聴くだけで信頼される「ビジネスヒアリング」のコツVol.01
本日のKeyword:「キーワードを拾って真意を問い、独自性を測る」
“初対面の相手から本音を引き出す”。僕らプロのインタビュアーには、そんなハードルの高い命題が課せられる。本音を語ってもらうためには、与えられた時間の前半、できるだけ早い時点で相手の信頼を獲得しなくてはならない。“こいつにだったら、何でも話して良いかも”という気持ちにさせる必要があるということだ。
人は自分の理解者に心を開く、あるいは同じような感覚、感性を持っている人と話を続けたくなる。しかし、口先だけで「わかります~」といったところで簡単に見抜かれる。だから、ちゃんと相手の話の真意を正しく理解し、共感する必要があるのだが、この共感は職業的な共感であってもいい。すなわち、“僕とは考え方は違うけれど、この考えにも一理あるし、多くの人が支持する理由もわかる”的な、いわば、第三者目線による職業的共感で良いと思う。
理解と共感は別物だし、僕らインタビュアーは理解者であるべきで、必ずしも共感者でなくてもよい。逆に、誰に対しても等しく、職業的共感を持つ必要があるし、そのためには僕らは常に物事をフラットに見る、偏った見かたをしないという基本姿勢は死守すべき。そして相手が語る本音に素早くリーチし、理解者であることを示し信頼を得る。本音の中から、相手が大切にしている“本質”を見つけ出し、正確に形をつかんで、それを温度感も含めて正確に言語化して示し、確認をする。「あなたが言っているのは、こういうことですよね」「こういう理解で正しいですか?」と。
インタビューの冒頭、僕はじっくり相手の話や声色に耳を澄ませ、重要なキーワードを拾い、気持ちの入り方を察知するよう心がける。話慣れている人ほど、さらっと表面的なシナリオみたいにしゃべる。それを“なるほど、なるほど”聞き流して理解したつもりになってはいけない。その事前に用意されたシナリオの中に、本質につながる糸口がちりばめられていると理解した方がいい。その糸口を見つけ出せるかどうか、まさに聞き手の技量が問われる。実に重要な時間だ。以前にも別な切り口で、“インタビューの冒頭を制することの重要性”について書いたことがある。
冒頭、しゃべりまくるインタビューイーを制御して、トークの主導権を握って、本来のインタビューの目的を達成するテクニック
https://a-i-production.com/column/2023-01-10
しかし、こちらの記事では、「インタビューの冒頭時間は、相手の人間性を理解し、職業的共感を醸成するためにも重要だ」ということを伝えたい。そのわずかな時間で、相手の理解者である僕のことを好きになってもらいたいのだ。そして会話を楽しんでもらいたい。楽しい会話の中で僕に本音を語って楽しい時間を過ごしてもらいたいのだ。
冒頭、僕はとにかく全集中で相手の話に耳を傾け、心にひっかかるキーワードをメモする。そのキーワードにはいくつかの種類がある。こだわっていることや頻出する言葉とか、業界的にはあまり使われない表現、他の人が口にしない表現、あるいは、“あえてそう表現しているんだろうな”と感じる言葉。そこを指摘して、“どうして、そういう言い方をするのか”“なぜそこにこだわるのか?”“なぜ重視するようになったのか、その源流はどこにあるのか?”などなど真意を深掘りする。その言葉を、あえて使っているのであれば、あえて使う理由がある。業界慣習から外れていても、あえてそれを続けているには、続ける理由や強さがある。「一般的には、こうですが、あなたは違うのですね」と指摘しつつ、その真意を問い、まずは“なるほど”と飲み込んで理解を示す。相手が大切にしていることに気づいてあげるのだ。そして軽く褒めてあげる。
実はその“大切にしていること”のなかに、その人のオリジナリティが垣間見られるケースが多い。言い換えるならば、僕らが掘り当てようとする本質とは、その人のオリジナリティだ。物理学的な本質=法則は万物共通だが、人は違う。僕が捉える本質とはその人の独自性だ。人は一人として同じ人はいない。こだわりが形成されるまでの過程が違う。そこを鮮明にしてオリジナリティを明確化する感覚。その“本質”は“本音”の中にある。突っついてあげれば、“本質”は勝手にあふれ出す。その“本質”の言語化をサポートしながら促すのが僕らの仕事だ。そして理解を示し褒めてあげる。そうすれば相手のハートをがっちりとつかめる。
冒頭で信頼を勝ち取ったとしても手は抜かずに、終始キーワードを探して追求し続ける。どんなに流ちょうに話せる人でも、しっかり聞けば、“なんで?”“どうして?”と突っ込みたくなる深掘りポイントが出てくる。その人のすべてを理解するためには全力でヒアリングするのだ。突っ込めば突っ込むほど、その人の口からオリジナルな金言が飛び出してくる。逆に言えば、突っ込んでも十分に語れない人は、どっかから借りてきた言葉を並べているだけの人だということがわかる。鋭い質問は、その人の人としての質をあぶり出すリトマス試験紙になりうる。