夜の帰り道、
ふと雨が降り始める瞬間があります。
傘を差すほどでもなく、
ただ静かに肩を濡らす程度の、やわらかい雨。
そんな夜は、
なぜか昔のことを思い出します。
ある営業の方も、
そんな雨の夜に、ひとつの記憶がよみがえりました。
それは、まだ入社して間もない頃。
慣れない仕事に追われ、
成果も出ず、
自分の存在意義さえ見えなくなっていた時期でした。
ある日、担当店舗で提案がうまくいかず、
店長に厳しい言葉をかけられ、
心が折れそうになっていました。
帰り際、
その店のスタッフの一人が声をかけてくれました。
「今日、すごく頑張ってましたよ。
あなたの提案、私は良いと思いました。」
その言葉は、
大げさではなく、
胸の奥にそっと灯りをともすようでした。
誰かに認められたわけでもない。
大きな成果が出たわけでもない。
でも、
“見てくれている人がいる”
その事実が、
その日の彼を救いました。
そして今、
雨の降る夜道を歩きながら、
彼はその言葉を思い出していました。
あの日の自分は、
弱くて、
不器用で、
迷ってばかりだった。
でも、
あの一言があったから、
今日まで続けてこられた。
人は、
大きな出来事で変わるのではなく、
静かに寄り添う誰かの言葉で、
そっと前に進めることがあります。
雨はいつの間にか止んでいました。
街灯に照らされた道が、
少しだけ明るく見えました。
「あの日の言葉が、今の自分をつくっている。」
そう思いながら、
彼はまた歩き出しました。