【アニメ制作会社の中の人#05】若手アシスタントプロデューサーインタビュー/こんなにはじめから挑戦させてくれる、なんて贅沢な会社なんだと、感謝しています。
稲葉 もも(いなば -)。清泉女子大学文学部スペイン語スペイン文学科卒 (内、アルカラ大学留学) 。本広克行監督のマネージャー兼アシスタントプロデューサーとして、現在は『ブレイブ ‐群青戦記‐』や『新ガンダムビルドシリーズ(仮)』などの実写作品に携わっている。また、押井守監督、本広克行監督の参加する実写映画レーベル『シネマラボ』の企画推進もしている。
“高校まで、本当にサッカー馬鹿だったんです(笑)”――中学時代女子サッカー関東選抜として活躍し、約10年ほどサッカーに熱中していた稲葉さん。その後、大学ではサッカーともつながりの強いスペインに留学し、語学を生かしてマンガ翻訳の仕事の手伝いを引き受けた。そのときから、「海外と日本を作品でつなぐ」ということを考え始めたという。アニメはほとんど見たことがなかったものの、グローバルに活躍したいという志向からアニメスタジオを選んだ稲葉さんに、Production I.Gでの働き方について伺った。
I.Gの中でもかなり異色の仕事をしていると噂の稲葉さん、今日は宜しくお願いいたします。笑 まず、稲葉さんは現在、アニメではなく実写作品の制作に携わってらっしゃるのですよね。具体的に、どのような仕事をしていますか?
いまは、本広さん(本広克行監督)付きのマネージャーをしています。普通は監督にマネージャーはつかないので、いきなり説明しにくいのですが…。笑
笑 クレジット的にはどういう表記になるのでしょうか?
作品にもよるのですが、AP(アシスタントプロデューサー)とか、『シネマラボ』だと「企画・プロデュース」としての表記だったりとかですね。“マネージャー兼AP”が、一番しっくりきます。ただ、年越しはももいろクローバーZの『ももいろ歌合戦』で、本広さんが演出した一部コーナーで衣裳担当をしたりと、基本何でも屋という立ち位置で働いています。
本当に仕事の幅が広いですね!そういった仕事のなかで、稲葉さんはどんなバリューを発揮されているのですか?
このポジションで一番役に立ってるなと感じるときは、本広さんと現場や、本広さんと各作品のプロデューサー陣との間で、橋渡しの役割を担っているときです。
本広さんは作品の為なら何でもする方なので、最後の最後まで内容を詰められます。そういったなかで、現場スタッフやプロデューサー陣たちとタッグを組んで、本広さんの思い描くものを実現する為に予算やスケジュールにどう折り合いをつけるか。
その関係性を築く中で、見えないところに私がいることでチームがうまく進むときがあります。表舞台には立たないですが、“私がいるから進んでいる”ということを目に見えて感じられるときは、やりがいに思いますね。
なるほど。マネージャー的な関わり方以外もされているのでしょうか?
はい、マネージャーだけでなく、作品によってはプレーヤーにもなります。普通は、どちらかじゃないですか?監督になりたいから制作側に入ったり、企画をしたいから製作側になったり。でもいまの私はどっちもやっている。だから、制作側にいるときは企画側の、ある意味嫌なところがわかるし、それを踏まえて企画側にいるときは制作のことを考えて判断ができる。いろんな立ち位置で物事を見れるのは、この立ち位置だからこそ、という感じでしょうか。
仕事をする上で、大切にしていることはありますか?
そうですね、やっぱり人です。あとは、感情は忘れること。笑
感情を忘れる?「人」と矛盾してませんか?笑
言葉で表現するのが難しいのですが、コンテンツ業界は特に、常に人と人との関係が全てですよね。だから、作品を良くするための戦いしかしないというのが大事だと思っています。人と人だから、ほかの感情が生まれやすいんですけど、それが原因で作品が良くない方向に進んでしまうことがよくある。それだけは絶対ないように、意識するようにしています。
それでは本題である、Production I.Gに入社した理由をお聞かせいただけますか?
私は学生のとき、留学でスペインに2年間いました。学生時代は翻訳学に興味があったので、スペイン滞在時は学校とは別に、個人的にマンガ翻訳の仕事のお手伝いをしていました。そのときふと「海外と日本を作品でつなぐ」ということを考えたとき、ビジネスになると思ったのが、アニメだったんです。
漫画の翻訳をされていたのですね!たとえば、どういった作品の翻訳をされていたのですか?
