Indeed CEOが認めた「採用プロセスはおかしい」
2026年9月Fortune誌にこんな記事が掲載されました。Indeed CEOの出木場久征氏が、現在の採用市場について「vicious cycle(悪循環)」に陥っていると問題提起したものです。
(出典:
2022年から2025年にかけて1求人あたりの応募数が111%増えた一方、採用担当者は56%減少しているというデータが示されています。求職者はAIで履歴書や志望動機を作り、大量の企業に応募する。企業側はAIで大量の応募をスクリーニングする。採用ソフトウェア会社GreenhouseのCEO、Daniel Chait氏はこの状態を「AI doom loop(AIの悪循環)」と呼んでいます。
出木場氏は「1,000件の応募が来て、本当に1,000人全員が不適格なのか。何かがおかしい」と述べています。
この問題提起には採用支援の現場にいる立場として強く共感します。ただ、同時に一つの疑問も持ちました。そもそも私たちは長い間「応募しやすくすること」ばかりを、採用にとって良いこととして追求し続けてこなかったでしょうか。
なぜ「応募しやすくする」ほど採用が難しくなるのか?
応募コストがゼロに近づくと何が起きるか
かつて求職者が10社に応募するには、相応の時間と手間が必要でした。求人を読む、履歴書を作る、志望動機を書く、企業ごとに内容を調整する。こうした手間が「本当に応募するかどうか」を考える時間にもなっていました。AIを使えば、これらの作業は大幅に短縮されます。Indeed自身も「Apply For Me※」という機能のテストを開始しました。
※AIを活用して求職者のプロフィール情報や履歴書を基に応募内容を自動作成し、条件に合う求人へ自動的(または簡略化された手順で)に応募をサポートする機能。
しかし、大量で関連性の低い応募を企業側が懸念していることを認識し、自動応募モードを一旦停止しています。応募数を増やすことと、良いマッチングを増やすことは必ずしも同じ方向ではないとIndeed自身も気づきたのではないかと推察されます。
「応募しやすい」と「採用しやすい」は別の話
求人広告業界では長い間、「求人を見る→応募する→面接する→採用する」といったファネルで採用活動を考えてきました。入口の応募数を増やせばその先も増えるという考え方です。一定の確率で次の工程へ進むのであれば、母集団を増やすことには合理性があります。しかし応募時の摩擦が極端に小さくなることで、この前提は崩れます。
求人をほとんど理解していなくても応募できる。適合度がそれほど高くなくても「とりあえず応募しておこう」ができる。すると応募数が増えても、その中に企業が本当に会いたい人が増えているとは限りません。
例えば、「1,000応募・採用0人」と「5応募・採用1人」では、どちらが採用成功でしょうか。応募数が増えることと、採用可能性が高まることは必ずしも同じではありません。
AI時代の採用で「応募数」より重要なKPIとは
採用のマッチング精度を測る指標に変える
「今月は何件応募がありましたか?」これは採用支援の現場でもよく使われる指標です。応募がゼロなら採用もありません。ただし応募が簡単になればなるほど「1応募」が持つ意味は薄くなります。
AI時代に重要になるのは、以下のような採用プロセス全体の指標です。
- ターゲットに合う応募は何件だったか
- そのうち何人と面接できたか
- 何人が内定・入社したか
- 入社後に定着・活躍しているか
例えば「100応募→10面接→1入社」だった採用が「30応募→12面接→3入社」になれば、応募数は70%減っています。でも採用は明らかに改善しています。応募数を最大化することではなく、応募から活躍・定着までのマッチング精度を高めること。AI時代には、こちらが採用成果を測る指標として重要になっていきます。
AI同士が応募と選別を繰り返す「doom loop」から抜け出すには
Chait氏が指摘する「AI doom loop」の構造はこうです。
応募が増える→採用担当者だけでは処理できない→AIでスクリーニングする→求職者側はAIによる選考を通過するためにAIで書類を最適化する→企業側はさらにAIを使って見極める。
AIを採用で使うこと自体に否定されるものではありません。求人原稿を整える、スカウト文を作る、面接記録を整理する、採用データを分析する。AIによって効率化できる仕事は数多くあります。
問題は「人と企業を理解する」という採用の本質まで効率化の対象にしてしまうことです。
AI時代の採用設計で中小企業が取るべき3つの対策
対策① 応募の"操作"は簡単に。"意思決定"まで軽くしない
応募フォームが簡単であること自体は悪くありません。スマートフォンから応募できる、履歴書を何度も入力しなくていい。こうした利便性は求職者にとって必要です。だから、応募の「操作」は簡単でいい。でも、応募するという「意思決定」まで軽くする必要はありません。
