株式会社EARTHBRAINは、建設プロセスのソリューションサービス「スマートコンストラクション」を展開しているスタートアップ企業です。コマツを含む大手企業 4社の出資を受けて設立され、土木業界を変革すべく、グローバルも視野に入れてCivil Techを推進しています。
今回はそんなEARTHBRAINでCTO兼CIOを務める、井川さんにインタビュー。現在土木業界が抱えている課題や未来、DXが生み出す価値など、業界の背景について詳しく伺いました。そしてその中で、EARTHBRAINが果たそうとしている役割やCivil Techの概要も教えていただきました!
土木業界の人手不足は、いずれ生活を脅かす致命的な問題となる
―最初に、土木業界が直面している現状について教えてください。
井川:現在の土木業界全体は、かなりの人手不足です。日本国内だけを見ても、今後数年で130万人の技能労働者が不足すると言われています。しかもこの業界は45万社と携わる企業数が多く、その多くの企業の生産性を高めていかなければならないのが現状です。
生産性を高めるためには現場のICT化が必須ですが、ICT施工の実施状況は、令和元年時点でわずか3割程度
です。
―土木業界の人口減少がこのまま進むと、将来的にどのような問題が起こるのでしょうか。
井川:単純に工事費が高騰します。また働き手がいないために、「やるべき土木工事ができない」状態にも陥りかねません。例えば道路工事や災害予防のための河川工事などですね。本来、我々の生活の安全を守るために必要な工事まで、できなくなってしまう可能性が高いのです。
DXの推進が土木をより魅力的な事業へと変革する
―だからこそ土木業界はDXが急務であり、御社がCivil Techに取り組んでいるのですね。
井川:その通りです。業界別にデジタル投資の比率を見ると、他業界に比べて土木業界の投資額は圧倒的に低い水準です。さらに言えば生産性も安全性も低く、まだまだ大きな伸びしろを秘めた業界だとも言えます。
―土木業界の「伸びしろ」について、もう少し詳しく教えてください。
井川:土木というのは文字通り、世界そのものを支える技術です。日本にはあまりないイメージかもしれませんが、グローバル視点で見るとCivil Engineering(
土木工学)
は非常
にランクの高い存
在なんです。
なぜ
なら、場所
が地球
であれ宇宙
であれ、人間
が最初に行うのは土木つまり、人が住
む場所
と道路を作
ることだからです。土木は人類
の次
なる生活の場を作
り出す、大きな価値を持
つ事業だと言えます。
ここに対
して上
手くデジタルを活用
できれば、人手不足の解消
はもち
ろん、工事の安全性も高めて、次
の世代
がワ
クワ
クするような、魅力的な業界を作
り出せるはずです。
施工プロセスの一部分
を改善
しても大きな付加
価値は生まれない
―土木業界の魅力がわかった気
がします。実際にDX推進の現状はどうなっているのでしょうか?
井川:施工プロセスに対
して、単体のソリューションを提供
している企業はいくつか存
在します。ただ、それはあくまで部分
的なデジタライゼ
ーションです。建設プロセスの最初から最後まで一気
通貫
でデジタル化するような、本質
的な取り組みを行っている企業はまだまだ少ない状況です。
―一部
のデジタイゼ
ーションでも、効
果はあるのではないでしょうか?
