1
/
5

僕は勉強ができない

流されるままに生きている人生だってある。
ちょっと退屈かもしれないけれど、僕の社会人としてのストーリーを書いてみた。

僕の場合はまさにそうだ。
大学受験に失敗し、時流に流されるままにコンピュータの専門学校に入学した。そこで友人だってできたし、それなりに楽しい学生生活は送れていたとは思う。珍しい4年制の専門学校だったが、3年の最後にインターンシップでお世話になった会社に流されるまま就職した。
3か月の新人研修後、現場に配属された。その後6年間という期間の中でプロジェクトとしては2つしか関わらなかった。長期的に同じプロジェクトに参画できたことは幸運だったと言えよう。しかし、仕事の内容と言えばプログラムの製造とテストだけだったので退屈ではあった。
このときちょっとだけ勇気を出して転職してみた。
2社目は自社サービスを展開する会社で、今までとは全く考え方が違い、色々と学ぶことが多かった。サービスの特性上、夜中に障害でたたき起こされることも少なくなかった。前職のときに結婚はしていたのだが、新婚旅行に行けていなかったのでプライベートでの初海外旅行としてフランスに行ったのだが、その時障害電話を受けホテルで障害対応をしたのも振り返ればいい思い出…いや、今思い返してもちっともいい思い出ではない。その後新規サービスの立ち上げに参画し、その運用も担当することになった。すると夜間・休日対応はさらに増えた。当時とても気難しい上司がいて、その人と話すのも億劫だった。それだけではなく、各部署間の調整も大変だった。みんな好き勝手言うんだもん。
そういうこともあって、ここでも5年ばかり働いたら疲れてしまったので、僕は現実から逃げることにした。転職である。
今の会社に転職が決まりそれを上司や役員に伝えたが、結局その上司は最終出社日まで一言も口をきいてくれなかった。悲しかった。
そんなこんなで今の会社で働き始めた。
こうしてまとめてみると、実に清々しいほどに流されてきた人生である。

でも、そんな人っていっぱいいるよね。
夢なんてない、やりたい事なんてない。努力するのは面倒、勉強はしたくない。
こんな風に企業の紹介ページにのっている人なんだから、きっとキラキラした人生を送っているに違いない、頭もいいに違いない、これまでずっと活躍しているに違いない、そんな風に思うかもしれない。
勿論無感情な生き物ではないのだから、「あ、これいいな」とか「こんな風になりたいな」とかそう思うことはいくらでもある。小さな火は灯っても、それが大きな炎になることはなかった。

そんな状態でクロス・コミュニケーションに入社した。
まず嬉しかったのは、上司が気難しくなかったことだ(笑。チームのメンバーは年下が多かったが、みな気さくで話しやすくて心地よかった。何だったらチームのリーダーの年齢が下から二番目といった状況だった。前職で気難しい人に囲まれて状況から比べたら、天国と地国ほどの差だった。
肝心な仕事は難しいことが多かった。今まで費用の管理はしてなかったし、何だったらWEBデザインやスマートフォンアプリの仕事なんか考えたことすらなかった。
それでもこなさなければいけなかった。チームのメンバーが積極的に助けてくれたのは嬉しかった。また、稼働が管理されており一人に作業が集中しない仕組みがあることは素直に驚いた。
その中で上司からこういった問いを受けた。
「高木さん、SEOってわかります?」
今までの経歴の中でバックエンド機能を多く作成していた僕は、フロント部分に関する知識は乏しかった。
「名前だけは聞いたことあります」
すると彼は自分の机の本棚から1冊の本を取り出して僕に渡した。
「とりあえず、これ読んでみてください」
IT業界で働き始めて10年以上経っていたが、本で学習をしたことがなかった。良く考えれば学校の授業でノートなんかとったこともなかったし、本当に勉強というものをしたことが無かった。
もしかしたら、これはチャンスかも。
ふとそういった思いが脳裏をよぎった。とりあえずその本を読んでみることにした。
本で得た知識を元にしながら、また同僚に仕事を教えてもらいながら、いろいろ苦労はあったもののなんとかその案件はこなすことができた。
その後WEBサイトのデザイン案件を実施することになった時、デザインなんてわかんねーよ!と危機感を感じた僕は初めて自主的に勉強をした。
本当に自分から勉強をしようと思ったのはそれが初めてだったと思う。先に知識を得ていたおかげで、その案件はトラブルなく対応できた。
今までの人生と何かが変わったわけではなかった。
それでも、なぜだか自分から勉強をするということができるようになった。小さな火が、少しだけ大きな火になったのだ。着火剤に灯った火から、たぶんバーベキューで使う炭火くらいに。
上司やチームのメンバーは僕に良く物事を教えてくれたし、おかげで僕は助かることが多かった。彼らが好きだったし、そんな人たちに認められたい、と思ったことがキッカケだったかもしれない。原因はよくわかってないけれど、それでも炭火はできたのだ。間違いなく僕はその時幸せだった。

僕はこの年齢になって自分の人生の目標を見つけた。それは、せめて自分の目の届く周りの人くらいは幸せになってほしいということだ。
そこで初めてやりたいことができた。
この感覚を、他の人にも味わってほしいと思ったのだ。

たまたまそのタイミングでチームに新卒の社員が加わった。僕は彼の教育係に立候補し、一緒にシステム開発を通しながら様々なことを伝えた。彼が成長していくことが僕は嬉しかったし、楽しかった。
僕は上司と役員にこういった仕事を積極的にしたいと訴えた。
そして今年、また新卒の社員が加わり、彼女の教育係も僕は引き受けた。
社会人になって最初の"先輩"になるというのは、とても責任があることだと思っている。だって、社会人になって最初の先輩がすごいイヤなヤツだったら、その後の人生、仕事に対して絶対歪んだ気持ちを持ってしまうと思うからだ。
だから僕は勉強することにした。教育やマネジメントといった様々な本を読んだ(今も継続している)。
目的を持ったからこそ、動くことができたのだ。

こんなことを書くと会社に怒られるかもしれないけれど、僕はそういった彼らをうちの会社で活躍できる人にしたいのではなく、一人の人間としてハッピーになるための技術を身に着けるために教えたいと思っている。
勿論それは新卒みたいな若手に対してだけではなくて、中途入社した社員や、はたまた上司に至るまで、自分の目の届く範囲の人はすべてハッピーになってもらいたい。だから、自分が役に立つことは伝えたい、と思っている。

だからもし、僕と一緒に仕事をする機会があったら、あなたの幸せにも真剣に向き合いたい。だって、人生の中で仕事をしている時間ってとても長いから。
そして、あなたの薪に火がついていないのなら、種火をそっと分けるくらいのことはできると思う。

6 Likes
6 Likes
Like Hiroshi Takaki's Story
Let Hiroshi Takaki's company know you're interested in their content