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不透明なブランドにはだれも興味なし! ステークホルダーは透明な真実に期待している

グローバルブランドのあるべき姿は、ブラックボックスからグラスボックスへ

昔からブランドとは、商品やサービス、組織や企業を包み込むための徹底的に管理されたファサードのようなものでした。つまり、ビジネスを完成品へと導くために研磨された外壁のようなものです。

しかし近年、グローバルカンパニーの多くは、そのようなバリアを取りのぞき、透明性を帯びているように感じます。

例えば、そのブランドで働く従業員は、自分たちの職場で起こっていることをブログに書いてシェアしています。組織としても、働き方の仕組みや取り組み、提供しているサービスのバックステージを積極的に開示して、ファンとの交流につなげています。

一方で、そのブランドを取り巻く外側の人たちは、ビジネスのプロセスや価値を簡単に見ることができています。まさに、ソーシャルメディアによる見える化が一般的になったおかげです。

だからこそ、自分たちの価値を様々な活動にしっかりと反映させているブランドは、その企業が誠実である証拠となります。しかし、実際に伝えているメッセージと違った行動をしてしまうと、一瞬のうちに大きなダメージへつながってしまうのです。

2015年に世界的なニュースとなった、フォルクスワーゲンのスキャンダルを思い出してみましょう。彼らは「環境に優しい」という謳い文句で市販していた、ディーゼル車のCO2排出量データを改ざんしていました。それはまさに重要な問題をブランドの裏側に隠していたため、事実が発覚したときは私たちに大きな衝撃を与えました。ブランドそのものがBlack Box化していた、そのことの表れと言えるかもしれません。

多くの消費者は、企業が抱いているブランドの本質を知る(または見つけることができる)ことに期待しています。 世界的なトレンドやインサイトを扱うコンサルタント会社、TrendWatchingのDavid Mattinは、透明性があるブランドのあり方を“Glass Box Brands”と呼んでいます。

そのような透明性の手法を利用して、ファンやステークホルダーとの信頼関係を深めているブランドが増えています。今回は、そのいくつかを紹介したいと思っています。


CASE #1

Everlane

ファッション業界のタブーを打ち破る透明なブランド

アメリカのファッションブランド『Everlane』は、「Radical Transparency」というメッセージを掲げブランドを構築しています。彼らの戦略は、会員専用のオンラインストアを通じてアイテムを直接販売することはもちろん、これまで伝統的に行われていた小売における高い利幅を排除していることです。

すべての製品(材料、労働、輸送など)は、業界の常識となっている典型的な5〜6倍の利幅ではなく、2〜3倍に抑えて顧客に提供しています。本当の意味での適正価格を提示することで、透明かつ誠実なブランドであることの基盤を構築しているのです。

Webサイトにある《The Cotton Relaxed Tank》のコーナーで価格のブレークダウンを見ると、Everlaneの価格設定と一般的な価格設定を比較することもできます。

《Factories》ページには、世界中にある生産工場が掲載されていて、各工場ごとの独自エピソードが記載されています。 Everlaneと工場のスタッフの関係性が詳しく説明され、工場での日常も写真で記録しているのです。

また、多くの工場では、従業員のために健康に関するプログラムを実施・運営しています。例えばスリランカの工場では、早期発見と治療方法の教育を目的とした、乳がん啓発プログラムを実施。スクーター利用者が多いホーチミンの工場では、8,000人の従業員にモペットヘルメットを提供したということです。

生産工場を大々的にフィーチャーし、人の顔や物語を確実に示すことで、Everlaneはファッションブランドが担う責任そのものを資産にしています。


CASE #2

Fishpeople

実際に漁獲した場所・人までも見える化に

アメリカの魚介類を扱うサプライヤー『Fishpeople』は、透明性を示すためにインタラクティブなアプローチを用いています。各商品のパッケージには、個別のトラッキングコードが印刷されています。購入者は、Fishpeopleのアプリ、またはウェブサイトにコードを入力すると、その魚がどの場所で漁られたか、どの漁業がそれを扱ったのかを知ることができます。

Instagramでも、透明性の高いブランディングを行っています。美味しそうなシーフードの写真だけじゃなく、漁場で仕事をする漁師たちの写真も織り交ぜて、それぞれの産地を紹介しています。

EverlaneもFishpeopleも、自分たちのブランドがもたらす価値は、最終的な製品以上のものがあることを理解しています。つまり、生産プロセスに関わるステークホルダーにフォーカスを当て、価格設定や製造過程において透明性を示すことは、真摯で社会的責任を負っていることを伝えているのと同じなのです。

一方、彼らのファンは、製品がどのように作られているかに気を配り、そのプロセスが社会的にどんな影響を与えているのかに注視しています。ですから、ブランドのバックステージにある情報をしっかり活用すれば、ブランドは大きな信頼を築くことができるのです。


CASE #3

Bext360

透明に見えるけど、それが真実かどうかは別のはなし

ブランドは透明であるべき、というお話をしてきました。しかし、いくら透明につとめていても、それがウソの可能性もあるかもしれません。つまり、最近話題のフェイクニュースのように、情報が開示されていてもそれが真実とは限らないということです。

膨大な情報が溢れていく今の世の中で、ユーザーはどのようにその判断をしていけばよいのでしょうか? どの企業もブランドの透明性を主張することはできますが、どうすればユーザーとより良い信頼関係を築くことができるのでしょうか?

