- A.C.O. Journal Desk
- 2020.05.07
チームメンバーの役割を理解したプロセスの進め方を考える
こんにちは、A.C.O. Journal編集部です。前編では、デザイナーが如何に重要な役割を担っているかという話をお伝えしましたが、実際のビジネス/サービス開発の現場ではチーム単位でのプロジェクト進行となります。そのため、後編ではより実態に近いプロジェクト体制の中でデザイナーが担う役割についてお話ししたいと思います。
プロジェクトマネージャー、ディレクターの役割
私が述べているデザイナーの役割を、実際の現場では「プロジェクトマネージャー」または「ディレクター」が担っているケースが多々あります。また、そういった役割を誰がするかは決めずに何となく誰か得意な人がやっているというケースもよくあるでしょう。これはプロジェクトマネージャー・ディレクターがクライアントとの窓口を担うためによりクライアントのことを理解し、クライアントの要求をより深く考えながら進める役割を担っているからです。ただ、少なくともプロジェクトマネージャーはプロジェクトのマネジメントを行うという最大の役割がありますので、プロジェクト全体の成功を考えるとマネジメントに専念したほうが望ましいと考えます。
先に述べたデザイナーが担う役割と最も被るのはディレクターではないかと私は常々思っています。会社によって「ディレクター」という職種が指す役割は異なると思いますが、ディレクターが担うのは「マネジメント以外のビジネス/サービスの中身についてディレクションすること」という理解を私はしています。つまり、ビジネス/サービスをどう構成するかを決めるための工程全体を見る人なのです。ということは当然デザイナーの役割も含んだ上で、実際にどのような仕組みを使ってそれを実現すれば良いのかなども併せて考え、それを設計という形に落とし込んでいく必要がある職種であるため、幅広い知識・経験が求められます。
じゃあ、デザイナーは何をするの?
じゃあ、デザイナーは何をするの?と思われるかもしれませんが心配はいりません。役割が被ってしまう部分があるディレクターの方は担う範囲が広範囲に及び、なおかつそこまで深くクライアントの本質を捉えた情報設計をする余裕はありません。あくまでデザイナーは、よりクライアントの本質をロジカルに捉えた上でその論理に基づいた設計を行なっていくということが求められるため、その役割においてはデザイナーが主導権を握るべきなのです。また、情報設計の結果に基づいたUIを提供できるのもデザイナー最大の特徴であり、デザイナー以外には難しい役割です。
エンジニアは言われたものを作るだけ?
上流工程を担うチームメンバーに途中からエンジニアが加わりますが、エンジニアは言われたものを作るだけで良いのでしょうか?確かに設計が完璧に出来ているものであればエンジニアは単にそれを形にするだけで済むかもしれません。しかしながら、ディレクターが設計したもの、デザイナーがデザインしたものが実際にシステムとして作り上げる状況において最適な設計になっているかというと一概にはそうとは言えません。そこでエンジニアは実際に作るときに“技術的に可能な範囲で最適なもの”を目指そうとします。では、”最適なもの”とは一体何なのでしょうか?ここで、デザイナーが先の工程で設計した目的であったり、ターゲットの設定であったりに対して”最適なもの”という内容を指していることを思い出さなければなりません。つまり、エンジニアがその都度考えることは、デザイナーが設計した方向性を指標にする必要があるということです。
デザインワークは協業して作るもの
よくデザインワークという言葉が用いられますが、これは主に、これまで述べたビジネス/サービスを構成する重要なポイント(成り立ち・課題・要素・目的・ターゲット)などを分析し明確化するためのプロセスのことを指します。ここまで記事を読んでいただいた方には分かるかと思いますが、この”重要なポイント”を考え、それを考慮したものを生み出すという過程においてディレクターの協力、実際に作り上げるエンジニアの協力は当然ながら、理想論を追い求める現場を制するプロジェクトマネージャーも非常に重要です(日程や稼働工数、開発規模などを踏まえた上で、デザイナーが描いた理想にどこまで工数を掛けるかなどジャッジしたり)。つまり、よりクライアントの目的に沿ったものを生み出そうと思ったら、チーム全体がデザインワークに理解を示し、ワークで生まれた結果を尊重し、その結果を指標として物作りをする必要があります。このような考え方ができるチームを生み出すためには、デザインワークに必要なプロセスを取捨選択し、チームにインプットできるデザイナーがいることは非常に頼もしいことなのではないでしょうか。
