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「ビジュアルづくりだけがデザイナーの仕事ではない」 デジタル庁 鈴木伸緒 さん

BCG Digital Ventures※(現BCG X)でPartner & Director, Experience Designを務める花城泰夢がゲストを迎え、デザインに関するトークセッションを行うシリーズ企画「DESIGN MEETUP」。

※ 本イベントは2022年12月にBCG Digital Venturesとして主催されたものとなります。BCG Digital Venturesは、他のデジタル専門組織とともに統合され、新たにBCG X(エックス)と名称変更致しました。

今回のゲストは、最近デジタル庁にデザイン・マネージャーとして入庁した鈴木伸緒さん。以前所属していたメルカリでは、事業成長に寄与するデザインに向き合い続けてきましたが、なぜIT企業から行政へと転身したのでしょうか。事業によって変わるデザインの役割や、デザイナーとしての職務範囲など、デザイナーという職業のあり方について語り合いました。

■ プロフィール

鈴木 伸緒(すずき・のぶお) デジタル庁 / デザインマネージャー

2022年11月よりデザインマネージャーとしてデジタル庁に入庁。専門領域はデジタルプロダクトの体験設計とUIデザイン。 前職、株式会社メルカリではフリマ事業の海外展開や、決済・本人確認・与信を用いた後払いサービスなどのFintech事業、事業者向けECプラットフォーム事業などにデザイン・マネージャー、デザイナーとして携わる。

花城 泰夢(はなしろ・たいむ) BCG Digital Ventures/ Partner & Director, Experience Design

2016年4月、BCG Digital Ventures Tokyo(現BCG X) の立ち上げから参画。東京拠点のExperience Designチームを牽引し、ヘルスケア、保険、消費財、金融などの領域で新規事業立ち上げやカスタマージャーニープロジェクトを実施。日本のみならず、韓国でも金融や小売業界にて新規事業立案やカスタマージャーニープロジェクトを行ってきた。UI/UXを専門領域としている。

クライアントワークから事業開発へ。変わっていった“デザイン観”

花城:実は、伸緒さんは3年前の「DESIGN MEETUP」第1回でゲストとして出演していただいています。当時はメルカリにいらっしゃったのですが、今はデジタル庁で新たなキャリアを歩み始めたそうですね。これまでのキャリアについてお話しいただけますか?

鈴木:キャリアのスタートはWebデザイナーで、コンペに参加して企業のコーポレートサイト制作を受注するといった働き方でした。その後、スマホ黎明期にサイバーエージェントに入社して、新しく立ち上げるスマホアプリのデザイン回りを担当しました。

花城:最近まで働いていたメルカリも長かったですよね。

鈴木:そうですね、メルカリには7年ほど在籍していました。毎年違ったプロジェクトに参画して、海外展開だったりフィンテック事業の立ち上げだったり、幅広く携わりましたね。メルカリはCtoCのフリマから始まりましたが、一つひとつの事業を増やして広がった「点」を「線」で結んでいく経営スタイルが好きでした。自分が成長している実感もありましたし、成果を上げると事業も成長するので、会社の成長とともに歩んできた気がします。

花城:メルカリはインターネットで完結しない事業だと思います。デザイナーとしてどのように取り組んできたのですか?

鈴木:商品の間違いや配送のトラブルなど、メルカリは事業で取り扱う領域が広いのが特徴。わかりづらいデザインは操作ミスを招くので、入社当初はデジタルで追いきれない「体験」がプロセスに組み込まれていることへの不安を強く感じていました。ユーザーインタビューで「どういうときに迷うか」「どこで間違えやすいか」などを聞き、どうすれば体験を向上できるかいつも試行錯誤していました。

人は、同じことを3回繰り返すと購買行動として習慣化しやすいそうです。なのでメルペイでも細かな部分まで伝え方・表現をメンバー同士で議論し、つまずきそうなポイントは先回りしてガイドを表示して、Q&Aに飛ばなくてもわかるくらいの明瞭さを心がけていました。

花城:メルカリの中でもいろんな事業に携わってきて、発見はありましたか?

