今回から、様々な業界/領域におけるテクノロジートレンドを紹介する連載を開始します。
第1回は、近年フードテック、アグリテックとして注目が集まる、「食」領域についてご紹介します。
世界の食市場と動向
食は、世界70億人の人々が毎日必ず関わる巨大市場です。経産省によれば、世界の市場規模は680兆円以上、調査によっては700兆円以上とも言われています。
一方、食領域はテクノロジーの導入が遅れているレガシーな領域でもあり、国連が掲げる持続可能な開発目標“SDGs”のテーマにも挙げられるなど、多くの課題が見られる分野でもあります。SDGsの目指す持続可能なフードエコシステム実現に向け、特に注目が集まる課題として次のような例が挙げられます。
食糧危機・タンパク質危機
世界的な人口増加と新興国の発展により、食糧や肉類などのタンパク質の需要が高まることで、供給が追いつかなくなり、世界的な食糧、良質なタンパク質不足が懸念されています。このような背景から代替肉とよばれる植物肉や培養肉に注目が集まっています。
フードロス
国際連合食糧農業機関(FAO)によると、農業生産から消費に至るサプライチェーン全体で、食料の約1/3が捨てられ、その量は1年あたり約13億トンに上るといわれます。SDGsにおいても、2030年までに小売・消費における一人あたりの食料廃棄を半減させ、生産・サプライチェーンにおける食品ロスを減少させる目標を掲げています。
食の安全性
食の安全性も注目が集まる領域です。数年前に大手外食企業で異物混入があったことが記憶に新しいように、食の安全にかかわる事故は今も発生しています。これらを防ぐために、テクノロジーを活用したトレーサビリティの担保も課題となっています。
このように、大規模で多様な食領域の課題を背景に、世界的にフードテックへの注目が高まっており、スタートアップへの投資も盛んに行われています。米投資会社AgFunderや、仏ベンチャーキャピタル Five Seasons Venturesによると、2017年に1.1兆円以上、2018年には2兆円の投資が実行されたといいます。
国内食市場と動向
海外と同様に、国内でも食領域には巨大市場と課題が存在しますが、海外と比較するとフードテックへの取り組みはまだまだ発展途上にあります。
国内の食関連市場は70兆円を超えますが、国内特有の深刻な課題も挙げられます。
例えば、農林水産省によれば、“食品製造業における従業者1人当たりの付加価値額は、製造業全体の66%程度”と低水準であり、AI・IoTやロボットなどの自動化技術導入による生産性向上は、今後の重要な課題と言えるでしょう。
また、人手不足も深刻で、東京の飲食業界における有効求人倍率は時に10倍を超えます。今後も労働人口減少は続くと予測され、人手不足対策は急務と言えます。
一方で、フードテックに関連する投資金額はまだ小さく、野村総合研究所の調査によると、“2018 年における国内フードテック企業の資金調達額の中央値は4,390 万円で、全 32 セクター中最下位、アグリテック企業は9,000 万円で全 32 セクター中 22 位”と位置付けられています。
食領域の全体像
このように大きなポテンシャルがある食領域ですが、具体的にはどのような領域で新しいプロダクト・サービスが生まれているのでしょうか?
改めてフードテック領域のプレイヤーを調査すると、農産品の生産から消費者の家庭内向けソリューションまで、上流から下流に渡り多様なプロダクト・サービスがありますが、今回、以下のように分類しました。
生産
- 生産自動化/省人化:IoTやセンサーデータ、ロボット/ドローンの活用、植物工場などによる農産品の生産性向上
- 次世代食品:食糧危機、タンパク質危機に応えるための、完全食、代替食、品種改良など
- ブランド化・新商品:食のニーズ多様化に応えるための独自ブランド、D2Cなど
流通・加工
- サプライチェーン効率化:産地直送によるサプライチェーンの短縮、データに基づく効率化など
- 安全性の担保:ブロックチェーンを活用したトレーサビリティ
飲食
- 集客:集客メディア、売上予約管理ツールなどの飲食店向けマーケティングツール
- 販売チャネル:デリバリー、キッチンカー、クラウドキッチンなど新チャネル
- 業務効率化:受発注/決済/労務管理などの業務効率化ツール。調理/オペレーション自動化ロボットなど
小売
- 業務効率化:小売店舗内の業務効率化、センサー、ロボットなどを利用した省人化、無人化
- 新販売手法:OMO、ニューリテールと呼ばれる、デジタルと統合された新しい形の小売
消費・利用
- 情報収集/購入:EC、デリバリー、買物代行、サブスクなどによる買物の手間削減、購入履歴に基づいたパーソナライズサービスなど
- 調理:レシピサイトなどの情報提供、ミールキットやスマート家電による調理の手間削減
- 健康管理:食事の分析によるパーソナライズした栄養管理、アドバイス
今回の注目領域
今回の連載では、食領域の中でも以下の4領域に着目し、該当領域のトレンドやスタートアップ/大企業の取り組み事例を紹介、考察します。
- 外食の中食化:中食の利便性/時短と、外食の満足度を兼ね備えるサービス(フードデリバリーやその周辺サービスの拡大)
- 内食のアップデート:家庭内での食の効率化/満足度向上を実現するサービス
- 流通の最適化:効率性と安全性を両立するサプライチェーンを構築するサービス
- 食のD2Cブランド:食の多様性を実現する独自ブランドプロダクト
次回は、フードデリバリーに代表される”1.外食の中食化”に関する事例、トレンドについてご紹介します。
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