UX(ユーザーエクスペリエンス)という考え方の本質とは
最近では随分浸透した感のあるUX(ユーザーエクスペリエンス)という言葉。これはざっくり言うと、調査・分析から想定されるユーザー体験を意図的に生み出すための設計を取り入れることなのですが、本記事でこれまで述べてきた内容を振り返りつつ、UXという考え方の本質を見極めて行きたいと思います。
UXの概念、基本的な考え方(対象はユーザーだけではなく、ステークホルダー全体)
UXの基本的な概念は先に述べた通り「調査・分析から想定されるユーザー体験を意図的に生み出すための設計」です(様々な考え方があるため、これが100%正解の考え方ではありません)。ここでいう”想定した”という言葉の意味は、ビジネス/サービスの目的、ひいてはクライアントの目的そのものを達成できる可能性が高いと導き出された”想定”となり、それを意図的に生み出すための道筋をプロジェクトチーム全体で描いたものによって”意図的に”生み出せるはずだ、というものとなっています。この考え方の先にあるのは、究極を言うと「ステークホルダー全体(プロジェクトに直接関わっていないクライアント企業の上層部、関連企業も含めて)」がより良い結果を生み出すことを目指すこと、これがUXそのものの基本的な考え方だと私は考えます。
これまで解説してきた内容のどこがUXなのか
それでは、ここまで解説してきた内容のどこがUXなのか振り返ってみましょう。
クライアントが求めていることを知る
→クライアントが意図していること、その背景を知ることで、ステークホルダー全体を考慮した最も必要とされている”想定”を導き出すことができる。
チームメンバー全員がデザインワークで生まれた結果を尊重し、それを指標とする。
→指標となる目標・ターゲット等をチーム全員で認識し、同じ方向を向いて作り上げることによって”意図的”な仕組みを提供できる。
端的にまとめましたが、これぞ本質的なUXであり、こういった考え方がデザイン思考であり、これらをチームに落とし込めるスキルを持った人がデザイナーなのではないでしょうか。 また、この本質の先にはビジネス/サービスを実際に使用するエンドユーザーが存在します。一般的に言われるUXデザインとは、エンドユーザーのニーズを知り、応えることが重要とされていますが、そのエンドユーザーがどういった特性なのか、このサービスがターゲットとすべきエンドユーザーがビジネス的にずれていないのか。そういった上流のステークホルダー全体を踏まえた上でブランド設計から見直しを行うということもデザイナーに求められつつあります。
UXデザインを当たり前に遂行できる組織とは
そして最後に、実はこういったUXのプロセス/方法論であるUXデザイン、デザイン思考を当たり前に考えられる集団、そういった考え方を取り入れる余地がある環境、そして実行するための体制(いわゆるコストにもなる部分)を持っている企業はまだまだ少ないのが現状です。UXデザインを真面目に取り入れるための時間やコストを掛けられるクライアントばかりではありませんし、プロジェクトに参加するメンバー全員がこういった思考に理解を示していないケースも実際には多々あります。だからこそ、本質的なデザイナーと自負する方はぜひこういった考え方をチームにインストールする努力をしてみてください。UXデザインにおける様々な手法・考え方を駆使することで、チームがより本質を理解することのお手伝いが出来るかもしれません。どの手法を用いることが正解かという決まったプロセスに拘る必要はなく、この記事で述べたUXの基本的な概念に沿っていれば、一つ一つの作業において無駄なことは無いはずです。UXの本質について考えた経験が次に活きてきます。そして、そうした経験を積み重ねた集団で成り立つ組織こそ「UXデザインを当たり前に遂行できる組織」なのです。
従来、デザイナーが担う領域はビジネス/サービスにまで及ぶことは少なかったと思います。それがここ数年大きく変化しており、何か革新的なものを生み出す場においても、当たり前のものをより多くの人に使ってもらう場においてもデザイナーは必要とされることが増えてきています。そのため、デザイナーにはビジネス的な視点、マーケティング的な視点、仮説を立てるための自由な発想など、幅広い知識・経験が求められると共に高いコミュニケーション能力も求められます。そして、その高いコミュニケーション能力をもってチームにUXデザインをインストールするという重要な役割も求められます。そう、デザイナーは可能性のかたまりなのです。
Cover illustration by Narumi Kihira