回っていた金融系企業の中から三菱UFJニコスというクレジットカード会社に入社を決めました。全体的には堅い業界ではありますが、その中でも比較的新しいチャレンジができるんじゃないか、という点に魅力を感じたのが理由になります。
── ニコスでは7年間、審査や営業を経験されていますが、この期間に得られたものは?
審査の実務そのものよりも業務改善や効率化、不正申し込みを排除する仕組みづくりといった仕事に多く携わりました。堅い業界ならではの「業務をきっちりやり遂げる」という基礎体力を叩き込んでもらえたと感じています。
特に印象に残っているのが、直属の上司の仕事に対する姿勢です。彼は何か相談するとすぐに答えを出すのではなく、非常に長く考え込むタイプだったんですね。最初はなぜだかわからなかったのですが、次第に短い時間の中であらゆる結果をシミュレーションし、最善の結論を導き出しているのだと気づきました。安直に判断せず、物事の裏側まで深く思考する。直接教わったわけではありませんが、そのスタンスは仕事をする上での私の礎になっています。なにかを命じられるたびに「なぜこれが必要なんですか?」と聞いて先輩たちを困らせていた生意気な若手でしたけれど(笑)。
── その後、LINEに転職されますが、どのような経緯で?
正直なところ、もっと刺激的で変化の速い環境に身を置きたいという思いがありました。ただ、審査というニッチな経験だけではキャリアの選択肢が狭まると考え、自ら希望して営業部門へ異動しました。そこで武者修行をしようと考えたのです。
配属されたのは東日本大震災から半年後の仙台でした。東北6県を少人数でカバーする拠点で、法人営業からカード獲得まであらゆる業務を任せてもらえました。いわゆる“ビル倒し※”のような泥臭い営業も経験し、叩き上げのベテランの方々から徹底的に鍛えられましたね。おかげで自分なりに成果を出せて、自信を持つことができました。
満を持しての転職活動は仙台から東京の企業を狙うという、いま思えば無茶な計画。金融機関特有の長期休暇を利用して「この9日間で内定まで決めたい」とエージェントに頼み込み、短期集中で臨みました。これまでの決済領域での知識を活かしつつ、より刺激的な環境を求めてITベンチャーを中心に受け、ご縁があったのが立ち上げ期の『LINE Pay』でした。
※ビルの一番上から一番下まで、全ての見込み顧客に飛び込み営業をすること
── そして、1年半で今度はリクルートに転職なさいます。
1年半という期間は短いと思われるかもしれませんが、私にとっては決してそうではありません。入社時に9名いたチームが私が辞める頃には私一人になるというほどの激動の日々でしたので、体感としてはもっと長い、非常に濃密な時間でした。
ただ、LINE Payでの経験を積む中で、自身の価値観と組織のカルチャーとの間に少しずつズレを感じるようになりました。ちょうどそのタイミングでリクルートから金融の新規事業を立ち上げるから手伝わないか、という話をいただいたのです。
LINEは自社プラットフォームが強力な分、外部への広告宣伝費をかけずに事業を拡大する文化でしたが、リクルートは潤沢な資金で大胆なマーケティングを行う。そのスケールの大きさに魅力を感じていましたし、何より自由な社風に惹かれ、絶好の機会だと捉えて転職を決めました。
“社会の無関心”はとりもなおさず自分自身だった
──リクルートでは希望通り新規事業立ち上げに携わられたんですよね?
リクルートIDに次ぐグループ横断の金融サービスを立ち上げるというミッションを担う、ホールディングス直下の新規事業部署に配属されました。ホールディングスは他に事業部がないためルールも少なく、さながら“独立特区”のような環境でしたね(笑)。
入社半年後には、住宅ローン関連の営業・プロダクト開発担当として「関西地区をすべて任せる」と。大阪に拠点もなかったので、スーモ事業の部署に席を間借りさせてもらい、数ヶ月間マンスリーマンションに住みながら、東京と大阪を週に何度も往復する日々でした。
その後も新たなサービス開発において、金融機関との折衝や法律の規制をクリアするためのサービス設計、他社との合同プロジェクトなど、事業立ち上げに関するあらゆる経験を積むことができました。非常にハードでしたが、間違いなく自分の実力を高めてくれた5年間だったと思います。
──その後、リディラバにジョインとなりますが、その背景は?
