中東・アフリカの中でも人口規模と歴史的存在感を誇るエジプト。
2025年7月19日から26日にかけて、ASIA to JAPANは現地の複数大学や関係者へのヒアリングを実施しました。
印象的だったのは、数年前にカイロ郊外の砂漠地帯に誕生した新興大学。
周辺ではカフェや商業施設、住宅が次々と建ち、大学を核に街が形成されつつあります。
広大な敷地と最新の校舎に学生が集い、エジプト高等教育の拡大を象徴していました。
一方、国内経済は通貨安や物価高に直面し、賃金水準の低さから海外就職を志す若者も少なくありません。
日本企業への関心も高く、本記事では大学を軸とした都市形成の動きと経済背景、そして日本企業が取るべき採用戦略をお伝えします。
目次
■大学が街を変えるエジプト現地の様子
・大学を中心に街が成長する新興エリア
エジプトでは近年、郊外に新設された大学を中心に、街が急速に発展する動きが見られます。
特にカイロ郊外の砂漠地帯に誕生した新興大学は、その存在によって地域の姿を一変させました。
かつて何もなかった土地にキャンパスが建ち、学生向け住宅や飲食店、書店、文具店、コピーショップなどが次々に開業。
日常生活に必要な施設が整い、日本ではあまり見られない大学発の街づくりが進んでいます。
背景には、砂漠特有の広大で平坦な地形と、地震など自然災害がほとんどない環境があります。
全国から学生が集まり、地元経済にも新たな活力を与えています。
都市部の混雑や高騰する生活費を避け、郊外の新興エリアに拠点を置く動きも拡大中。
これは単なる教育機関の設立にとどまらず、地域経済や生活文化そのものを変革する現象と言えるでしょう。
・定員オーバーで学生が溢れる有名大学の実態
エジプトを代表する名門・カイロ大学では、教室やキャンパスに学生があふれる光景が日常となっています。
若年人口の多さに加え、有名大学を目指す学生の増加や学内の政治的要因も重なり、その数は年々膨らむ一方です。
しかし、施設の拡充や教員の増員は追いつかず、学びの場は常に過密状態が続いています。
この環境は、授業への集中や学習効率を下げ、教育の質にも直結する深刻な課題です。
それでも、カイロ大学の名声は国内外で揺らぐことなく、多くの企業や研究機関から高い評価を得ています。
学生たちは、その看板の価値を知り、厳しい環境の中でも懸命に学び続けています。
・生活費と学費に直撃する急落するエジプトポンド
エジプトでは、近年の通貨ポンドの急激な価値低下が、学生や家計に深刻な影響を及ぼしています。
例えば、2022年3月以降、エジプトポンドは短期間に対ドルで半分の価値に下落しました。
2023年1月時点では追加で40%の切り下げが行われ、2024年3月には公式レートがさらに1ドル=約0.02 ポンドと急落しています。
(参考:DIGITAL JOURNAL「Egypt’s economic turmoil squeezes struggling middle class」)
こうした為替の急落により、輸入に頼る教材や家電、パソコンなどの価格は大幅に上昇しています。
例えば、エジプト系の私立大学の学費は年間で2,650ドル〜16,325ドル(13万〜80万ポンド)に及び、特にアメリカン・ユニバーシティ・カイロ(AUC)では学費が16,300ドル(約80万ポンド)に跳ね上がっています。
これは、為替変動が直接的に教育コストに跳ね返っている状況を物語っています
(参考:Al Majalla Magazine「Quality education falls out of reach for many Egyptians」)
このような状況の中、通貨安によって留学費用の手当ても困難になるケースが多数報じられており、進学継続の見通しを立てづらくしています
■高まる日本就職志向、年々強まる学生の熱意
・アニメやテクノロジーから入る日本への憧れ
エジプトの学生が日本に関心を持つきっかけの多くは、アニメや漫画、ゲームといったポップカルチャーです。
幼少期から親しんだ作品を通じて、日本の風景や文化、価値観に触れ、いつか訪れてみたいという憧れを育んでいる方が多いそうです。
さらに、ロボット工学やAI、精密機械などの先端技術分野における日本の存在感も大きく、こうした文化的・技術的な二つの入り口が、若者の日本への興味を後押ししています。
