VFX制作に真摯に向き合うために。
Spade&Co. Story Vol.1 〜代表取締役/VFXスーパーバイザー 小坂一順〜
創業前は、大手ポストプロダクションにCMの本編集アシスタントとして入社。
入社後まもなくして、劇場用映画のVFXコンポジターを経て、VFXスーパーバイザーになる。
「優秀な人が集結する大きな会社で学べることはたくさんあった。でも、会社は自分のことを特別扱いしてくれない。大きな会社であるが故に、扱う作品は、映画やドラマだけではなく、CM、MVなど様々なジャンルを制作するから、自分がやりたいことだけ選ぶわけにもいかない。自分のキャリアがあがるにつれ、外部のスタッフから「小坂さんと一緒に仕事をしたい」と言ってもらえるようになっても、自分が優秀だと思う社内スタッフと一緒に仕事ができるわけでもないし、自分がつくりたい映画・ドラマに特化したチームを組めるわけでもなかった。会社のルールを守っていくことが、クリエイターとして仕事をする際の”弊害”と感じるようになった」と振り返る。
映画「るろうに剣心」シリーズとの巡り合いで、監督から信頼を得られたことが起業の一歩となった。
©和月伸宏/集英社 ©2020映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会
社内でもとりわけ優秀であったVFXディレクター白石哲也と、CGディレクター木川裕太に声をかけ、自分の理想とするスタッフとともに、最小限のマシンとスペースで、2014年創業。
CG制作に欠かせないマシンやソフトは、以前は非常に高額なものであったが、創業時には徐々に、より安価なマシンやソフト(Foundry社のNuke)が出てきたことも追い風となった。
白石も木川も皆、短尺であるが故により高いクオリティが求められるCMに携わってきた経験もあり、映画・ドラマという長尺にもかかわらず、ハイクオリティで尚且つ、大企業よりも適性な価格を打ち出せたことが強みとなった。
だがこの旗揚げも、最初の2年は良かったが、”順風満帆”というわけではなかった。3年目は売上が上がらず、体制を見直し、営業し直すなど苦労もあった。
縁あって、映画「銀魂2 掟は破るためにそこにある」(2018年)に関わることになり、そのあとは映画「キングダム」(2019年)、映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」(2021年)と、作品が作品を呼び、ここまで成長することができた。
©2018「銀魂2」製作委員会
©原泰久/集英社 ©2019映画「キングダム」製作委員会
2021年6月より配信中のNetflix「全裸監督2」を請け、高い評価を肌で感じている。
「ハリウッドスタイルを学べたことは、我々にとってさらなる知見となった。求められるクオリティに対し、クリエイターが求めるシステムと対価がきちんと提供される。きちんとした予算と環境さえあれば、時間をかけることができ、そこに技術も伴うことを証明できた。自らのマネジメントと技術力に、確信を持てるようになった。」と語る。
やっと少し、世界が近く感じられるようになった。
聞き手:Naoko Kariya