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人の幸せは、人生でどれだけ笑ったか。そのために教育×テクノロジーが出来ること。今、150年変わらなかった日本の教育にイノベーションを起こす。

atama plus株式会社を立ち上げるまで

■■■経歴■■■

2006年に東京大学大学院 情報理工学系研究科電子情報学専攻修了、三井物産株式会社入社。新規事業立ち上げを担当した後、2009年より2度のブラジル駐在(通算5年間)。ベネッセブラジル(ベネッセと三井物産の合弁会社)の立ち上げ、南米最大手EdTech企業の執行役員、三井物産の日本国内教育事業統括等を歴任した後、退社。2017年4月に大学時代の仲間とともにatama plus社を設立。


教育分野に強い関心を持ったのは、学生の頃からですか?どんな学生時代を過ごしていたのか、聞かせてください。

大学時代は“教育につながるきっかけ”というよりも、“自分の人生の使命”を見つけることができました。それが今につながっているかもしれません。

高校時代は、数学と物理が大好きで、超難問を半日かけて解くのが趣味というちょっとヤバいヤツだったんです(笑)。そういう思考を極めたいなと思って東京大学の理科二類に進学したんですけどね。

実際は「学問の追求」以上に大きなものが見つかりました。「人の笑顔を世の中に増やす」という人生の目的を見つけ、その手段として「今は存在しない新しい価値を生み出す仕組みを作りたい」と思うようになりました。


「笑顔を世の中に増やしたい」と思われたきっかけがあるのですか?

大学のWEEKENDというテニスサークルでの経験ですね。

テニスの団体戦で代表選手だった時に、何としても仲間と共に勝ちたくて、試行錯誤するうち、「笑顔の持つ偉大な力」に気づいたんです。団体戦で勝つには日々のトレーニングと同じくらい、サークル内の仲間意識や信頼関係、そしてサポーター(応援者)が重要なんです。それで、僕らのサークルはサポーターを増やすために、テニス以外にお笑いコントも企画するようになったんですね。意外だと思われるかもしれませんが、“あいつら面白いな”、“テニスが得意じゃないヤツでもあのサークル行くと楽しいぞ”って思われると、すごい求心力が働きます。試合会場にたくさんのサポーターに来てもらいました。僕を含め、選手たちも「ここで勝たなきゃ!」という思いが強くなり、結果試合を勝ち進めることが出来ました。

最初は勝つことが目標でしたが、気づいたら “笑顔”を中心にみんなが一つにまとまっていました。人の笑顔を創るって楽しいなあと。

それで、「人の笑顔を世の中に増やす」ということが僕の人生のテーマになっていきました。

実はこの時、一緒に中心となってサークルを盛り上げていたのが、atama plusを一緒に起業した中下です。彼との出会いも僕の人生に大きく影響しました。


「新しい価値を生み出す仕組みをつくる」と決めたきっかも教えてください。

これは大学や大学院で研究していた経験が影響しています。

ITの可能性を感じていたこともあって、電子情報学を専攻しました。エンジニアとしての学びも充実していましたが、重要なのは“新しい技術を使って世の中にどう価値を提供するか”だと思ったんです。“価値を提供する仕組み”は新しいビジネスを創ることで実現できると思い、ビジネスも学ぼうと決めました。

その時、同じ学部で学部代表を務めていたのが、atama plusのCTOである川原です。

研究では“研究室内で称賛される技術”よりも“多くの人の価値(喜び)につながる技術”を開発したいと考えました。そのうえで、“価値を提供する仕組み”も作りたいなと。それで、新しい画像処理技術を開発して特許を申請し、携帯電子コミックのビジネスを考えて企業に売るということをしていました。

ビジネスの学びとしては、東大アントレプレナー道場の第一期生になり、お笑いに関連するビジネスプランで準優勝したことも大きかったです。次第に“新しい価値を提供する仕組み”を考えることに強い興味を持つようになりました。


大学時代の経験から考えると、三井物産という大企業に就職されたのが意外に思えます。何か理由があるのですか?

冒頭の部分に戻るのですが、「人の笑顔を世の中に増やす」ために、「新しい価値を生み出す仕組みを作る」ことができる環境を探していました。新しい価値は色々なものの組み合わせで生まれるので、リソースがたくさんある会社で新しい産業を創るのが良いのではないか思ったのです。

それで、世界各国で様々な産業を持ち、資金も豊富な三井物産なら、色々な組み合わせで新しい産業を創出できるのではないかと考えて、入社を決めました。


入社当初はどんな仕事をしていたんですか?

