前回の記事はこちら 好きなデザインってなんだ? #6 デザインとエゴ
大学ではじめてAppleのコンピューターに触れたとき、僕のコンピューターに対するイメージは大きく変わった。
ダイアログの意味は理解できるし、意図せず黒い画面を表示してしまうことはなく、インターネットの接続の仕方に戸惑うこともなかった。今まで制御しにくい機械だと思っていたそれが、自分の思った通りに操作できたことは良い意味で予想を裏切られた体験だった。
過去に思い入れの深いプロジェクトがある。それはとある企業のグローバルサイトのリニューアルだった。投資家に企業の価値を適切に伝えるという課題に対して、サイト構成を再構築し、それに伴うメインナビゲーションのライティングを軸にしたコミュニケーションの刷新を行なった。ビジュアル表現においてはその企業がもともと持っていた、人を起点にした先進性や多様性、そして未開拓の領域を開拓していく様を引き出すことにこだわった。
そうして行なったこの仕事は、多分ユーザーがその企業のテレビCMやサービスに対してもともと持っているイメージとはちょっと違うデザインになったんじゃないかと思っている。
プロジェクトに携わっていた当時、良いコーポレートサイトはどんなもので、このサイトはどんな状態を目指すべきかについて先輩と話していた時に、その先輩が言っていた。
使いやすいとかわかりやすいというのは当たり前で、良い意味で予想を裏切ることが重要だ。ユーザーが(このプロジェクトでは投資家が)CMとか何かをきっかけに企業の事を知って、ちょっと投資する前に企業について調べてみようと思った時に、普通に見やすくて知りたい情報に辿りつけるというのは必要条件だが、もし、ここで「あれ、イメージしてたよりももっとグローバルで色々なことに挑戦しそう」みたいな印象を抱かせれば、もっと期待するようになる。そうした予想を裏切ることがファンを作っていくことなんだと思う。
僕にとってこの話は、冒頭のAppleのエピソードと繋がる部分があって、すごく印象に残っている。
仕事をしていると、期待した通りに機能させることや、ブランドの世界観を表現するだけでもいっぱいいっぱいになりがちだけど、そのもう一歩先の知らなかった良さに気づかせる、予想を裏切るデザインをしていきたい。
と言うわけで僕の好きなデザインは予想を裏切るデザインです。
ちなみにAppleにはもう一つ予想を裏切られた体験がある。それは初めて買ったMac bookを起動すると、世界各国の言葉で「ようこそ」という言葉が軽快な音楽とともに表示された時。僕にとってMacがコンピューターではなくMacになった瞬間で、同時にAppleのファンになった瞬間だった。
by Toshihiro Yoshioka
名古屋造形大学デジタルメディアデザインコース卒業。在学中に紙面やウェブ、プロジェクションマッピングを研究。