アメリカのスタートアップ『Bext360』は、その問題に対する答えを提供できる、ハイテクなレーサビリティ・プラットフォームを開発しています。彼らのシステムは、生産管理者から消費者まで様々なサプライチェーンを通して、コーヒー、パーム油、鉱物、綿などの製品が、どのような経緯で届けられているのか、その追跡データを作成しています。

しかも、サプライチェーン全体で生成されたデータはブロックチェーンに格納されるため、削除・変更することはできません。どこから来たのか? それは倫理的に供給されているか? それはいつ収穫されたか? 誰がそれによって支持されているか? など、それぞれ明確に知ることができるのです。


https://www.youtube.com/watch?v=sP14yyQaz3s

先ほども話したように、フェイクニュースが数多く出現したため、オンラインの情報をそのまま信じてしまうことも多いでしょう。しかし、ブランドステートメントの信頼性をしっかり証明するためにも、ブロックチェーンのような技術が役立っていくかもしれません。


モノではなくコトやヒトが強みのブランドは、どのように透明性もアピールするべきか

これまでの事例のように、食品や衣類のような製品・商品の背後にあるプロセスは、コストや製造過程が具体的なため透明にすることができます。しかし、物理的な製品がないブランドはどうでしょう? 例えば、コトやヒトが強みの企業やブランドは、どのようなアプローチで透明性を示せばよいのでしょうか。

例えば、職場での出来事は、ソーシャルメディアですぐに話題になってしまいます。つまり、従業員=あなたの情報は常に公開されていて、あなたそのものが最も強力な資産であり、同時にあなたがブランドの責任を担う可能性があるのです。

一見リスクがありそうに思えますが、そのことをちゃんと開示して、強みに変えられることができそうです。多くの企業は社内ポリシーを意図的に推進し、それが人々のブランドの見方に影響を与えているのですから。


CASE #4

Spotify

グローバルブランドだからやるべき、各国の従業員に寄りそった透明なコミュニケーション

みなさんお馴染みの『Spotify』は、人事関連に特化したパブリックなソーシャルメディアを展開しています。驚くことに、ニュースレターを購読している人は約3,000人、Spotify Jobs Instagramは約36,000人もの人たちが登録しています。そして彼らは昨年、人事ブログに「フレキシブルな公休日を導入しました」と発表しました。

この「フレキシブル・パブリック・ホリデー」は、従業員それぞれが自由に休暇日を選択できる仕組みです。たとえば、クリスマスが祝日ではない国で働く人は、クリスマスデーに出勤して自分の重要な日に休みを切り替えることができます。

ヒンドゥー教の祭典「ディワリ」を祝いたい国の人はその日に休みを設定できますし、「同性愛反対の国際デー」を祝いたい人はそこで休暇をとればいいのです。 Spotifyは、企業や一般的な祝日が休暇日ではなく、従業員にとって特別な日こそが休暇日だと信じているのです。

そのような透明なコミュニケーションを取り入れ、自分たちのポリシーを世界中に広めることで、Spotifyは多様性を賞賛し、柔軟でグローバルな組織としてブランドを強化しています。


CASE #5

Uber

透明であるためリスクもあるけれど、問題が起こったときこそ透明性が活躍するケースも

透明なブランディングは良い面もあれば、もちろんその反対の「黒い」文化も公開されてしまうリスクを秘めています。私が以前2020年以降の記事で触れたように、『Uber』従業員の個人的なブログにより、性差別や性的嫌がらせが起こっている事実が露呈されました。そのような社内文化はブランドの責任となり、結果的にCEO解任にもつながりました。

現在、Uberはブランドを修復しようと忙しい日々をすごしていることでしょう。しかし、素晴らしいキャンペーンや新しいロゴを導入するといった表面的な手段で修復しようとしても、根本的な解決にはいたりません。

唯一の方法は、やはりブランドの内部から変化することなのです。Uberもそのことを理解し、今まさに達成しようとステップをはかっている最中です。


完璧な人も企業もない。今そのものが見える透明なブランドに期待している

人や企業も、決して完璧ではありません。消費者もまた、企業が関与しているブランドが完璧であるとは思っていません。私たちは間違いから学び、常に変化し、進化しているのですから。

消費者はブランドが完璧であることではなく、正しい方向に進んでいくことを期待しているのです。だからこそ、その進歩のプロセスを伝えるためにブランドを透明化していくことが重要だと考えています。

あなたのブランドが、今はまだ理想的なポリシーや文化が確立していなくて、消費者に見せられないと思っていても、それが完璧な状態になるまで待ってはいけません。

むしろ、あなたたちがポジティブに変化しようとしている今の状況や、そこに向かうためのプロセスを消費者に伝えてください。あなたがその旅の話をすることで、さらに透明なブランドになるはずですから。



WRITER

ボウスキル ジェイムズ / JAMES BOWSKILL
取締役兼CCO / CREATIVE DIRECTOR

University College of Ripon & York St. John卒業。イギリスヨーク州のMyKnowledgeMap (e-learning company) にてデザイナー兼プロダクションマネージャーとして勤務後、2001年に来日し、現在に至る。クリエイティブディレクション、アートディレクション担当。

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