第1話(全3話):この人だ!と感じたその一瞬を逃さない。プロダクトデザイナー石井聖己さんとの運命の出会い。
こんにちは。ご無沙汰しています!株式会社チカクです。
今回はプロジェクトの舞台裏を紹介できればということで、まごチャンネルデザイナーの石井聖己さんとカジケンさんによる、デザイン対談を三週間にわたってお届けします!今回は第一話です。
(『まごマガジン』転載 https://www.mago-ch.com/magazine/?p=298)
編集部:石井さん、はじめまして!
まごチャンネルのあの家型の受信ボックスをデザインされた方ということで、お会いできるのを楽しみにしていました。
今日はなぜまだ無名のスタートアップのまごチャンネルに関わろうと思ったのか、なぜあの形になったのか、いろいろとお話を聞かせてください。
石井:はい、よろしくお願いします。
編集部:石井さんとカジケンさんとは、どのような馴れ初めだったのでしょう?
カジケン:出会いはたしか、2014年の1月です。
企業が主宰するピッチコンテストで、自分がまごチャンネルのアイデアを話したときに、石井さんが聴衆として参加していたんです。
編集部:ピッチコンテストってなんですか?
カジケン:簡単に言うと、 サービスや事業のアイデアをプレゼンする場ですね。目的はいろいろありますが自分にとっては仲間集めでした。
2、3分の短い時間で自分の企画を紹介して、仲間になってくれそうな人や投資家に売り込むんです。
編集部:そこでカジケンさんの話を聞いて、石井さんはまごチャンネルプロジェクトに参加することを決めたと。
石井:梶原さんのプレゼンが、わかりやすくてすごく明確だったんです。
その場で名刺交換をした後すぐに、「デザイナーを探している」っていう連絡がきて、3日後には武蔵小杉のワイヤードカフェで会っていました(笑)
編集部:ムサコで(笑)
カジケンさんは、どうして石井さんにデザインをお願いすることに決めたんでしょう?
カジケン:名刺をもらって速攻で石井さんのことを検索したんですけど、ほぼ日やDysonのコンペでいろいろ賞を取っていたり、企業のプロダクトデザイナーとしても活躍されている実績があったのと、そもそもデザインの方向性自体、自分がすごく好きな路線でした。
ぜひ話を聞いてみたいなと思いました。
編集部:そのただ一度のチャンスを逃さなかったんですね。
石井さんはまごチャンネルに参画した当初は、企業でデザイナーとして働いていたとか。
石井:はい、大手メーカーのインハウスデザイナーとして働いていたときですね。
編集部:昼は大企業の社員として仕事をして。
まごチャンネルのデザインって、いつ作っていたんですか?
石井:夜の時間にやっていました。
これまでもコンペに参加して、思ったものをすぐに出すという鍛錬は積んできたので、手が動くのは早いほう。あと必要なのは、考える時間で。
編集部:そんな中で、いまは独立されたと聞きました。きっかけは?
石井:仕事が増えちゃって、ちゃんと自分のやるべきことができていないなと感じてしまったんです。
料理を作って、食べて、たまには友達と美味しいお酒を飲む時間もつくり、デザインをするという風にしていかないと、良いものって生まれない。
じゃあ会社辞めようと。もともと京都出身だったので、京都に移り住みました。
編集部:いまはどんな活動をされていますか。
石井:京都で生活しながら、仕事のため週に数回東京に上京しています。
京都って文化のある街で、改めて住むとすごく良いなって思いますね。コンパクトな街中に、老舗企業はもちろん様々なメーカーやお店があり、伝統文化だけでなく新旧の物事がうまく融合しているんです。文化庁も京都へ移転することが決まり、クリエイティブな物事の中心的な都市へと変わっていくのだろうなと思います。
一方でビジネスは東京の方が圧倒的に資本があり、西海岸的にやれて、いいとこ取りをしている感じです。
編集部:西海岸的? そういえば、石井さんは留学もされているんですよね。
石井:はい。フィンランドのラハティ応用科学大学のインダストリアルデザイン学科に一年留学して、その後スタンフォードのME310という、スタンフォード大学の授業であり、国際的なプロジェクトに一年参加しました。
フィンランドのラハティ応用科学大学校舎
石井:フィンランドは、交換留学の提携校でした。北欧デザインのイメージも良かったのでぜひ行ってみたいなと思い、軽い気持ちで手をあげたんです。向こうではデザイン教育が日本より進んでおり、国民のデザインへの理解度も高く、表現スキルからデザインのディベートまで幅広く工業デザインを学ぶことができました。
その後、フィンランドでの友人から声がかかり、日本の大学としては初めて参加することになったのがスタンフォードのプロジェクトです。
まだ大学も認可していないプログラムだったので、自ら交渉して交通費だけ確保し、フィンランドのアアルト大学の一員として、1年間アメリカとフィンランドを行ったり来たりしながらプロジェクトを完遂させました。
今ではその成果が認められ、母校のメイン国際プログラムになるなど、卒業後も大きく発展しています。
編集部:フィンランドとスタンフォード、それぞれでどんな気づきを得ましたか?
