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エンジニアの“総合力”が求められるからこそ、面白い。飲食業のDXに可能性を感じ、参画したCTO

「エンジニアにとって、飲食業という領域はめちゃくちゃ挑戦しがいがありますよ。まだまだDX化が進んでいない業界ですし、今この時代だからこそITの力が求められているので」

こう語るのは、株式会社フードテックキャピタルCTOの南里勇気。彼はかつてヘルスケアベンチャーのFiNC Technologiesでモバイルエンジニア/マネージャーを務め、同社の退職後にBison Holdingsを創業。一期目にして売上1.4億円を達成した辣腕のエンジニア経営者です。

南里はあるとき、代表取締役 CEOの鈴木大徳に出会いました。そして、フードテックキャピタルの事業に大きな可能性を感じ、経営参画を決めたのです。プロダクト開発において取り組んできたことや、この企業でエンジニアとして働く醍醐味などを南里が語ります。

南里 勇気
株式会社フードテックキャピタル 取締役CTO
慶應義塾大学経済学部卒。在学中から株式会社MEDICAでシステム開発、大手調剤薬局チェーンと共同研究で論文発表。2015年株式会社FiNCに新卒入社してAndroidチームマネージャーとしてアプリ改善、GooglePlayベストオブ2018「自己改善部門」大賞受賞。同年米国シリコンバレーでFiNC Technologies USオフィスを立上げる。2019年から中国でハードウェアを開発、テックリードとしてプロダクトをローンチ
2020年6月Bison Holdingsを創業

鈴木さんは自分にないものを持っている経営者

――南里さんは何をきっかけに、代表取締役 CEOの鈴木さんと出会ったのでしょうか?

私のFiNC Technologies時代の上司である南野充則(現・代表取締役CEO)さんが、鈴木さんと知り合いだったんですよ。鈴木さんがエンジニアリングの知見を持った人間を探していたため、南野さんが私を引き合わせました。相談に乗ったり仕事を請け負ったりしているうちに鈴木さんから信用してもらえて「ウチの会社で働いて一緒に飲食業界を変えないか?」と誘われたんです。

――OKの返事をしたということは、南里さんも鈴木さんと組むことに魅力を感じたのですね。

私は鈴木さんのことを「自分にない要素を、たくさん持っている人だ」と感じていました。鈴木さんがこれまで財務コンサルティングで培ってきた知見は相当なものですし、ボードメンバー同士でコミュニケーションをとる際のハブになってくれている。一緒に働くうちに、徐々に鈴木さんのすごさがわかってきました。

鈴木さんは私にないものを、私は鈴木さんにないものを持っている。お互いが手を組めば指数関数的に事業を大きくできる可能性があると思えました。だからこそ、フードテックキャピタルでCTOを担おうと決めました。


――前回のインタビューでは、鈴木さんの視点で飲食業界のDX化がなかなか進まない理由が語られました。南里さんは、DX化の遅れの理由をどのように捉えていますか?

いくつか理由がありますが、鈴木さんとは別の切り口で話すと、まずは他の業界と比べて飲食業界は優秀なIT人材が集まりにくい事業構造になっていることが挙げられます。仮に飲食店がエンジニアを雇って数百万円の年収を払ったとしても、そのコストに対してどのようなリターンが得られるのかがわかりにくい。そのため、IT人材の雇用に投資しづらい構造になっています。

さらに言えば、飲食業界は1店舗あたりの利益率が低い、または経営が小規模などエンジニアを雇うだけの金銭的な余裕のない店舗も多いです。そうした複数の要因から、飲食店でIT人材を抱えるのが難しいという事情があります。

また、外部のソフトウェアベンダーが、飲食店のニーズに応じたシステムを適切に要件定義・設計できないという課題もあります。飲食店向けのシステムを開発する際に大切なのは、現場で行われている作業内容を理解し、そのオペレーションに即した機能やインターフェースを開発することです。

しかし、受託開発では事業構造上、ソフトウェアベンダーが飲食店に足を運ばず、依頼された通りにシステムを作ることになりやすい。そのため、現場の人間にとって使い勝手の悪いシステムが生まれてしまいます。さらに、飲食業界の方々はソフトウェアについての知見がないため、ベンダーに適切な要望を出すことができません。