リクルートでの5年半はとにかく「稼ぐこと」にコミットし、理不尽とも思える難題を何とか形にしていく毎日でした。それはそれで素晴らしい経験でしたが、この先もずっと同じキャリアを歩むことに面白味を感じなくなっている自分がいたのも事実。それなりに実力もついたいま、これまで培ってきた経験やスキルをもっと直接的に誰かのために、社会に貢献するために使いたいと考えるようになったのです。
そこで新規事業立ち上げの経験が活かせるスタートアップ、特にEdTechやMedTech、インフラ系といった社会性の高い領域を軸に転職活動を始めました。
──価値観の変化の中、リディラバとはどういった経緯で出会ったのですか?
エージェントからの紹介です。ちょうどリディラバが採用説明会を開催していて、そこで代表の安部と当時の事業開発チームリーダーの話を聞く機会がありました。安部は「社会課題をマーケットにしたい」「そのためには、まず“社会の無関心の打破”が必要だ」と語っていました。課題解決が進まないのは、それがビジネスの市場として成立していないからであり、その仕組み自体を変えたいのだ、と。
そして人々が関心を持つこと、そこから一歩踏み出す人を増やすことがすべての始まりなのだという話に強く引き込まれました。これまで新規事業に携わる中で、一社でできることの限界や制度・法律の壁は痛いほど感じてきました。だからこそ「仕組みから変える」というアプローチの重要性はすぐに腹落ちしました。
そして何より、「社会の無関心の打破」という言葉を聞いた時、ハッとしたんです。何を隠そう、私自身がそれまで社会課題に全く関心のない圧倒的無関心層の人間でしたから。でも、彼の話を聞いて「ああ、自分はいま、この人に“無関心”を少しだけ打破されたな」と実感したんです。壮大で夢物語のようにも聞こえるけれど、この人の言うことには確かな説得力がある。そう感じた瞬間、リディラバという会社に強く惹かれている自分がいました。
──堤さん自身が身を持って無関心を打破されたわけですね。
その通りです。もしかすると私のような、専門知識はないけれどビジネスの現場で培ってきたスキルを持つ人間が、社会課題の領域に足を踏み入れることに価値があるのではないか。そう思えたことが、大きな一歩でした。
さまざまな課題や困難、危機的状況を乗り越えて
──入社後は何からはじめられたんですか?
まずは事業開発チームにメンバーとして配属されました。ただ、それなりにビジネス経験を積んできた人間が入ってきたということで、会社としても期待があったのだと思います。私が入社した当時はまだ組織体制も育成制度もこれから、ということもあってか初日からクライアント先に直行し、いきなりミーティングに参加するところから始まりました。その週のうちに「この案件のキックオフ、堤さんにお任せします」と。
──まさに即戦力としてのスタートですね!どんな案件でしたか?
某大手企業との、プラスチックの資源循環をテーマにした新規事業開発案件でした。正直に言うと「資源循環」という言葉すら知らない状態。「サーキュラーエコノミー」という単語も初めて聞き、Googleで検索するところからスタートしました。「静脈産業」「動脈産業」といった専門用語も全く分からず、手探りで情報を集める日々のはじまりです。
ちょうどリサイクルに関する新しい法律(プラスチック資源循環促進法)が施行されるタイミングで、法規制の動向もすべて自分で調べなければなりませんでした。リディラバが得意とする「構造化」のインプットも一切ないまま、見様見真似でプロジェクトを進めていく。私にとっては崖っぷちを命綱なしで歩いていくような感覚でしたね。
後から聞いた話ですが、その案件がリディラバにとって初の本格的な新規事業立ち上げの伴走支援だったそうです。「ちょうど堤さんが来たから、お願いしよう」くらいの感覚だったと。いま振り返っても、なかなかの無茶ぶりだったと思います(笑)。
──その後リーダーに就任されますが、そこでも大きな困難があったそうですね。
リーダーに就任する直前、事業開発チームの業績に課題があること、それが事業の健全性に影響を及ぼしかねない状況に気づきました。奇しくも金融業界や新規事業部署でのPL管理経験が活きることになったのですが、その懸念を安部に伝え、会社のキャッシュフローを確認させてもらいました。すると現状のままでは数ヶ月後に財務状況が悪化するリスクがあることがわかったのです。まさに待ったなしの早急な対策が必要でした。
そこからはチーム全員でがむしゃらに動きました。利益率が多少低くても、まずはキャッシュを生み出すために行政の公募案件などを全力で取りにいきました。メンバーには本当に多大な負荷をかけましたが皆で必死に稼働し、約1年間でなんとかその危機を乗り越えられました。同時に、これまでの組織体制では限界があると感じ、体制の変更も進めました。今の事業開発チームがあるのは、あの時の経験があったからこそだと思っています。
──現在のリーダーとしてのお仕事はどのようなものでしょうか?
