株式会社bajjiのファウンダー・小林慎和は、これまでに通算5社の創業を経験してきました。2022年11月、初めて起業してから丸10年の節目を迎えた小林に、当社の社員がインタビュー。「連続起業家」とも呼ばれる小林の原点を聞きました。
やりたいことって、どうやって見つけるのだろう?
小学校で発表する「将来の夢」から始まった、「将来やりたいことは何ですか?」の問い。進路選択、就職活動、そしてその後も、やりたいことの説明を求められる場面に出くわす。
そのたびに考えてはみるものの、ずっと「やりたいこと」がわからないまま。だから自分のやりたいことをまっすぐに見据えている人が、まぶしく見える。「起業家」はまさにそんな存在だ。
起業家は、「やりたいこと」をどのように見つけているのだろう。
そんな疑問を、身近で最も起業回数が多い人に聞いてみることにした。初めて創業してから10年が経った、株式会社bajjiのファウンダー・小林慎和。これまで5社を起業してきた小林に、その原動力を聞いた。
やりたいことを決めるよりも先に、起業したいと思った
いつ起業したいと思うようになったんですか?
まずはそう問いかけたところ、迷うことなく返ってきた回答は「20歳のとき」。その前後、学生時代の話から聞いてみよう。
大学に進学するとき、小林が選んだ学科は情報工学科。理由は、センター試験の直前にたまたま観た番組に影響されたから。パソコンは持っていなかった。
めでたく入学した4月、初めてキーボードに触るところから始まった大学生活。授業を受けながらITの可能性を確信していった先に、起業を志すきっかけに遭遇する。
1995年11月23日、Windows 95の誕生。
それまで高価で専門家に向けたアイテムだったパソコンに、誰もが操作しやすいGUIを備え、家庭で購入可能な価格で発売されたWindows95。一刻も早く手に入れたい人が秋葉原に詰めかけて、大変なお祭り騒ぎだったという。
小林は、世界を大きく変化させる波を目の当たりにした。
「大学にWindows95のパソコンが導入されて、まずはInternet Explorerを開いた記憶があります。その後もずっと、Windows95のニュースばかり。MicrosoftやYahooなどの名前が周囲に飛び交うようになり、ITが大きく変化しようとするうねりがありましたね」
そんな時代のうねりを体感した小林は、「社会にインパクトを与えるビジネスがしたい」と起業を決意。意外にも、やりたいことが決まっていたわけではない。
「やりたいことよりも、起業したい気持ちが先にありましたね」
膨らんでいった起業への不安に打ち勝てた理由
思いが固まったものの、周りには起業の経験がある人が一人もいなかった。ビジネスを学びたいと考えた小林は、経営コンサルティングの仕事を選ぶ。
大学院を卒業後、野村総合研究所に入社。マーケティングから海外展開支援、買収まで、ビジネスのさまざまな側面に携わってきた。
入社前から起業を見据えていた小林は、毎年自分にテーマを課し、着実に達成していく。
「決めないと結果は出ない。決めた以上はやる」
入社4年目には、1億円を稼いで退職しようと決意していた。しかし目標をクリアしたものの、事業会社への転職を検討し始めた小林は行き詰まる。
「転職しようにも行きたい会社が見つからないし、かといって、いきなり起業するほどの根性もない。やりたいことがなくて、特に4年目の頃は悶々としていました」
悩みながらも、所属部門において最大となる3年間のプロジェクトを完遂。合計9年の勤務の後、ついに転職する。転職先はグリー株式会社。ここでの経験が、小林の背中を押すことになる。
入社した当時350人だった社員数は、1年7ヶ月後に退職するときには2200人に膨れ上がっていた。売上は50億円から1500億円へ。グリーの創業者・田中良和の名前が世界中を駆け巡っているさなか、グリーのシンガポール法人を立ち上げるために現地に移住したことが、小林に大きな影響を与えた。
「世界中の起業家が『グリーの成長の秘訣を知りたい』と、シンガポール法人にいる私のところに訪ねてきました。彼らと会ったらまず『何の事業から始めたか』と聞くんです。そうすると、現在手がけていることと全然違う事業から始めていることがわかります。