ソフトウェアベンダー側は飲食店の業務への理解が浅く、飲食店側はソフトウェアへの理解が浅い。両者の持つ情報の非対称性を埋めることができないため、開発がうまくいかないという課題があります。

他にも、飲食業の業務フロー全体を俯瞰したときに、システムでトラッキングしにくい情報が多いという課題もあります。たとえば、現金をいくらレジに入れたか、店員同士がどんなやりとりをしたのか、どのような方法で調理をしたのかといった情報は、デジタルデータとして記録することが難しい。すべての業務に関する情報をデジタルデータと連携させにくいため、システム化に難航していたという事情もあります。

また、現場のオペレーションが変わることに対する不安などを理由として、飲食店関係者が新しいシステムを導入することに抵抗があるケースも多かったです。

テイクアウト・デリバリーの課題解決にフォーカスした理由

――そうした現状を、フードテックキャピタルは変えようとしています。現在はフードデリバリー注文一元管理システム「delico」に注力していますが、なぜこのプロダクトを開発しようと考えたのでしょうか?


フードデリバリー注文一元管理システム「delico」

先ほど述べたような理由で足踏み状態でしたが、新型コロナウイルス感染症の影響により、テイクアウトやデリバリーの仕組みを導入しなければ事業継続できないという状況が生まれました。そのため、この領域ではデジタル化が一気に進みました。

しかしそれに伴い、複数のデリバリー・テイクアウトプラットフォームを導入するからこその煩雑さが生じてきました。店舗はサービスごとに別々のタブレット端末を設置する必要があり、それらのデータをまとめて管理するには人の手で別のシステムに入力し直す手間がかかります。

もちろん、こうしたプラットフォームの導入により売上が伸び、飲食店は助かっています。ですが、業務効率化のためにITを導入したのに、それによって別の仕事が生まれてしまうというのは、マッチポンプでしかなくDXではありません。この状況を多くの飲食店関係者が改善したいと考えているため、これらの課題を解決できるフードデリバリー注文一元管理システム「delico」には確実にニーズがあります。

また、このシステムならば自分たちが持っている事業アセットを有効活用できます。鈴木さんが財務コンサルティング事業で関わった飲食店や、フードテックキャピタルが経営する飲食店にシステムを導入することも可能です。さらに、私はFiNC Technologies時代にデバイスを含めたプロダクト開発をしていたため、その知見を活用できる強みもあります。

――南里さんがおっしゃったように、フードテックキャピタルは飲食店とのつながりが非常に強固です。エンジニアが飲食店に足を運んで現場のオペレーションを確認したり、飲食店との密な連携でカスタマーサクセスがニーズや課題を見つけたりする体制を実現できています。こうした体制だからこそ、実現できた機能の事例はありますか?

たくさんありますが、特に喜ばれたのは自動受注機能です。各フードデリバリープラットフォームでは、顧客からの注文が入ると、受注するかどうかを店舗側が判断してその都度ボタンを押します。食材が足りない、調理担当者の手が回らないなどの理由で、受注できないケースもあるためです。

しかし、飲食店の方々へのヒアリングを進めていくと、受注するためにボタンを押す作業が手間になっていることがわかりました。こういった意見は、直接ヒアリングしないとなかなか見えてきません。飲食店で働く人々は「システムの仕様や機能は変えられないのが当たり前」と思っており、多少不便でも我慢して使い続けてしまうためです。そこで、「受注を自動化できますよ」と提案したところ、ぜひとも欲しいとの要望をいただいたため、機能が実現しました。

この機能は、実装すること自体の難易度はそれほど高くありません。飲食店に寄り添いヒアリングすることによって、顧客が本当にほしいものを実現できています。私たちの開発体制の強みは、こうした“ちょっとした改善”を積み上げるための仕組みがあることです。

先ほど、ソフトウェア開発者と飲食店関係者に情報の非対称性がある、という話をしましたが、その壁を取り除けるような体制を構築できています。カスタマーサクセスや営業だけではなくエンジニアも現場に足を運び、課題を認識することが有効に機能しています。