メインはチームメンバーが担当する案件の進捗管理や、壁打ち相手としてのサポートです。もちろん自分がPM(プロジェクトマネージャー)として現場に入る案件もあります。現在は農林水産省の大型案件をはじめ10件ほどのプロジェクトが動いていますね。昨年までは年間40件以上を回していました。
案件以外では採用、育成、評価といった組織づくり全般を担っています。メンバーが働きやすいように、会議体の設計や組織構造の見直しも常に行っています。また、これまでの経験から人事制度や財務といった管理部門の議論に参加したり、メディア事業に関するアドバイスをしたりと、チームの垣根を越えて何でもやっているというのが実情ですね。
──メンバーマネジメントで意識されていることは?
基本的なスタンスは「任せる」ことです。会議でもよほどのことがない限りは私から発言することは控え、まずはメンバーの意見で議論を進めてもらうようにしています。最初の会社で学んだ「長考する上司」の姿がどこか影響しているのかもしれません。多様なバックグラウンドを持つ優秀なメンバーが揃っていますから、彼らの力を最大限に引き出すことが私の役割だと考えています。
社会に貢献する仕事で得られる、かけがえのない価値
──今後、事業開発チームに新しいメンバーを加えるとしたら、どのような方と一緒に働きたいですか?
スキルセットも重要ですが、個人的に最も大切だと感じているのは“粘り強さ”です。リディラバの仕事は正直に言って大変です。少人数で大きな案件を回しますし、育成体制が完璧に整っているわけでもありません。常に誰も答えを知らない新しい課題に取り組むため、自ら考え抜き、答えを出していく姿勢が求められます。
クライアントに成果を届けなければならないプレッシャーもありますし、私たちが掲げる「社会の無関心を打破する」という壮大なミッションは、そう簡単には実現できるものではありません。短期的な成果に一喜一憂せず長期的な視点で物事に取り組み、上手くいかないことがあっても何度でも立ち上がってチャレンジし続けられる。そうした粘り強さを持つ方に来ていただけると、非常に心強いです。
──思考力や対話力といったスキルも必要そうです。
物事を俯瞰し、本質的な課題を捉えるための論理的思考力やシステム思考はもちろん必要です。そしてもう一つ、非常に重要なのがコミュニケーション能力です。私たちの仕事の起点は常に社会課題の現場にあります。一方でクライアントは大企業であったり省庁であったりと全く別のセクターなので、それぞれの思いや言語がかみ合わないことも少なくありません。その中でリディラバが果たす役割としては、相互理解を促し信頼関係を構築すること。つまり共創関係力ともいえるスキルがこの仕事では不可欠になります。
──リディラバで働くことの魅力とはいったいなんでしょうか?
私たちの仕事はさまざまな場面で「ありがとう」と感謝される、喜ばれる仕事だと実感しています。たとえばある社会課題の支援団体の中には思想の違いから対立してしまっているケースがあります。彼らも頭では連携の重要性を理解しつつ、向き合うステークホルダーが違うことから、重要視することが異なり受け入れられない。そうした時に私たちのような第三者が間に入ることで、関係性が円滑になることがあります。
また企業や行政の担当者の方々にとっても現場のリアルな実態や他の組織の動向といった、自分たちだけでは得られない情報や視点を提供することに価値を感じていただけます。事業として仮にうまくいかなくても「担当者の成長につながった」と経営層から評価され、次の仕事につながることも少なくありません。課題解決に貢献できているという実感は、常に持ち続けることができると思います。
──その反対に仕事の厳しさはどんなところにあるでしょうか?
私たちの仲間の中にはミッションが壮大である分、少しの成功では満足できず「社会は何も変わっていない」と自らを追い込んでしまう人もいます。私を含めたリーダーや経営陣はそうしたメンバーの功績をきちんと認め、持続的に働き続けられるようにサポートしていくことも重要だと考えています。
また、リディラバ自身も社会課題をマーケットにするからにはきちんと収益を上げ、メンバーが安心して働き続けられる、持続可能な組織でなければなりません。だからこそ一人でも多くの力が必要なのです。まだまだ道半ばではありますが、この壮大な挑戦に共に「粘り強く」取り組んでくれる仲間と出会えることを、心から楽しみにしています。
【profile】
堤 慎介 事業開発チーム リーダー
成城大学卒業後、三菱UFJニコス入社。その後、LINE、リクルートでの金融サービス立ち上げ、企業提携、マーケティング等を経て、リディラバに参画。事業開発チームのリーダーとして全体統括を手掛けている。