2025年10月、記憶のプラットフォーム「Monoxer(モノグサ)」を提供するモノグサは、シリーズCラウンドで総額約18.5億円の資金調達を実施しました。
今回お話を聞いたのは、東急建設でCVCを担当する価値創造推進室の信貴弘恵さんと藤田耕一さん。
団塊世代の引退を目前に控え、建設業界は大きな岐路に立たされています。そんな現状に対し、「記憶の定着」にはどのような価値があるのでしょうか。
その可能性について、モノグサ代表取締役CEOの竹内孝太朗と、社会人・従業員教育領域責任者の吉川治人とともに語っていただきました。
ゼネコンの「知の伝承」を実現できれば、世界中に貢献できる
信貴:私と藤田が所属する価値創造推進室では、主に新規事業の開発推進を担っています。その一環として外部とのオープンイノベーションを目指し、グローバル・ブレインと共同でファンドを設立し、2022年からCVC活動を行っています。
モノグサのことはグローバル・ブレインからの紹介で知り、「記憶の定着」というフレーズに興味を持ちました。私自身、資格試験の合格後にせっかく覚えた知識が抜けてしまうことへの歯痒さを感じた経験もあり、記憶の効率を良くしたい思いがあったんです。加えて、年齢を重ねるとどんどん記憶力が低下してきますから(笑)
事前調査では、Monoxerは学校など教育現場での記憶の定着を図るプロダクトに見えましたが、企業のナレッジをまとめたマニュアルを選択式などの問題にし、それらを回答することで記憶の定着を進めることも可能だと聞き、期待感はぐっと上がりましたね。
藤田:価値創造推進室でずっと考えていることの一つが「知の伝承」でした。当社に限らず、業界の最大の悩みは団塊の世代の高齢化。技術や安全管理の考え方などを若手に伝承することは必須ですが、建設は経験工学的な部分も多く、言語化ができていない現状があります。
ゼネコン各社が暗黙知の標準化に苦労していますから、それがMonoxerで実現できれば他社への展開も考えられます。日本のゼネコンの品質管理工法は世界的にも評価されていますので、海外に広げる余地もある。世の中に広く貢献する未来が描けるなと思っています。
東急建設株式会社 執行役員・価値創造推進室長 信貴 弘恵さん(写真右)/価値創造推進室 イノベーション推進部 部長 藤田耕一さん(写真左)
竹内:個人的に今回の資金調達でご一緒したい業界がいくつかあり、その一つが建設業でした。
工事現場を通りがかる際、素人ながらに建設は不確実性が高い中でプロジェクトを進めているように感じていました。精密機械と違い、多くの部分が人間の手作業によって成り立っている。製造プロセスの一部を機械が担う世界は比較的すぐに来ると思っていますが、建設はまだまだ人間が必要とされる分野だと思います。
だからこそ、「モノグサには技術の伝承において可能性がある」というフィードバックはとてもうれしいですね。
吉川:僕は2024年7月にモノグサに入社し、社会人・従業員教育の事業責任者を拝命した時から、建設業と製造業を追いかけてきました。
その一方で、Monoxerはわかりづらいプロダクトだと自覚していますので、東急建設さんがポテンシャルを感じてくださったことに心から感謝しています。絶対に成果を出すぞと、かなり気合が入っております。
モノグサ株式会社 代表取締役CEO 竹内孝太朗(写真左)/社会人・従業員教育領域責任者 吉川治人(写真右)
Monoxerで「ちゃんと読んでおいてね」を成立させる
信貴:次世代への技術継承にあたってマニュアル整備を進めているのですが、情報量が多く、どうやって理解、浸透させるかに課題があります。
藤田:施工や安全、品質に関するマニュアルは「読めばわかるから覚えなくていいだろう」となりやすいのですが、知識が自分に染みついていなければ実効性がありません。
まずは土木事業本部、建築事業本部内の教育担当者と協力し合い、Monoxerを利用し、マニュアルを深く理解するための問題集を作成、習熟度を可視化することを進めたいと思っています。
竹内:Monoxerでは「ちゃんと読んでおいてね」を成立させるための開発を進めています。マニュアルは一言一句覚えるのではなく、要点をつかむ必要がありますが、実際には「読んだけれど、ちゃんと読めているかはわからない」状態になりやすい。
それに対し、新機能では「ちゃんと読む」ことを成立させ、かつ「ちゃんと読んだかどうかを可視化できる」ことに照準を合わせています。
例えば昔話の「桃太郎」を読んだとき、「動物を仲間にした」と理解していればよいケースもあれば、「犬・猿・雉と具体的に答えられること」が求められるケースもあります。どちらも「読んだ」と言えるけれど、その度合いが違う。そこをコントロールし、理解度を可視化できる状態を目指しています。
藤田:個人の理解度の可視化は素晴らしいですよね。今までだと「読みました」で済んでたものも隠せなくなりますから。
吉川:現場でのマニュアルの浸透度合いを検証すると同時に、ぜひ建設現場に足を運ばせていただきたいと思っています。
仕事で疲れている中、本当に隙間時間でMonoxerをやろうと思ってもらえるのか、「自分のスキルが上がってる」実感を持てているのか。
現場の解像度が高い会社が作ったプロダクトと、思い込みと仮説で作られたものは質に大きな差が生まれます。お取引先であると同時に同じ志を持つチームとして、現場のリアルな声を聞きながらUXや学習体験を改善し、プロダクトを磨いていきたいですね。
そうやって現場の皆さんから「Monoxerであれば教育を受けてもいい」と感じていただける世界を作ることで、短期的なお返しをしていければと考えています。
