2月20日は寒さに身を固くしていた種子が芽吹いてしまいそうなほど、少し汗ばむぐらいの陽気だった。この日「MATSURI?」という疑問符を頭に載せた若者たち100名以上が、色とりどりの疑問や期待や好奇心を携えて東京大学、伊藤国際学術記念センターに集った。以前書いた「2023年度 MATSURI 上半期全体会」の記事では、現場で感じた雰囲気を「『ゴォォォッ…!』と文字が舞う」と表現したが、今、2月20日を振り返ると「むくむく」という丸っこい文字が柔らかな土を割って起き上がってくるイメージが浮かぶ。
その前に、「『“MATSURI” オープン・デー in 東京大学』って?」という方のために、概要を置いておきます!
2024年2月20日(火)、ちとせグループ率いるMATSURIは、プロジェクト発足以来初の一般向け業界研究イベント「“MATSURI” オープン・デー in 東京大学」を開催いたしました。本イベントには、出展企業としてMATSURIパートナーであるENEOS株式会社、株式会社資生堂、日本ガイシ株式会社、花王株式会社、株式会社三井住友銀行にご参加いただきました。 (ちとせグループ「業界研究イベント「“MATSURI” オープン・デー in 東京大学」を開催いたしました」より)
「誰かが作った物差しではなく、個人の意志を表現できるようにならないと新しい産業は生まれない。」
これは第1部 企業講演「世界を牽引するユニコーン企業の正体 ~企業群を束ねるトップが語る本音~」の中で、社長の藤田の口からこぼれた台詞だ。これまでに何度も彼の講演や執筆原稿は見ているが、その都度表現は違えど、これこそ彼の「本音」なんじゃないかと思っている。
その「本音」を、若者たちに向けた人生の指針という文脈で解釈するのなら「成熟した日本社会には様々な場面で誰かが作った『物差し』がある。それ自体が本当に正しいものなのか疑問を投げ続け、自分が正しいと思う行動を取って欲しい。」というメッセージなのだろうと感じる。
さらにMATSURI プロジェクトの文脈でこの「本音」を理解するならば「昨今、当たり前に存在する環境問題へのアプローチというのは、上辺だけのものではなく科学に誠実で本質的なものであるか、自分の頭で考え合理的な判断をしてほしい」ということなのだと理解した。付け加えると、その上辺だけの活動(=グリーンウォッシュ※1)を行うプレイヤーたちが、ある環境課題について「本当はまだ達成できていない」にも関わらず「できた」と声を上げてしまうと、その大声にかき消され正直に取り組むプレイヤーが妨害されることになってしまう。残念ながら世間には堂々とそれを行う企業や組織が、実は一定数存在するのだと、私自身ちとせに入り知ることとなった。
だからこそ私たちは真摯に科学に向き合い「できた」と「まだできない」を明確にし、実直に産業構築に向かって歩みを進めて行くのだ。それでも賛同してくれる誰かがいるのならば、仲間になろうと声をかける。その賛同は、はじめは一粒の種にすぎなくても、いずれ芽を出し、力強い幹となり、枝葉に分かれ、千年先まで続く実りをもたらすと私たちは信じている。その未来図を共有する仲間がMATSURIなのだと思う。
※1 グリーンウォッシュとは、企業や組織が環境に対する取り組みを偽装し、良いイメージを与えようとする行為。実際には環境に悪影響を及ぼす活動を続けながらサステナブルな姿勢をアピールすること。
「本気のサステナブルを実現するために、何ができるか。さんざん世界中を探し回って、MATSURIに行きついた」
資生堂 ブランド価値開発研究所 R&Dサステナビリティ&コミュニケーション部 循環型原料開発特任プロジェクトリーダー 小口希氏
そしてこんな言葉で賛同を示してくれた仲間がいる。小口希氏は「資生堂 ブランド価値開発研究所 R&Dサステナビリティ&コミュニケーション部 循環型原料開発特任プロジェクトリーダー」という肩書を持つ、資生堂をMATSURI参画へと導いた重要人物だ。この日、「循環型社会へ ~私たちの挑戦~」の講演で、資生堂の環境課題に対する取り組みや、MATSURI参画への「本気の」想いについて聞かせてくれた。
彼女は「見せかけではなく、『本気のサステナビリティ』アクションでなければならない。地球環境に貢献したつもりになってはダメだ。」と繰り返した。「ポーズ」だけでは納得しない、事実や理屈や環境収支を重視する小口氏の言葉には、原料部門の最前線で戦ってきた研究員としてのプライドを垣間見た。
そこから冒頭の「さんざん世界中を探し回って、MATSURIに行きついた」に繋がる。藻類由来の化粧品の上市に向けて、技術的、商業的な課題は山積みだけれども「誰かがやらなければならないのなら、私たちが第一歩目を踏み出しましょう」という姿には、業界を牽引し続けてきたトップ企業のフロンティア精神が感じられた。小口氏のたおやかな口調とは裏腹の気迫と覚悟を感じたのは、あの場で私だけではなかったと思う。これから千年の旅路を共にする仲間として、これほど心強いことがあるだろうか!