日本はエジプトの若い世代にとって「身近で憧れの国」として存在感を高めています。
・先進国で唯一外国人労働者の受け入れに前向きな日本
先進国の中で、日本は比較的外国人労働者の受け入れに前向きな姿勢を示している数少ない国です。
欧米諸国の多くが移民政策を厳格化し、労働市場を保護する方向に舵を切る中、日本では少子高齢化による労働力不足が深刻化しており、特に高度人材や専門技術を持つ外国人への需要が高まっています。
近年では在留資格の拡充や留学生の就職支援制度の整備など、制度面でも受け入れ環境の改善が進んでいます。
背景には、日本の産業構造を維持・発展させるためには海外からの人材が不可欠という認識が広がっていることがあります。
その一方で、言語や文化の壁、生活支援の不足といった課題も残されており、これらを解消する取り組みが今後の鍵となるでしょう。
・注目は機械・IT分野での高い適性をもつ理系人材
エジプトの理系人材は、機械工学や情報技術分野で特に高い適性を示しています。
数学や物理といった基礎科目の教育水準が比較的高く、論理的思考力や問題解決能力に優れている学生が多いのが特徴です。
加えて、英語教育の普及により国際的な技術資料や論文にもスムーズにアクセスでき、日本企業が求める専門知識や実務スキルを短期間で習得できる素地があります。
実際、CAD設計、プログラミング、ネットワーク構築などの分野では、大学在学中から高い成果を出す学生も少なくありません。
こうした背景はあるものの、日本から地理的に離れていることもあり、エジプトの理系学生に注目する日本企業は依然として限られています。
しかし、将来的にはグローバル競争力を備えた人材供給地として、大きなポテンシャルを秘めていると期待されています。
・学生の反応
説明会には理工学系を中心に優秀な学生が多数参加し、日本企業での就職に強い関心を示していました。
特に、ASIA to JAPANが提供する就活支援プログラム「FAST OFFER」への興味は高く、参加を前向きに検討する声が多く聞かれました。
一方で、日本語を話せる学生はごく少数でしたが、過去に同プログラムを利用した先輩の体験談をきっかけに、日本語習得に意欲を持つ学生も少なくありませんでした。
特徴的だったのは、無料で日本語講座を受講できることへの懐疑的な反応です。
エジプトでは教育を受けるのに「無料」という概念がほとんどなく、最初は半信半疑の学生もいましたが、実際の参加者の成功例を知ることで、受講希望者が増加しました。
■今こそ開拓すべき市場「エジプト」人材の採用ポイント
・通貨安と賃金差がもたらす採用コストの優位性
円安により、アジア諸国では日本円での給与が目減りする傾向にあります。
一方で、エジプトでは近年自国通貨のポンドの下落が続き、対日本円でも大幅に価値を下げています。
その結果、日本企業から見ると現地人材の採用コストは相対的に低くなり、優秀な人材をより少ない投資で確保できる環境が整っています。
さらに、エジプト国内の賃金水準は日本に比べて大幅に低く、新卒給与でも十分に納得してもらえる点は大きな魅力です。
理工学系を中心に高いスキルを持つ若手人材が豊富であるため、採用コストの優位性と人材の質の高さを同時に享受できる可能性があります。
こうした背景は、日本企業にとって中長期的な国際競争力の強化に直結するといえるでしょう。
・真面目さと学びへの意欲が生む日本企業との高い親和性
エジプトの理工系学生は、授業や研究に真摯に取り組む姿勢と、新しい知識や技術を吸収しようとする強い意欲が特徴です。
日本語を話せる学生はほぼいませんが、学びの機会があれば積極的に挑戦し、自らスキルを伸ばそうとする姿が目立ちます。
こうした真面目さや向上心は、日本企業が求める勤勉さやチームワーク重視の文化と親和性が高く、採用後の定着率や成長スピードにもつながります。
さらに、現地の学生は先輩の成功事例から学び、将来のキャリア形成に向けて着実に努力を重ねる傾向があり、長期的な戦力として期待が持てます。
・面接では給与だけでなく将来のキャリア設計まで伝えることが重要
エジプトの学生にとって、「給与額」は重要な判断材料の一つですが、それだけで進路を決めるわけではありません。