鈴木:フィンテックは「後から直しにくい」領域ということでしょうか。セキュリティも含めてお金を扱う責任が重いので、作る難易度も高ければ、直す難易度も高い。そういう意味では、インダストリアル・デザインに近いと思います。自動車も後で直そうとするとリコールになっちゃいますよね。そんな緊張感を持ちながらアジャイルに対応しなければいけないのは大変でした。

花城:その瞬間の体験だけでなく、その後の影響まで加味してデザインを考えるのは、デジタル庁へつながっていく布石のようにも思えますね。

鈴木:そうですね。実際にサービスを利用する生活者のお金の使い方についてリサーチすると、個人や家庭の生活にディープダイブせざるをえないんです。何人暮らしなのか、どこに住んでいるのか、家族の中で誰がお金を管理しているのか、金銭感覚はどうなのか……。お金に関してはみなさん本当に多種多様で、一般論にまとめきれない。それを知ったことで、世の中の見え方が変わったんじゃないかと思います。この経験なくして、デジタル庁に入ろうとは思えていなかったかもしれません。

花城:BCGDVでもプロジェクトによっては300人、400人とユーザーインタビューをすることはありますが、伸緒さんは特定の「ペルソナ」というより、「日本人」を構成している多様な「N」のストックがあるので、人を見る目の解像度が高そうですよね。

鈴木:関わったサービスの特性上、確かに多様な「N」に共感する必要はありましたね。自分自身で行ったユーザーインタビューはそんなに多くないですが、自分が作ったデザインをものすごい人数に見てもらった経験はあります。だから、自分のデザインをあまり信用しなくなりました。一発で正解にたどり着くわけないと思いながら毎回作っているので(笑)。

花城:それはわかります。僕も自分でゼロからデザインを生み出すというよりは、ユーザーと向き合う中でいかに自分からバイアスを外して、受け入れられるデザインを生み出せるかが大切だと思うようになりました。

鈴木:デザイナーを志していた若い時は、平面的なデザインの美しさに囚われがちだったように思います。自分のデザインがイケてればユーザーに選んでもらえる、みたいな。でも経営者や事業オーナーは見た目のかっこよさを求めているわけではなく事業の成功を求めているので、噛み合わないんですよね。

そこに気づけたおかげで、クライアントワークとしてのデザインから、事業のデザインへ移行する際の壁を越えられたのだと思います。クライアントワークのデザインは納品やリリースがゴールだと思うのですが、事業のデザインはリリースがスタート。事業の中でデザインが本当にワークしているかを確かめて、スケールさせていくのが役割なので。

ビジュアルを整えるだけが、デザイナーの仕事ではない

花城:以前、デザイナーの働き方について説明能力を上げる必要があると言っていましたよね。自分はデザイナーの仕事だと思っているけれど、一般的にはデザイナーの職務ではないと捉えられている仕事に、どう向き合っていくか。

鈴木:デザイナーの仕事って、スライドを作るとかUIを綺麗にするとか、ビジュアルを整える仕事というイメージが一般的には強いと思います。ですが僕は、先々のビジョンやロードマップをファシリテーションしながら、サービスとして目指す未来のたたき台を作って議論を深めるることがデザイナーの仕事だと思っているんです。

そこはもう言葉で「これもデザイナーの仕事です」と説明するより、行動するほうが早いと思っています。表明するのではなく、実際に動いてしまう。イメージとしては、PM(プロダクトマネジャー)に近い動き方かもしれません。オーバーラップする部分もあると思うので、PMと協力しながら動いています。

花城:BCGDVの「ストラテジック・デザイナー」という職種がまさにそうですが、メンバーが働きやすい環境を作るところまで含めてデザインの一部ですよね。PMがデザイン領域まで担うのはけっこう大変なので、「Co-PM(共同PM)」のように補完関係になるのはいいですね。

ちなみに伸緒さんがこれまでのキャリアで壁を感じたことはありますか?

鈴木:特に感じたのは一番最初なのですが、デザイナーになるための門の狭さですね。僕はリーマンショック時代の就活生だったこともあって、就職にはかなり苦労しました。どの求人もデザイン未経験は門前払い。企業は「優秀なデザイナーがほしい」と言うけれど、デザイナーが育つ場所が少なすぎると思うんです。その経験があって、後輩やデザイナー志望の人にはいろんなことをシェアしたいと思うようになりました。

花城:育成やマネジメントで心がけていることはありますか?