石井:フィンランドでは、ライフスタイルや生活についての気づきが大きかったです。
まず、日本ほど便利でないんですね。たとえば日曜はスーパーが閉まっていたり、外食も値段が高い割に美味しくなかったり、バスが全然来なかったり。
でもそれを怒ってもしようがなくて、次第にその不便さを受け入れて楽しもうとします。そうすると物事に余裕が生まれてくるんですね。
週末食べるものないから誰か誘ってホームパーティーしようとか、どうせバス来ないからちょっと歩いてみようとか。特に自然をみたり感じたりする時間はたっぷりあったように思います。
そうしたちょっとした余裕が生活の幅を広げてくれて、自分主体の生活の価値観を持つことができました。
便利≠豊かさということに気づけたのも、北欧での生活があったからです。
スタンフォードでの授業の様子。試作したペーパーバイクの試験
石井:一方スタンフォードでは、いろいろな価値観と課題感やバックグランドを持つ面白い人たちが、ものすごいスピードでトライアンドエラーを実践していて、そのダイナミックさを学びました。
一言でいうと精神的にハングリーなんです。「企業に就職するやつは負け犬だ」という言葉があったぐらい、優秀な人ほど起業して成り上がる風潮が強かったですね。
在学中から資金を集めて起業する人が多く、「自分たちのサービスや商品で世界を変えるんだ」という気概があちらこちら渦巻いていて、それが当たり前の環境でした。盛大に失敗することを許容する文化やシステムがあったことも大きな違いでしたね。
日本に帰ってみると、学生は真面目に就職活動をして企業人を目指すというのが当たり前で、自分がいた環境はこんなにもぬるかったのかと、目から鱗が落ちました。
編集部:なるほど。フィンランドではデザイン学に加えて本質的な暮らしの豊かさや人生観に触れ、京都に移住しそれを実践している。
一方で西海岸的ビジネスマインドも大切にし、ダイナミックな流れをキャッチアップするために、東京との接点も維持し続けているんですね。
カジケン:石井さんって、議論するときに全体感の地図がしっかりあった上で「なぜこのアウトプットになったのか」を論理と共に示してくれるので、ビジネス畑どっぷりだった自分にとってとてもやりやすいです。
もちろん論理的なだけでなく、良い意味でエゴイスティックな感覚的な部分もあって。
編集部:デザインと人生観とビジネス、別軸にありそうなものの境界線をなくし、右脳的な閃きとビジネスに落とし込むための論理思考のバランスも磨かれていったのですね。
確かに「まごチャンネル」の小さな筐体にも北欧的なデザインや京都に残る和の伝統に象徴される、余計なものを削ぎ落としつつ追求した上質さや、あらゆる人にテクノロジーを近づけその恩恵を受けられるようにしたいという会社のビジョンが込められているように思います。
では次は、石井さんのデザインの進め方について、具体的に聞いていきたいと思います!
SEIKI DESIGN STUDIO 代表
石井 聖己(いしい せいき)氏
http://www.ishiiseiki.com/
GOOD DESIGN AWARD best100, IF DESIGN AWARDなど、国内外でのデザインアワードを多数受賞。Lahti University of Applied Sciences ,Industrial design (Finland) / Stanford University ,ME310 Project (USA) / 京都工芸繊維大学 大学院デザイン科学専攻 修了
おなじみ、我らが「まごチャンネル」のチカク社長かじけんこと梶原健司氏。
(photo:木内和美 text:ひらばるれな)