新規事業の立ち上げを担当していました。入社2年目でゼロベースから全く新しい広告事業も立ち上げました。

ただ、その広告事業をローンチし、一人目のユーザーの反応を見た時に気づいてしまったんです。「サービスを利用しているユーザーさんの笑顔がないぞ。新規事業の立ち上げは面白いけれど、これ僕のやりたい事だっけ?」と。笑顔を創る事業がやりたいと、強く認識しました。

このショックがきっかけで、ブラジルに行くことにしました。


「ショックを受けてブラジルに行く」というと、なんだか不思議な感じです。なぜブラジルに?

新しい事業のアイディアは、自分の知っている価値観の組み合わせからしか生まれないと思うんです。当時の僕は、似たような価値観の人に囲まれて居心地が良く、価値観の幅が狭くなっていることに気づきました。

それで、今までの自分の価値観を打ち砕くような環境に身を置きたいと思ったんです。
会社の研修制度を利用してブラジルへ渡りました。

ブラジルはいろんな意味で日本とは真逆です。当時の日本はGDP世界2位であるにも関わらず、自殺者年間3万人以上という状態が10年以上続いていて、とてもハッピーな国とは思えませんでした。一方、当時のブラジルは、アフリカ諸国に次いで貧富の差が激しい経済状況なのに、「自分は幸せだ!」と感じている人の割合が世界で最も多いと言われていたんです。そこに笑顔創りのヒントがあるかもしれないなあと。

ブラジルでは、みんながハッピー、みんなが笑顔な理由を突き止めるため、家庭、宗教、音楽、恋愛、友人など僕自身が完全にブラジル色に染まってみました。カーニバルで踊っていたら、テレビ局に取材されてその映像が翌年のカーニバルのCMになってしまったんですよ。その時期はブラジル中の人がお茶の間で僕の踊る姿を毎日見ていたことになりますね(笑)


ブラジルの価値観にどっぷりと浸かる中で、どんなことに気づいたんですか?

色々な経験をしてみた結果、ブラジル人が笑顔なのはアウトプット、つまり“自己表現をする力”が高いからだと分かりました。サンバを踊る時もそうですが、日常的に“自分の思っていることを発言し、表現する力”がすごいのです。

ブラジルの公立高校にも3か月間入り込んで研究したのですが、ブラジルの高校生の自己表現力を痛いほど感じました。

一方の日本は、幼児期は表現力も豊かで、アウトプットする力があるのに、小学校の高学年あたりから急激にその力が衰えてしまいますよね。調べてみると、日本の教育はこの150年間ほぼ変わっていないこともわかりました。逆に言えば、この小中高時代をアウトプットする力を伸ばせるような環境に変えれば、日本の笑顔が増えるのではないかと思ったんです。

その時、「たくさんの人を笑顔にする仕組みづくり」は「教育」を通じて実現できるのではないかと強く思いました。


「教育事業への思い」をどうやって事業に結びつけたのですか?

当時の三井物産には教育事業が存在しませんでしたので、日本に帰国してから、新規事業立ち上げを行う部署に行きました。当時の僕は、ブラジル教育のエッセンスみたいなものを日本に伝えたいという思いがある一方で、日本の教育の良いところをブラジルに持っていけばいい意味での化学反応が起こり、日本でもブラジルでも笑顔創りを行う第一歩が踏み出せるのではないかと考えていました。

そこで、日本の最大手教育業業者であるベネッセとの交渉を始め、2013年の4月にベネッセと三井物産の合弁会社“ベネッセブラジル“を立ち上げて再びブラジルへと渡りました。

ベネッセブラジルでは、三井物産側の代表として事業運営を行っていましたが、残念ながら諸事情により途中で解散となってしまいました。

ブラジルで教育事業を開始し、次第にテクノロジーの活用で教育は大きく変わるということを肌で感じるようになりました。それをきっかけに、グローバルなEdTech(教育×テクノロジー)企業の調査を開始し、南米で最大手のEdTech企業に出会いました。そこの創業者と意気投合し、その会社に出資して執行役員として常駐することになりました。

そこではテクノロジーによって学びの新しい価値を500万人以上の生徒たちに提供していました。経済状況が良いとは言えない地域の公立高校でも、生徒は質の高い教育を効率的に受けることができ、アウトプットする力を養う時間と環境が整えられていました。

僕自身、学生時代はエンジニアでしたので、最先端のテクノロジーによって、たくさんの笑顔が生まれている状況を目の当たりにして感激しました。日本でもEdTechで笑顔創りができるはずと確信し、日本に帰国しました。


日本でのEdTechサービス提供を模索する中で、起業するという結論に至ったのですか?

