オフィスの枠を超えたコミュニティづくり
――話は少し変わりますが、ウィズコロナの時代です。会社として何か対応をしていますか?
緊急事態宣言中は、全員リモートワークで対応するようにしていました。また、社員のワクチン接種を行ったりしています。会社を経営する基本だとは思いますが、ご家族にも安心していただきたい面が大きいです。
――コロナ禍で、社員のみなさんの働き方は変わりましたか?
個人の働き方は、あまり変わらないと思っています。緊急事態宣言が明けるタイミングで、完全リモートか全日出社かを選べる機会を設けました。週に数日だけのリモート勤務は取り入れていません。出社しているかどうかわからないと、周囲がやりにくいじゃないですか。中途半端を設けないのは、コミュニケーションをとる相手のためでもあると思っています。
結果、ほとんどの全員が全日出社を選択しました。これは、僕自身驚きでした。
――それだけ働きやすい環境なのですね。
どうですかね。働きやすいといえば、社員にいいものを食べてほしいという想いはあります。食は人間のベースを作るもの。体調やメンタル面に影響するのではないかと思い、悪いものはあまり食べさせたくないです。
フォースリーでは、米とみそ汁が無料で食べられます。他にも1品50円で総菜やジュースが買えます。給与天引きなので、新入社員などで今月の給料がピンチの時に重宝されているようです。米は、先日社員と収穫してきたので、たくさんありますし。
――収穫ですか?もう少し詳しく教えてください。
フォースリーでは、淡路島に田んぼを持っています。管理は現地の仲間にお願いしておりますが。
先日、社員から希望者を募って淡路島に稲刈りに行きました。食というのはコミュニケーションの道具のひとつだと考えています。人は食を通して様々な感情が生まれます。
私自身が淡路島に初めて訪問した際、農家の方にパクチーをいただきました。正直、これまでパクチーに対して特に思うことはなく、強いて言えばあんまり好きではないなというくらいしかなかったのですが、初めて「味が美しい」という感情を抱きました。
今まで、高級なものや美味しいものは色々食べてきましたが、こんな感情は初めてでした。普段広告の仕事をしていると、淡々と「美味しい」と書いてしまいます。
私たちの目指すのは、味が美しいという感情までをも伝えられる表現です。
たとえば漢字一つにしても、奥深さを理解して表現できれば、同じことを言っているのに伝わり方が全然違う。広告業=コミュニケーション業と定義しビジネスを営む僕らのスキルに関わることなので、それを感じてほしくて淡路島に連れて行きました。
これからの時代、言語コミュニケーションだけでは得られない実体験を通じて、受け手の感情を動かす表現力を磨くことが重要だと考えています。
――貴重な経験をされたのですね。
淡路島に行ってやったことといえば稲刈りをして、美味しいお酒をいただいて、火を囲んでたわいもない話をしただけです。不思議なのは、焚火をはじめると、みんなが上着を着込んで集まるんです。
そして、家に帰ると温かいお風呂に入って暖房の効いた部屋で眠る。焚火って、よく考えるとムダや矛盾しかないです。暖をとるならもっと便利な方法、効率的な方法はいくらでもありますよね。
しかし誰かと一緒に火を囲むと、その場でしか味わえないポジティブな感情が生まれます。この共通体験こそが、人間が何千年もかけて作り上げたコミュニティの作り方なのだと実感しました。
こういうことって、人間がずっと紡いできたものなので、簡単には変わらないと考えています。
私たち広告代理店は、人の感情に働きかけるのがミッションです。私たちが、効率化を求めれば求めるほど心が奪われて無機質なものになってしまうのではないかと考えています。古臭い考えかもしれませんが、人間は感情の生き物なので、社員のみんなの感情が豊かになることが重要だと思っています。
だから、言葉にしにくい感情の部分こそ大切にしたいですね。
時代をリードする広告代理店へ
――広告業に関するコミュニケーションのお話を聞かせていただけますか?
心理学の「メラビアンの法則」によると、人が物事の情報を入手するとき、言葉からの情報はわずか7%だけだと言われています。効率的に言語化することを考えると、インターネット検索で言葉はたくさんでてくるのですが、インターネットでは検索できない感情表現の部分が重要です。
そこに、人の感情を動かし、強い共感を生むコンテンツが出てくるのではないかと思っています。
――強い共感を生み出すうえで大切にしていることはありますか?
本来、一つ一つの数字の向こう側には、当然クリックした人や何かを申し込んだ方がいらっしゃるのをイメージするべきです。しかし日々、効率や数字を追い求めすぎていると数字の向こう側にいる人のことを忘れがちになります。
そんな中、無機質に数字だけを追い求めていると会社の運営は良くなり、財政面でも良くなっているのにもかかわらず、なぜか寂しさを感じてしまう。社員には、自分たちが普段やっている仕事の一部が、後世に続く価値を残しているのだと実感してほしいと思っています。
その取り組みの一環として、フォースリーでは、サンゴ礁の保全活動をしています。地球温暖化で海水温が上昇してしまっています。これは人間の体感温度からすると季節が違う位の差ですが、生態系に影響が出る温度です。現に、これまで見られなかった場所にサメが出没したり、台風が起こったりしています。
さらに、2021年は海が元々持つ生産能力を人の消費が逆転するそうです。
消費が生産を上回ってしまう。食物連鎖の原点と言われるサンゴを守り、海の状況を少しでも良くするのが僕たちの役目かなと思って活動しています。サンゴが生態系に影響するのはおそらく何年も後だと思います。
なので、自分達の行動の影響を海洋ベースで何か感じることはできないと思いますが(笑)。
別にこれを社会貢献とかSDGsとかいうつもりはないです。正直、そういうことに興味もなくて、ただ自分たちが価値のある取り組みだと信じて活動した結果、仲間の感情が豊かになればと願っています。
周りから勝手に社会貢献とかSDGsとか言われるのを拒否はしませんけどね(笑)。
――増床も完了し、新たなスタートを切るフォースリーの目指す姿を教えてください。
フォースリーは、前述した7%の言語の部分では業界的にポジションを築けていて、ある程度
やれているとは思っていますし。今のビジネスモデルで他社に負けたくないというのはもちろんあります。しかし、我々のアイデンティティは、言葉だけでは表現できない部分にあると考えています。
新しい挑戦として、人の感情の琴線に触れる表現ができる広告代理店に進化するのが目標です。