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ロボットはDXの夢を見るか ~We are the ROBOTS~

【写真】日立ソリューションズさんのサポートを受けながら開発する様子

 派手さはないが決められた作業はノーミスかつ超人的なスピードでこなし、プログラミングの知識がない人にも操れる。ただし、自発的な学習はしない――。RPAと呼ばれる分野で活躍するロボットたちはこんな特徴を持っている。この「ミスなく高速」という特徴を生かし、主に伝票作成や入金処理の自動化で活躍しているのが、デジタル・イノベーション(以下DI)本部デジタル財務企画チームで制作・稼働しているロボットたちだ。業務のデジタル化(デジタル・トランスフォーメーション、以下DX)に率先して取り組むという本部ミッションのもと、社内で先行してロボット開発に取り組んだ経緯をご紹介したい。

ロボットにも得手不得手

 RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)は、いくつものソフトウェアをまたいで作業できるロボットを使うことで、作業の効率化を図ること。人が行う手順の多くをそのまま再現することができ、技術者ではない「その業務の担当者」が専用のツールを使って自力でロボットを製作できることが強みだ。人工知能よりは単純、エクセルのマクロよりは複雑だといえる。

 RPAのロボットは、単純作業や定められた作業を高速でこなすことは得意なため、バックオフィスの業務に向いていると言われる。そこでデジタル財務企画チームが代行して担うことの多いDI本部内の伝票起票業務にまつわるロボットを始めに開発することになった。

 最初にとりかかったのは、収入と、売上連動の協業社への支払を行うロボット。元表のエクセルファイルから会計システムに伝票データとして取り込むところまでをターゲットとした。

会計システムのくせをつかめ

 社の会計システムには、画面を見ながら一つずつ数字などを打ち込むモードの他に、定型CSVファイルで取り込む仕様が実装されていたので、これを活用することにした。元エクセルに、ロボットがデータ形式を取り込みやすいように整えたシートを追加し、①そのシートから専用のマクロファイル(中間ファイル)へデータを転記させ、②中間ファイルからはき出したCSVファイルを会計システムで読み込むという形で開発を進めた。

 そこで苦労したのが、会計システムや帳簿的な仕訳上のくせだった。対象としていた2種類の伝票、「入金伝票」と「支払伝票」では、伝票作成に必要な情報が違う上、伝票上には現れてこない社内の会計コードや作成ルールがあった。ロボットを動かしてみて初めて、必要なデータと自動入力されるデータがわかるため、テストで止まったところを分析してロボットを修正する、という作業を繰り返した。また、人の動きを想定しているシステムのため、ロボットの作業が高速すぎてシステムのレスポンスを追い越してしまうエラーを起こすこともあり、あえて数秒のディレイを入れて調整するなどの工夫も必要だった。

 ロボットは、社内横断のチームが実証実験結果を踏まえて選定されたUiPathというツールを使って開発し、運用している。非技術者でも作れる、とはいえ、直感的に作業できるほどにはこなれていないため、社外の技術サポートを月2回、1回4時間ずつ迎えた。ロボット開発の担当者(筆者ともう一人)にはプログラミングの知識はなかったため、ロボットで実現したいことを技術サポートに伝え、ロボットの組み立てやツール内の道具の使い方や、書き込み方を習って開発を進めた。

 サポート外の日も、自力でできるところを交代で進め、最初のロボットは、約4カ月で完成した。社内の関係者向けプレゼンの事前準備では、プロジェクターに画角を合わせたことでPCの表示位置が変わってしまい、ロボットが目当ての「ボタン」を見つけられずに止まってしまうというハプニングも起きた。手直しして事なきを得たが、ロボットの「繊細さ・実直さ」故の難しさにひやりとした瞬間だった。

複雑な手順がこなせるロボットが完成

 その後別のメンバー2人が、請求書を元に支払伝票をつくるロボットを開発した。これまでのロボットは、伝票データを会計システムに取り込むところまでで完結していたがこのロボットには先の手順、伝票データを1件ずつ電子伝票として回送し、印刷、作成済みリストへ書き込み、未着請求書の担当者へメールを送信するといった工程が追加された。

 ここでも立ちはだかったのは、やはり会計システムのくせ。伝票回送から先は、人間と同じ作業をロボットにさせるため、人間ならその場で判断して追加の作業ができるところだが、ロボットには自己判断ができない。そのため、ロボットを動かしては会計システムのエラー内容を分析し、エラーや確認メッセージのパターン全てに対応できるように、条件分岐の記述を多数盛り込んでいった。

 このロボットが完成したのは、2020年5月15日。4月上旬の国の緊急事態宣言から在宅勤務になっていたため、最後数回の技術サポートは、Office365のTeamsやZoom for businessを活用して行われた。目の前で手を動かしてもらえる対面でのサポートよりもさらに困難な状況となったが、仕上げ作業が完成。これにより、エクセルシートにその月の支払金額を入力するだけで約90件の伝票が出力され、未作成のものまでチェックできるという作業がボタン一つで可能になった。Teamsでサポートの様子を見ていた技術出身の前本部長補佐も「ここまで複雑な工程をRPAで組んでいるとは」と驚くほどパーツの多いロボットになった。

社内で続々増えるロボット

 社内で稼働するロボットはこの二つだけではない。DI本部内では、売上報告書をそれぞれの取引先のアップロードページから呼び出してPDFから数字を拾い、エクセルに転記させるロボットや、入金と売掛金を付け合わせるロボット、会計システム内の入金を処理するロボットなどが開発され、計8機が稼働している。また本部外でも、管理、財務では既にロボットが稼働しており、編集、広告などの部署でも、ロボットの開発、導入検討が行われている。

業務そのものを見直す契機に

 経理や財務といった仕事は特に、減点主義ととらえられがちで、正確に計上・計算して当たり前、間違えれば即マイナスという評価を受けやすい。それだけに、効率よりも現状維持を選択しがちな業務だと言える。その中で、DI本部長の「デジタルと冠する部署が率先してデジタル変革(DX)を起こす」というかけ声に呼応し、全社に先駆けて本部内のRPA化を進めたことが、業務削減効果や、他部門への広がりを産む原動力となったというのは、身内のひいき目を差し引いても言い過ぎではないだろう

 実際、ロボットが稼働している様子を眺めると、計算づくで並べられた壮大なドミノが倒れていく時のような美しさを感じることがある。開発は簡単とは言いがたいが、他のロボットのパーツをコピーしたり、開発者同士で情報交換をしたりすることで、負担は軽減されつつある。ロボット開発の中で、デジタル財務企画チームでは「これを機に、無駄を省き、業務そのものを見直す」ということが繰り返し示された。ロボットに業務を落とし込む中でやり方を変えたり、省かれたりした工程も多く、その意味でも大きな効果があったと言える。地味な業務改善を行ったRPAチームが、2019年度のDI本部長賞を受賞することができたのも、業務効率に向けた取り組みが評価されたからに他ならない。

 この場を借りて協力してくださった方への謝辞を述べると共に、これからもデジタル・イノベーション本部がバックオフィスも含めたDXに取り組み、成果を上げていく部門であり続けるために、筆者個人もルーティンを疑い、効率化に取り組んでいきたいと考えている。(デジタル・イノベーション本部財務企画チーム 永井真紗子)

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