帰国後は三井物産の日本国内の教育事業統括として、日本の教育にEdTechサービスを導入するために奔走していました。なので、起業するという選択肢は念頭にありませんでした。

ただ、日本の大手教育事業者さん達との協業を進めていましたが、大きな会社同士の足並みをそろえて進めるとなると、個々がどんなにスピードアップして対応しても時間を要するんですね。一方で、世界のEdTechへの潮流はどんどん大きくなっていて、日本の子供たちが取り残されるのではないかという焦りを感じるようになりました。

これはゼロベースで、規模は小さくてもまず一歩を踏み出す必要があるのではないかと思い始めました。そして、お世話になった三井物産の皆様に、僕自身の思いを伝え、独立して起業するという結論に至ったのです。ここまで僕を育ててくれ、かつ暖かく送り出してくれた三井物産には本当に感謝しています。

そこから急ピッチで起業の準備を始め、2017年4月にatama plusを立ち上げました。

atama plus株式会社について

atama plus社の事業内容について教えてください。

僕たちのミッションは「教育を通じて、自分の力で夢を実現できる人が溢れる未来を創る。」ことです。そのために「教育×テクノロジーを駆使して、個人に最適化した学習を提供し、基礎学力の習得を最短化すること」、そして「既存の学習時間を圧縮したことによって生まれた時間を活用し、社会で生き抜く力を養う教育を提供すること」が必要だと思っています。

今は基礎学力の習得を最短化することにすべてのリソースを注いでいます。

具体的にはAI(人工知能)によって生徒一人ひとりの「得意」「苦手」「つまづき」「集中状態」などをリアルタイムで分析し、「自分専用レッスン」を作成するサービスを提供しています。


atama plus社として今、一番大切にしていることを教えてください

「ユーザーが熱狂するプロダクト開発に徹底的に拘る」ことですね。エンジニアもビジネスサイドもその視点を忘れず、業務に取り組んでいます。「生徒が熱狂しているか?」は日常の会話にも頻繁に出てくるほど、社員の価値観として浸透していますね。

僕たちのサービスを導入するときは、必ず生徒の反応を直接見ることにしています。僕に限らず、エンジニアも現地に行きます。それによって、データだけでは得られない生徒の反応を感じ、次の改善に活かすのです。

また、僕自身は“生徒と直接話す場”を持ち続けています。徹底的に生徒と向き合って学びをサポートすることで、生徒の学習に対する悩みや潜在的なニーズをリアルタイムでくみ取ることが出来ると思うからです。


atama plusはどんなメンバーで運営しているのですか?

まだ創業して半年ですが、驚くほどに多様なメンバーがそろっています。

9歳からプログラミングを始めたエンジニアや、海外で情報学を専攻後腕一本でベンチャー企業をわたり歩いてきたフルスタックエンジニア、シリコンバレーでLean UXを習得したデザイナー、高校を中退したけど数学の天才で全国東大模試数学1位、偏差値120をとった人とか、大企業の中国現地法人で中国人部下300人をまとめる社長だった人とか、日本最大手クラスのネイルサロンで日米70店舗の経営者だった人とか。他にも例を挙げればきりがないほどです。

いわゆる尖った人が多いですが(笑)、だからこそ多様性を楽しみ、仲間を尊重しながら本気で話し合うという文化を大切にしています。まとまりがなさそうと思われるかもしれませんが、「教育を通じて、自分の力で夢を実現できる人が溢れる未来を創る。」という想いは全員が共有しているので、それぞれの個性が良い方向に作用していると思います。

今後について

atama plusの今後について聞かせてください。

今は、高校数学の領域でサービス提供を行っていますが(*1)、現在、他の科目でのサービスも開発中です。近い将来、あらゆる教科の学習の最短化が出来ればと思っています。

それと同時に「いきる力を身につける」ための教育にも着手していきたいですね。

「自分の力で夢を実現して、幸せをつかむ」のは一部のエリートにだけ与えられるべきものではないんです。日本全体で子供たちがそういう力をつけられるように、僕たちのサービスを日本中に浸透させていきたいと思っています。

僕自身は“人の幸せは人生でどれだけ笑ったか”で決まると思っています。おこがましいですが、出来るだけたくさんの人を幸せにするために、GDPじゃなくてGDS(Gross Domestic Smiles 国民総笑顔量)をアップできたらいいなと。そのために “教育×テクノロジー”が出来ることがたくさんあります。

"教育×テクノロジー"によって日本の教育にイノベーションを起こし、社会で活躍する人を増やす。そうすれば自ずと総笑顔量が増える。そう信じて、日々邁進しています。

*1 取材当時。中学数学、高校数学・英文法・物理・化学をリリース済(2018年8月現在)。

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