採用ツールを選んでいると、ときどきこういう説明に出会います。「応募者の表情や声のトーンをAIが分析して、適性をスコア化します」。
便利そうに聞こえます。人間の面接官が何となく感じ取っていたものを、機械が数値にしてくれる。面接官によって評価がぶれる悩みへの答えのようにも見えます。
ただ、この手法については、確認しておいたほうがいいことがあります。米国で実際に起きたことを調べてみました。
米国で実際に起きたこと
2023年、米国マサチューセッツ州で、CVSという大手小売チェーンに応募した男性が同社を訴えました。
彼が2021年に受けたのは動画面接でした。「あなたにとって誠実さとは何ですか」「誰かが試験で不正をしているのを見たらどうしますか」といった質問に、録画されながら答える形式です。
訴状によれば、その録画は第三者の感情分析エンジンに送られ、表情・視線・声の抑揚がAIで分析されて、数値のスコアとして採用企業に渡っていました。ツール側は、応募者が「生来の誠実さと名誉の感覚」を持っているかを判定でき、「嘘の検出」に役立つと説明していたそうです。
彼が持ち出したのは、AIを対象にした新しい法律ではありませんでした。マサチューセッツ州の、嘘発見器を雇用の条件にしてはいけない、という古い州法です。
この州法の条文は、ポリグラフだけを名指ししていません。「ポリグラフその他の装置、機構、器具または筆記による検査であって、欺瞞の検出、真実性の確認、または個人の誠実性に関する診断的意見を示すことを目的として運用されるもの」と書かれています。装置の種類を限定していないので、条文が書かれた当時に存在しなかった技術にも、文言の上では届きます。
よく誤解されている2つのこと
判決文を読むと分かることを2つ書いておきます。
ひとつ。裁判所は「AI面接は嘘発見器にあたる」と判断していません。企業側がその点を争わなかったからです。企業が却下を求めたのは「応募書類に法定の告知がなかった」という手続きの部分だけで、裁判所はその申立てを退けました。その後この訴訟は和解で終わっていて、判決は出ていません。
つまり、一番大きな問いは、正面から判断されないまま残りました。導入する側から見ると、これはあまり安心材料になりません。
もうひとつ。訴えられたのは、動画面接ツールを作った会社ではありませんでした。そのツールを自社の選考に使った、採用企業のほうです。
ツールの機能として何ができるかを説明したのは提供元でしたが、それを選考プロセスに組み込んで応募者に受けさせたのは採用企業でした。責任を問われたのは、後者です。
「ベンダーが大丈夫だと言っている」ことと、自社が説明責任を負わないことは、別の話でした。
提供元も、欧州も、この手法から離れている
この訴訟で使われていた動画面接ツールの提供元は、表情分析の利用を2020年に停止しています。理由として説明されたのは、自然言語処理の精度が上がった結果、映像の分析が評価に加える価値がほとんどなくなった、というものでした。
批判されたからやめた、という話ではなかったわけです。足しても精度がほとんど上がらなかった。それが説明の中身でした。
なお、提供元が説明している停止時期は2020年で、原告が応募したのは2021年1月ごろです。訴状の主張と、提供元が公表している時期は食い違っています。この点は訴訟で決着していないので、どちらが正しいかをここでは断定しません。
欧州はもっとはっきりしています。EUのAI法は、職場および教育機関の領域で人の感情を推定するAIシステムを、医療上または安全上の理由による場合を除いて禁止しました。2025年2月2日から適用されています。高リスクだから条件付きで使ってよい、という区分ではなく、原則として禁止される側に置かれました。
日本で確認しておくこと
日本には、嘘発見器の採用利用を正面から禁じる法律も、EUのAI法にあたる包括的な規制もありません。ただ、確認しておくべき論点はあります。
顔写真そのものは通常の個人情報ですが、顔の容貌を認証のために数値化した特徴量は、個人情報保護法の「個人識別符号」として、より厳格な扱いを求められます。写真を保存することと、顔を解析して特徴量を作ることは、法的に別の段階です。
厚生労働省は、採用選考を応募者の適性と能力にもとづいて行うことを求めています。表情や態度の印象を評価に反映させる仕組みは、この考え方との整合を説明できる必要があります。
分析処理が海外の事業者で行われるなら、外国にある第三者への個人データの提供にあたります。
そして、規制の有無より先に来る問いがあります。応募者から「どうやって評価したのですか」と聞かれたときに、答えられるかどうかです。表情のスコアが結果に効いていた場合、その説明は簡単ではありません。
導入前に聞いておく5つのこと
AI面接ツールを検討するとき、この論点については次の5つを聞いておくと、あとから困りません。機能の一覧ではなく、実際に何が処理されるかを聞くのが要点です。
- 評価するAIが実際に受け取るのは何か。映像なのか、音声なのか、会話のテキストなのか
- 顔の特徴量を作るのか。感情を推定するのか。機能名ではなく、処理の中身で聞く
- 評価レポートに、根拠になった応募者の発言が入るか。スコアだけで終わっていないか
- 分析の委託先はどこか。データはどこの国に保存されるか
- AIのスコアだけで不合格にできる設定があるか。最終判断は誰が行うか
QRUUで決めたこと
QRUUは、応募者の表情・視線・容姿の分析を行いません。機能として持っていないだけでなく、評価を行うAIに映像が渡らない構造にしています。AIが受け取るのは会話のテキストで、そこから読み取れないことを評価の根拠にしないよう指示しています。
履歴書に顔写真がある場合も、写真は採用担当者が画面で見るためのものとして扱い、応募者と求人のマッチング判定には渡していません。顔の特徴量を作る処理も行いません。
評価レポートには、根拠にした応募者の発言をそのまま引用するようにしています。「明瞭」「丁寧」「好印象」「ハキハキ」といった話し方の印象を表す言葉を、評価の根拠に書かないことも、あわせて指示しています。評価するのは、何を話したかの中身です。
合否の判断は採用担当者が行います。AIの評価は、そのための参考情報です。
この記事は、制度と事例の紹介です。個別の対応方針については、弁護士や社会保険労務士などの専門家にご相談ください。
判決文の原文、EUのAI法の条文、厚生労働省と個人情報保護委員会の資料へのリンクを含む詳しい版を、コラムに置いています。 → AI面接で表情を分析してよいのか — 米国の訴訟と、日本で確認すべきこと
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