「この会社は何をしているのか」「自分は何を任されるのか」「どんな人たちと働くのか」「自分に合う会社なのか」。こうしたことを理解した上で「それでも応募したい」と思ってもらう。
応募の手間を増やすのではなく、応募前の情報量と理解度を上げる。これが応募が容易になる時代に企業側ができる一つの対策です。
対策② 「応募後に選ぶ」から「応募前に選び合う」設計に変える
これまでの採用は「応募→選考→見極め」に多くの力を使ってきました。応募者を集めて、その中から会社に合う人を選ぶ。しかし応募が大量化すれば企業側の選考コストも増えます。
だからこそ、応募されてから選別するだけでなく、応募する前にお互いの理解を深める設計が必要になります。
- 仕事内容を具体的に伝える
- 職場の写真や動画を公開する
- 会社の良いところだけでなく大変なところも伝える(Realistic Job Preview)
- どんな人が活躍しているかを書く
- どんな人には合わない仕事なのかも伝える
求職者がそれらを見て「自分には合いそうだ」あるいは「自分には違うかもしれない」と判断できる状態をつくる。以前の記事「採用で『弱み』を隠す会社ほど、ミスマッチが起きる」でも書いた通り、合わない人から応募されないことも採用設計の成果です。
参考:
https://www.katawara.co.jp/blog/message0040
対策③ AIに渡せる「自社固有の情報」を持つ
AIによって文章を作ること自体の価値が変わっています。求職者はAIで志望動機を書ける。企業もAIで求人原稿を書ける。双方がAIを使えば文章は整っていきます。しかし同時に似たような文章も増えていきます。
だからこそこれから価値が高まるのは、その会社にしか存在しない一次情報です。
- なぜ社長はこの会社を経営しているのか
- なぜ社員はこの会社に残っているのか
- 活躍している人にはどんな共通点があるのか
- 過去に辞めた人とは何が合わなかったのか
例えばこうした情報は、AIに「求人原稿を書いて」と指示しただけでは出てきません。経営者に聞く、社員に聞く、退職者に聞く。そこで得た一次情報を言語化し、AIも使いながら求職者へ届けていく。AI時代の採用で差がつくのは「AIを使うかどうか」ではなく、AIに渡せる自社固有の情報をどれだけ持っているかです。
IndeedなどのAI・求人プラットフォームとの正しい向き合い方
Indeedを使わないという話ではない
ここまで書くと「ではIndeedを使わない方がいいのか」という話になりそうですが、そうは思いません。Indeedは現在の採用市場において企業と求職者が出会うための最も重要な接点の一つです。特に中小企業では自社の採用サイトだけを作って待っていても、求職者に存在を知ってもらえないことがあります。
問題は、Indeedを使うことと、Indeedに採用を任せることは違うということです。
以前「採用チャネルを整理する前に、やるべきことがある」という記事で、Paid・Owned・Earnedの3つのメディアに分けて考える話を書きました。求人媒体は求職者との接点をつくる「Paid」の役割を担います。しかし接点をつくることと「この会社で働きたい」と思ってもらうことは同じではありません。
参考:
https://www.katawara.co.jp/blog/message0003
- 求人プラットフォームで知ってもらう(Paid)
- 採用サイト・ブログ・SNSで会社の考え方を知ってもらう(Owned)
- 社員の声や口コミから実態を確認してもらう(Earned)
この3つを企業自身が設計する必要があります。AIによって応募が簡単になる時代ほど、この考え方が重要になります。
まとめ:AI時代の採用で問われること
求人メディアは長い間「応募しやすさ」を進化させてきました。その価値を否定するつもりはありませんが、AIによって応募コストがさらに下がった今、「応募を増やすこと」と「良い採用を増やすこと」は本当に同じなのか、改めて考えるタイミングに来ています。
Indeedは使う。でも、Indeedに採用を任せない。
AIも使う。でも、AIに採用そのものを任せない。
応募の摩擦がなくなっていく時代だからこそ、企業には逆説的に、自社の採用を自分たちで設計する力が求められます。求人プラットフォームやAIが進化すればするほど、「誰を採りたいのか」「なぜ自社なのか」「何を伝えるのか」という問いは企業側に残ります。
むしろその問いの重要性は、これまで以上に高まっていきます。
株式会社Katawaraは、「採用で、経営を変える」をテーマに採用支援を行っています。IndeedをはじめとするAIや求人プラットフォームを活用しながらも、採用ターゲットの設定・自社固有の魅力の言語化・採用チャネルの設計・応募後の選考・入社後の定着までを自社で考え改善できる状態をつくる。「採用を自社に取り戻す」ための仕組みづくりを支援することも、Katawaraの役割だと考えています。お気軽にご相談ください。