それから開発体制の別の特徴として、フードテックキャピタルが運営する店舗や関係値の良い店舗を対象として、新しい機能を優先的に導入することもあります。実店舗で数日ほど運用したうえで、機能のブラッシュアップを行い、その後に他店舗へ展開するという流れです。

ソフトウェア開発の世界では、アプリケーションの新バージョンをまずは一部ユーザーのみに限定公開し、動作検証をしてから一般公開するカナリアリリースという手法がありますが、その考え方に近いですね。

――今後、フードテックキャピタルのシステム開発はどのように発展していくでしょうか?

「delico」は現在、デリバリー・テイクアウトの情報のみを一元管理しています。ですが、これらの情報だけでは実現・分析できることが限定されているので、今後は複数のチャンネルの情報を“つなげていく”方向で私たちのシステムは進化していきます。

モバイルオーダーやPOSレジなど、飲食店のすべての注文データを集約できるようにしたい。それ以外にも、店舗の他の種類のシステムと連携したり、デバイスを設置して人間のアナログな作業をトラッキングしたりすることで、デジタルデータに落とし込むといったことも構想しています。

これらの機能追加や構想を実現していくことで、次のフェーズとして生産管理やコスト最適化といった各種経営指標の改善にも、フードテックキャピタルのシステムを活用できるようにしていきたいです。

エンジニアリングの“総合格闘技”のような仕事

――どんなスキルやマインドのエンジニアがフードテックキャピタルの業務にマッチすると思いますか?

自主的に現場に足を運んで、課題を見つけて自分で実装して解決してしまうくらいのバイタリティーを持った人であれば、すごくマッチすると思います。私たちのシステム開発では、R&D(研究開発)で試行錯誤したり、自分たちができることの幅を積極的に広げたりする必要があります。わかりやすい正解がすでにあるわけではなく、自分たちの力で正解を見つけ出さなければなりません。

だからこそ、エンジニアに挑戦したい意志があれば、未経験の技術領域にもぜひ取り組んでもらいたいと考えています。また、デジタル化を推進するためにはスマホやパソコン、タブレットといった既存のデバイスだけでは無理だと思っているため、新しいハードウェアを開発するようなプロジェクトも構想しています。こうした新しい取り組みに対して、前向きな気持ちで挑めるエンジニアが向いているはずです。

論理的に物事を要素分解し、仮説検証できることも重要です。私たちが開発しているのは、タブレットやキッチンプリンターといった、複数のハードウェアを連携する統合的なシステムです。飲食店の現場で起きている事象を適切にモニタリングするには、データに基づいた仮説を立てながら、アプローチを考えることが何より重要です。そのためには、複数システムのデータの関連性を論理的に分析する必要があります。


それから、インタビュー中盤でも述べましたが、良いプロダクトを作るために飲食店と密に連携をとる必要があるため、適切なコミュニケーションや飲食店側の課題の抽出、工数管理や期待値調整などのスキルが必要になります。言うなれば、エンジニアリングの総合格闘技ですよね。ユーザーと真摯に向き合いながら、システムを改善することに喜びを感じられるエンジニアであれば、きっと働きがいがあると思います。

フードテックは世界的に見ても明らかに盛り上がりを見せていますし、どんどん市場が大きくなっています。2022年1月に開催された家電やデジタルの展示会「CES 2022」でも、フードテックという新しいカテゴリーができて、数多くの発表が行われました。

私は基本的に、エンジニアがより専門性を深められる環境とは、“お金が集まる場所”だと思っているんです。世の中の期待値が高まっているからこそ、積極的に投資が行われる。そして、多くのお金があるからこそ優秀なエンジニアが集まり、その関連技術がどんどん進化していきます。

これからの重要なカテゴリーとして、フードテックがあると思っています。解決すべき課題も山ほどありますし、この領域のなかでエンジニアとして多くのことを深堀りできるのは、相当に面白い。私たちが目指しているのは「すべての飲食店のハブになる統合プラットフォーム」です。今後もたくさんのプロダクトや機能を仕込みますし、私たちだからこそできる事業を展開していきます。

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