井川:もち
ろんそのプロセスに対
しては改善効
果があります。例えば施工のデジタイゼ
ーションというと、ドローンを用
いた建設現場の測量
も一
例ですが好
例ですね。ただし、ここには一
つ落
とし穴
があります。3Dで測量
データを取得
しても、その後の計画
を2Dで立てていてはボ
トルネ
ックが生まれてしまう、という点です。
つまり自
社で優
れた製品
を単体で開発
しても、大きな付加
価値は生み出せないのケ
ースが多いのです。そこでEARTHBRAINが目指
したのが、プロセス全体で横串
を通し、最初から最後までデジタルを活用
することで現場を改善
する世界観でした。
先端
技術を用
いた大規模ソリューションをスタートアップならではのスピ
ードで開発
―改
めてEARTHBRAINの概要と、御社が推進しているCivil Techについて詳しく教えてください。
井川:当
社のビジョンは「建設生産プロセスをデジタル技術で最適
化し、工事の生産性・
安全性・環境適応
性を飛躍
的に高める未来の現場を創造
する」というものです。
EARTHBRAIN自
体は、もともとコマツが開発
していたICTソリューション「スマートコンストラクション」をベ
ースに立ち上げ
られました。コマツのほか、NTTドコモ
、ソニ
ーセミ
コンダ
クタソリューションズ
、野村総合研究所
の4社から出資を受けています。当
社の特徴
は、出資企業が持
つトップクラスの技術・知
見を駆使
しながら、実際に現場で使用
するハ
ードウェ
アや、それらを活用
するためのWebアプリケ
ーション、クラウ
ドプラットフォ
ーム
といったソフ
トウェ
アまでを網羅
的に提供
している点です。いわゆるフ
ルレ
ンジでプロダ
クトを展開しているCivil Tech企業は、ほかに例がありません。大規模なソリューションを、スタートアップ特有
のアジャ
イル的なスピ
ード感
で提供
できる。これが当
社の大きな強
みです。
―具
体的には、どのような技術を用
いてプロダ
クト開発
を行っているのでしょうか?
井川:例えばドローンを用
いて建設現場の画像
を大量
に撮影
し、エ
ッジコンピ
ューティ
ング技術を用
いてデータを処理
します。すると、現場の経
度と緯
度・
高さの測量
を一瞬
で取得
できます。
データはWebサイト上
で高速
に3D表示
が可能です。これは海外
の企業と共同
開発
した技術で、日本ではス
マートコンストラクションが先駆
者的存
在です。さらに現場をヒ
ートマップのように表示
して、どこを削
り、どこに土を入れるのか、最終
的な設計図
面との差分
なども表示
します。
とはいえ、ただの可視化では現場の生産性は上
がりません。どうすれば最短
ルートで土を運
べるのかを、シミ
ュレ
ーションツールを用
いて計算
します。非常
に複雑
性の高い問題なので、ここには機械学習
を用
いています。IoTやWebアプリケ
ーション、ディ
ープラーニ
ング、機械学習
。あらゆる技術を用
いて、社会インフ
ラ……
となるような一気
通貫
のプロダ
クト開発
をしているのです。
優秀
なメンバーとともに積極
的なグローバル展開を図
っていく
―EARTHBRAINの開発
組織
に関
わる面白
さは、どんなところにあるのでしょうか?
井川:スタートアップでありながら、描いている世界観のスケ
ールが大きいところでしょうか。当
社は近
い将来、世界規模の企業にまで成長
しようと考
えていますし、土木市
場にはそれだけのポテ
ンシャ
ルもあります。例えば現在日本の土木市
場は24兆円
規模で、このうち
工事に必要な直接
的費用
は全体の65%
ほど。これをスマートコントラクションのを導
入するとで、2~
3割ほどの改善
した実績
があります。日本市
場だけでも3~
5兆円
ほどの価値創造
が見込
めるのです。さらにグローバルに目
を向
けると、市
場規模は一気
に10倍
にまで膨
れ上
がります。特
に注目
すべきは、広
大な土地
を造成
しているアメリカ
です。
これを踏
まえ、当
社は2022年4月
からアメリカ
に支店
を展開しました。今後はオ
ーストラリア、ヨ
ーロッパ
に進出予定
です。繰
り返
しになりますが、これだけの規模のプロダ
クトをグローバルに展開していけるのは、当
社だけだという強
い自負
があります。その背景としては、もち
ろん日本のトップ企業からの出資を受けていること、また出資企業から優秀
な人材
がジョインしている部分
が大きいです。
とはいえ、当
社は立ち上げ
からまだ約
1年の非常
に若
い会社です。外部
から採用
された人材
も多く、特
にエ
ンジニ
ア組織
は20代
のメンバーがチ
ーム
リーダ
ーを務めるなど、自由
度が高いチャレ
ンジングな環境
です。ある程度技術力のある方であれば、希望次第
ですぐ
にでもアメリカ
に出向
しより一層
スキ
ルを磨
くこともできます。エ
ンジニ
アにとっては、これ以上
ないほどワ
クワ
クできる環境
なのではないでしょうか。