有名どころでは『東京喰種トーキョーグール』の翻訳を、一部手伝わせてもらっていたりしました。漫画の翻訳は特にやってみたかったので、自分でバルセロナやマドリードにあるいろんな会社を回って仕事探しをしました。
当時、スペインもフランスのように日本のアニメや漫画が浸透しているかと思っていたのですが、『聖闘士星矢』や『クレヨンしんちゃん』、『ドラゴンボール』といった王道の作品は知られているものの、いま現在の日本のアニメを知っているのは、コアな人たちだけでした。
そのとき「思っていたよりあまり浸透していないんだ…」と思った一方で、そういった業界で、作品のライセンスや売り買いに関わっている人たちがいるはずだから、そういう仕事って面白そうだなと思ったんです。
漫画翻訳の仕事から、コンテンツをグローバルに扱う仕事に興味を持たれたのですね。海外では、そのまま就活をされたのですか?
いえ、4年生になってすぐに日本に帰ってきたんですけど、そこから海外に強い、海外に目を向けているようなアニメ会社を受けようと考えて、かたっぱしから受けようとしていました。でもアニメ会社って新卒採用が遅いので、その前にアニメ会社の取引先になるような、出版会社とかを受けていたのですが、それは勉強の為で、最終的にはアニメ会社に就職しようと思っていました。
その中でも、I.Gはアメリカに支社があるし、『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』のような作品が海外でヒットしていて、I.Gから伝わってくる「外に出ようとしてる感」が私には魅力的で、I.Gにしようと決めました。
たしかにI.Gの作品は、海外での評価を受けるものも多いですね。稲葉さんご自身としては、I.Gのどんな作品に魅力を感じましたか?
やはり『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』や『人狼 JIN-ROH』に惹かれましたね。「さすが、もう先に(海外に)行ってたんだ!」と思いました。映画や本も難解で、哲学的なほうが好きなので、アニメもこのようなジャンルの作品に惹かれたんだと思います。I.G以外だと、今敏監督の『パプリカ』や『パーフェクトブルー』などが好きです。私自身、アニメは学生のときまで全然見たことなかったのですが…。
アニメはあまり見てこられなかったのですね!そんな中でアニメ制作会社に絞るということに、迷いはありませんでしたか?
迷いはなかったです。なぜか、絶対アニメ!って決めてました。私は物事を長い目でみるタイプで、これになりたいからこれをする、と逆算で考えることが多いのですが、就活も、アニメ会社で海外営業をするという目的が明確化していたので、もうアニメ会社しかないだろうと、決め込んでいました。
しかし、今やっている仕事は、アニメではなく実写ですよね。入社後、もともと自分がやろうと思っていたことと、実際の仕事に乖離を感じませんでしたか?
そうなんですよね。笑 でも、想定通りいかないのは重々承知で、走る方向だけ決まっていればいいと思っています。向いてることって、自分ではなくて他人に教えてもらうことだと思いますし…ぶれていると思われる事もありますが、「作品を世界に」という軸は変わっていません。
その上最近は、アニメより実写の仕事の方が、仕事の仕方といいますか、スピード感が自分に合うと感じています。また、最近でいうと『パラサイト 半地下の家族』なんか見てると、日本映画の現状に衝撃を受けます。日本実写映画の興行収入1位の記録を未だに持つ本広さんと一緒にお仕事をさせて頂く中で、日本映画がどれだけ外に出ていないかについて考えさせられる機会も多々あります。アニメより、実写の方が作品を外に出していく人材を必要としているのではないか、と考えるようになりました。
フットサルが趣味だという稲葉さん。所属しているフットサルチームの試合写真
最後に、稲葉さんが感じるI.Gの特徴はなにか教えてもらえますか?
ほかの会社を経験していないので何とも言えないですが、とにかく任せてくれることだと思います。
3年目で、自分だけの判断で、自分の責任で動くって大きい会社だとあまりないのではないかと思います。その分もちろん苦しさもあるのですが、若いころから一流の人たちと同じフィールドで戦える。石川社長がよく、「普通の人の5年分が稲葉の1年に詰まっている」と言ってくださいます。本当にその通りで、任せてもらえることで、出来る事が増えるスピードがすごい。それを若手の成長の為に思い切って任せるやり方は、この会社のカラーであり、良い部分だと思っています。
その機会をしっかりと活かして活躍されている稲葉さんの姿が、今日のお話で目に浮かびました。本日は有難う御座いました!