将来的にどのようなポジションを目指せるのか、自分のスキルがどのように評価されるのかといった“キャリアの見通し”も大きな関心事項です。
面接の場では、仕事内容や社風の説明に加えて、「入社後にどのように成長できるのか」「数年後にどのようなキャリアを築けるのか」を具体的に伝えることが、学生の意思決定に大きく影響します。
また、将来のキャリアアップや職種の広がりを示すことで、「自分の努力が正当に報われる環境だ」と実感してもらえるでしょう。
日本企業にとって、面接は単なる“評価の場”ではなく、“魅力を伝える場”として捉えることが重要です。
・難易度の高いアラビア語・日本語、そして英語を操るマルチリンガル
アラビア語は世界でも習得が難しい言語の一つとされ、さらに国際共通語である英語を自在に操るバイリンガルの学生も少なくありません。
加えて、アラビア語と同様に高い学習ハードルを持つ日本語を、面接までの限られた期間で習得するマルチリンガルも存在します。
特に理工系や国際ビジネス志向の学生は、日英両語を駆使することで日本企業との円滑なコミュニケーションが可能となり、採用後の即戦力としての期待が高まります。
こうした多言語運用能力は、海外市場での事業展開や多国籍チームでの協働においても大きな強みとなり、日本企業がエジプト人材に注目する大きな理由となっています。
■エジプトで訪問した大学
今回訪問した大学を紹介します。
・エジプト情報大学(Egypt University of Informatics / EUI)
エジプト情報大学は、2021年にエジプト・ニュ―行政首都のKnowledge Cityに設立された、中東・アフリカ初のICT専門大学です。
情報通信技術省と高等教育科学研究省が共同運営し、AI、データサイエンス、FinTech、デジタルアートなど最先端16分野を学べます。
海外大学とのデュアルディグリー制度や産業連携も充実し、グローバルで活躍できる人材育成を目指しています。
・エジプト日本科学技術大学(Egypt-Japan University of Science and Technology / E-JUST)
エジプトと日本政府間のプロジェクトとして、2009年にエジプトのアレクサンドリアに設立されました。
大学は、エジプト政府によって完全に運営されていますが、JICA(国際協力機構)とJUC(日本支援大学コンソーシアム)が技術的指導などを支援しています。
大学では、研究に重点を置いており、日本型工学教育の特徴である「少人数、大学院・研究中心、実践的で国際水準の教育提供」をコンセプトにしています。
現在は工学系大学院10専攻及び国際ビジネス・人文学系2学科での教育・研究に加え、工学部も開設されています。
設立されてからまだ歴史は浅いですが、すでにエジプトのトップ大学として名を連ねています。
・マンスーラ大学(Mansoura University)
マンスーラ大学は、エジプトで6番目に設立された国立大学です。
医学部は1962年にカイロ大学の分校として設立され、1972年の大統領令により「イースト・デルタ大学」として独立。
翌1973年に現在の名称へ改称されました。
持続可能な開発、地域社会との連携、国際化を推進し、知識豊かな社会を創造するために地域的・国際的な卓越性とリーダーシップの発揮を目指しています。
■まとめ
訪問時の情報を紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。
今回のエジプト出張では、現地の高い教育水準と理工系人材の豊富さ、そしてアラビア語・英語に加えて日本語も習得する多言語能力の高さを再確認しました。
加えて、為替や賃金水準の影響により、日本企業にとっては採用コスト面でも大きな優位性があります。
真面目で学びに積極的な国民性は、日本企業との文化的親和性も高く、採用後の活躍が期待できる要素が揃っています。
今後、日本企業が中長期的な国際競争力を強化していくうえで、エジプト人材は確かな選択肢の一つになると感じました。
ASIA to JAPANでは、こうした現地のリアルな声を企業の採用戦略に活かし、日本と海外の「まだ出会っていない」人材の架け橋として、今後もサポートを続けてまいります。