藤田:ぜひお願いします。現場には当社の従業員だけでなく、多くのサブコンさんやサプライヤーさんにサポート頂いているのですが、そういった方々への教育サポートもバリューチェーン全体の質や安全性の向上を目指す上で欠かせません。一緒に取り組んでいけるといいなと思います。
モノグサで日本の建設ノウハウを世界へ
藤田:先ほど海外展開の話をしましたが、それは個人的な夢でもあります。私は長年国際事業部にいたこともあり、特に発展途上国に日本の建設ノウハウを広げたいという志があり、そこも一緒に目指したいと思っています。
吉川:うれしいです……! 僕は無理やり中期経営計画にグローバル展開を入れてもらったぐらい、グローバル展開に熱い想いを持っています。実はモノグサへの入社を決めたのも、「このサービスなら世界で戦える」と感じたことが大きいんです。
僕が育ったカナダで、Monoxerのようなプロダクトはまず生まれてきません。記憶のプラットフォームは暗記をベースにした教育を受けてきた日本人の発想であり、日本特有のプロダクトです。
一方、記憶の仕組み自体は世界中の人に共通します。だからこそ、コンセプトが理解されれば世界で使ってもらえる可能性がある。建設用の教育コンテンツとして海外展開がしやすく、他の文化圏でも学習しやすい点はMonoxerの強みですので、ぜひ海外展開を実現したいです。
藤田:弊社はアジアで数百億円規模のプロジェクトを複数抱えてます。国際事業の人員もこの20年で4倍(20名が80名)になり、現地従業員を含めれば約800名規模です。そういったところも生かせると思います。
吉川:PoC(概念実証)を進めましょう!
竹内:海外から人材を受け入れて育成し、帰国後に学んだ知見を生かして母国で建設に携わるといったストーリーもあるのでしょうか?
藤田:既にそのような取り組みを始めていて、現在12名います。優秀な外国人材を採用し、日本ないし現地で教育し、現地の所長になってもらう。そうやって現地支社をローカライズしていきたいという考えはずっとあります。
吉川:実現したいですね。
竹内:Monoxerはあらゆることをワンプラットフォームで記憶できるので、建設について学ぶと同時に、日本語を学ぶことも可能です。国をまたいで技術を移転させる場合、覚えることは多岐に渡りますから、Monoxerとの相性も良いと思っています。
日本の建設業には高い技術力があり、他国から見れば学びたい対象です。単に人手不足解消のために外国人材採用を行うのではなく、きちんと育成し、母国に帰った後にも建設プロジェクトに携わる未来をつくれるよう、尽力したいです。
キャリア形成×モノグサの可能性
信貴:私は、Monoxerはキャリア形成にも役立つと思っています。学生時代に作ったアカウントを社会人以降も使い続けるようになれば、過去の学習歴から強みや関心領域を見出すこともできるのではないかと。
そうなれば、人材のマッチングにも生かせそうですよね。建設業も人材獲得競争にはかなり苦労していますので、そういったところでも何かご一緒できるといいなとイメージしています。
吉川:Monoxerの記憶のデータから適正や向き不向きに関する示唆を出すことは、長期的に考えていきたいです。
外国人材を例に挙げると、例えば日本語学習の環境をモノグサが無料で提供し、勉強を頑張った人に企業からのスカウトが来て就労の機会が得られるといった、努力が報われる世界線も作れるのではと考えています。
信貴:あとは、「パフォーマンスにつながる営業」を定義できると面白いなと思います。建設業には完成した製品がなく、作るものも条件も毎回違う分、営業の難易度は高い。営業の方法も属人化していて、体系立てて教わることはあまりないのです。
藤田:一方、最近の若手はマニュアルを求める人が多く、OJTが歓迎されていないのも見かけます。営業現場でもマニュアルを作成する動きがあるようですね。
竹内:かつては自己流が良しとされる雰囲気がありましたが、最近は変わってきましたよね。
モノグサには「営業スキル検定」があり、合格するまで営業現場には出られません。前職のリクルートで同じようなことをした時は「なんでこんなことしなきゃいけないんだ」と軋轢を生んだのですが(笑)、今の若手はありがたがってくれるんですよ。
その意味では、東急建設さんの営業マニュアルを検定化するのもいいかもしれませんね。
吉川:建設業の営業は、先々のプロジェクトの話をいち早くつかめるかも影響しそうですよね。ちょっとした会話を広げたり、ストライクゾーンから外れたボールも取りに行ったりするような営業が活躍しやすい領域だと思います。
それができる人は、実は記憶力が高いことが多いと思っています。たまたま見たニュースを覚えてることで話を広げ、ニーズを引き出すようなこともあるのではないでしょうか。その再現性を設計するのも面白そうです。
竹内:今回、東急建設さんにはモノグサが確実にうまくいくという絶対的な根拠がない中で、明確にリスクを取って出資をいただいています。資本的な見返りはもちろんですが、東急建設さんのビジネスに再現性を持たせたり、グローバル展開の一助にしたりと、明確な貢献をすることが一つのゴールです。
まずは最大の課題である技術承継の実現に向けて、取り組みを進めていきたいと思います。
最後にモノグサが大切にしている価値観「ものぐさで行こう」を表すボードゲームを体験いただきました。
文章:天野夏海
写真:上野裕二
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