何百人もの起業家と話して、この人たちと自分とは何が違うのかを考えました。見つけた違いは、『動いているかどうか』。最初の事業がうまくいかなくても、動いていたら次のヒントが見つかる。彼らとの出会いのおかげで動き方を知れて、起業が怖くなりましたね」
こうして2012年11月1日、37歳の小林はシンガポールにて初めて起業する。20歳でWindows95に出合ってから17年後のことだった。
※本記事のサムネイル画像は、2013年11月、ピッチイベント「THE CHAOS Asia」第1回をシンガポールで主催した際のもの。
だからこそ、「起業家」を10年続けてきた
通算5社を創業してきた小林の起業家としての歩みは、2022年11月1日で丸10年になった。この10年は、シンガポールで学んだ「動き続けること」を実践してきた軌跡そのものだ。
「起業してからずっと、どんどん動くようにしています。コンサルタントだった頃は常に分析してリスクを考えていたから、会社を辞められず、起業もできなかった。だから起業してからは、迷ったらやる、分析はしない、リスクが高くてだめだと思ってもやる、と決めたんです」
小林がこれまで手がけてきた事業の内容は、コンサルティングからECサイト、飲食業まで非常に多岐にわたる。それぞれの「やりたいこと」をどう決めてきたのだろうか。
「きっかけは全て、出会いです。自分がいる環境が固定化してきたなと思ったら、数年会っていない人に会いに行って、ヒントや刺激を得る。そうやって動いていたらきっかけと遭遇して、ピンときたらすぐにやってみる。その繰り返しです。だから、やりたいことを見つけようとしなくてもいい」
やりたいことを見つけるために動くのではなく、動くからやりたいことが見つかる。
小林は10年間ずっと動いてきたからこそ、その都度やりたいことをテーマに掲げて5社の創業を経験してきたのだろう。
▲小林が次なるチャレンジのキーワードとして掲げるのは「脱炭素」。脱炭素社会の実現を自分ごとに変えるアプリ「capture.x」のリリースに向けて奔走している。
一方で、動き続けてどんどん変化しているからこそ、小林のやりたいことは外から見るとわかりづらいかもしれない。「やりたいこと」を決める基準は、どこにあるのだろうか。
「自分のミッションとして、『日本から世界を席巻するような証(サービス)を産み出さねばならない』という言葉を掲げています。
せっかく生まれたからには、地球に爪痕を残したいじゃないですか。そのために毎日過ごしているので、起業してからずっと、仕事をしているのではなく思いっきり生きている感覚です」
やりたいことは、先に決まっていなくてもいい。自分から動いていれば、そのときやりたいことがきっと見つかっていく。
小林が起業家になり、そして起業家として生きてきた道のりに、「やりたいことがなくても、動き続ければいいよ」と背中を押してもらった気がした。
起業するということは、できることをやることではありません。社会が必要とすることをやりきることです。変革するために必要なことを、どうにかすがりつき、やり抜くことです。
現在地から見える景色を見るのではなく、目標とするものを見るために必要なことを見出し、歩き始めることです。毎日毎日、自分の限界を超えたラインを、再設定し続けることなのです。
『海外に飛び出す前に知っておきたかったこと』 著:小林慎和
小林が起業10周年に合わせて執筆したnote「起業してから10年間に起こった101の出来事」には、このインタビューには登場していない、起業してからの10年がまとまっています。5社を創業してきた歩みに興味を持たれた方、ぜひご覧ください。
https://note.com/noritaka88ta/n/n7599ecaed258
そして、小林がリリースに向けて現在力を入れているアプリ「capture.x」についてはこちらに情報をまとめています。事前登録も受付中です。
https://capturex.world/
(執筆:菊池百合子)