鈴木:1on1をするときは、①自分の姿勢をはっきりさせること、②信頼関係を築くこと、③コミュニケーションや問題解決の手段を授けることを意識するようにしています。

例えば①に関しては、僕は1on1では業務やタスクの話はしない方針なんです。業務の話はPMやエンジニアを交えたほうがいい場合もあるし、それならばミーティングをセットしましょうと。それよりキャリアの話など、コーチングのような場にしたいと思っています。

それから、フィードバックはストレートにガツンと指摘したほうがいいような風潮がありますよね。僕はそれはちょっと嫌なんです。1on1で満を持して指摘するよりは、日常的に言いあえる関係性のほうがお互いずいぶん楽ですよね。そのためには信頼関係が必要なので、マネジメントにおいても関係構築を大切にするようにしています。

助言も自己研鑽も、経験があってこそ活きるもの

花城:ご自身のスキルアップという面ではどうですか?何か意識していることはありますか?

鈴木:「7・2・1の法則」というものがあります。人の成長の7割は「経験」から、2割は「アドバイス」から、1割は研修などの「自己研鑽」から得られるという研究結果が出ているんです。僕もこの法則通りで、座学で学んでいても早く実践したくなってしまう。実務から学ぶのが性に合っているので、とにかく経験することは意識しています。

自分の軸に隣接する仕事を経験して周辺領域を強化していくと、軸に戻ってきたときにレベルアップしているんです。結果論かもしれませんが、これまでいろいろな事業ドメインに挑戦しているのも、それを意識しているからなのかもしれません。

花城:2割のアドバイスと1割の自己研鑽が、7割の経験に還元されて、成長のためのいいループができるといいですよね。

鈴木:この法則が示しているのは、結局トレーニングドリブンで学んでもあまり効果がなくて、経験を通して足りない部分をアドバイスやトレーニングからインプットしていったほうが、アドバイスやトレーニングがより活きてくるということだと思います。

花城:わかります。僕もいろんな研修に行きますけど、研修はこれまでの経験の言語化やサマライズをする時間だと思うんですよね。だから、経験なくしてトレーニングをレバレッジさせられないというのはすごく共感します。伸緒さんが今回デジタル庁に入ったのも、経験の種類を広げるためですか?

鈴木:そうですね。ちょっと期待外れな答えかもしれませんが、転職を考えるようになったきっかけ自体は「勢い」というのが正直な答えです(笑)。真面目に言うと、民間と行政ってこれまで行き来するような場ではなかったので、新しい働き方を求めていたのはあるかもしれません。働く場所が変わるとお客さんや環境が変わるので、デザインの捉え方も変わるんじゃないか。新しい解像度を得たかったのが理由としては大きいです。

花城:IT企業から行政。周囲からは驚かれたのでは?

鈴木:そうですね。「デジタル庁にいくんです」と言うと「え、なんで?」と言うリアクションが多かったのですが、一見予想外な選択肢をこれからも選んでいきたいです。その方が、学べる幅がより広いんじゃないかと思っていて。

転職することが決まったとき、よく「フリーランスになるんですか?」って聞かれたんです。でもフリーランスになるつもりはまったくなく、組織に所属することしか考えていませんでした。

花城:どうしてですか?

鈴木:組織にいると上手くいかないことのほうが多いじゃないですか。上手くいかないことをどう改善するかを頭をひねって考えるのが、一番自分の経験値につながると思っていて。僕が事業会社を選び続ける理由はそこなんだろうなと思います。

花城:メルカリでスタートアップからメガベンチャーへの成長を見届けた鈴木さんが、今後のデジタル庁でこれまでの経験を活かして活躍されていくのを楽しみにしたいなと思います。デザイナーのキャリアを考える上での一つのロールモデルとしても期待しています。

本日はありがとうございました!

※ 本イベントは2022年12月にBCG Digital Venturesとして主催されたものとなります。BCG Digital Venturesは、他のデジタル専門組織とともに統合され、新たにBCG X(エックス)と名称変更致しました。

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