藤田の講演、小口氏の講演のあとは、ENEOS、資生堂、日本ガイシ、花王、三井住友銀行の出展企業に、会社説明とMATSURI参画理由をピッチ形式でご紹介いただいた。MATSURIへの想いや藻類に期待することは各人各様であったが、どの企業も環境課題の解決に非常に高いプライオリティーを置き、力を合わせて本気で取り組むのだという意志を示してくれた。
出展企業の集合写真
第2部では、参加者の興味に応じて企業ブースを自由に訪問できる形式の企業説明を行った。ちとせのブースには、MATSURIのフロントメンバーである林愛子が控えており、嬉しいことにこちらにも溢れるほど学生が集まってくれた。藤田の講演でMATSURIがどんなことを目指す組織であるかは何となく掴めたようだが、その中で実際にどんな働き方するのかはどの学生にとっても新鮮なようだった。時間を超過するほど質疑は止まらず、活発な意見交換がなされる場面もあった。次々と湧き出る瑞々しい好奇心に応えようと、林も声が枯れるまでひとりひとりに熱心に語りかけた。
そして、これらは参加者たちからの感想のほんの一部。
・産業構築に向けあらゆる業界を巻き込んで、時代を変えようとする熱い想いを感じました。
・サスティナブルという言葉はよく聞くが聞き流していた程度だったので、ぐっと心に来たものがありました。
・出展されている各企業の皆さんが、藻類に熱い思いを持っていて、非常に刺激をいただきました。
・経済的な光合成、という単語がとても印象的でした。大学等の講義で循環について学ぶ機会はありますが、ここまで主要ビジネスとして落とし込んでいるものはなかったように思います。
・現在就活中なのですが、「こんな熱い思いを持った方たちと働きたい」、「自分自身も入社後熱い思いを持ち続けていきたい」と素直に思いました。
この日、MATSURIは若者たちの心と頭にどんな種を残すことができただろうか。千年先の未来まで豊かに、というのはひとっ飛びで達成できるものではなく、こうして少しずつ世代を繋いで、いつの間にか地続きでたどり着いているものなのだと思う。これから社会に出ていく若者と、産業として育っていくMATSURIが、土の中で蠢く小さな命と重なって思える。春の訪れを待つ生き物たちよ、外に出るまでも大変だけど、出てからの方が大変らしい。嵐に降られたり、理不尽に誰かに踏まれたりしても、強く根を張ってひたむきに、大きくなっていこうじゃないか!
MATSURIプロジェクト
https://matsuri.chitose-bio.com/
藻類の大規模生産と事業化に強みをもつちとせグループが主体となり、日本を代表する企業群・行政と共にこれまで誰も成し得なかった藻類産業を構築するプロジェクト。MATSURIの名の通り、人類史上に残るお祭りとするべく、藻類の活用を通じたサステナブルな社会づくりを構築します。MATSURIでは、藻類産業の構築に向けて、業種や規模を問わず、更に様々な企業の皆様のご参加をお待ちしております。
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