組織や仕事の変革に「伴走者」が求められる理由 ~シリーズ「変革する人には伴走者が必要だ」①
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新型コロナの感染拡大もあり、社会の動きが不確実な現在。中長期的に企業が成長し続けるために求められることや、組織におけるプロジェクトマネジメントの難易度は確実に上がっています。
それはビジネスの世界だけでなく教育や行政などにおいても同様。明確な答えのない課題に直面して、的確に、そして迅速に判断をしなければならないシーンが増えています。
このような状況下、ビジネスや教育の世界で注目を集めているのが「伴走」という概念。ソフィアは創業以来、顧客企業の組織変革において伴走型のサービスを提供してきました。
「組織の変革はなぜ行き詰まるのか」
「伴走とは、いったい何なのか」
「伴走によって求められるものは何なのか」
多くの企業が抱えるこうした疑問を、シリーズ記事で解き明かしていきます。
今回は、ソフィアで伴走型による企業の変革支援に携わるメンバーが、「組織はなぜ変革に行き詰まるのか」「組織変革において必要とされる伴走支援とはどのようなものか」について語ります。
【メンバー紹介】
森口静香(右上)
伴走型の組織変革コンサルティングを得意とし、小売業やメーカーなどさまざまな業種、さまざまな規模の企業に対する変革支援の実績を持つ。組織の内部に深く入り込んで人間関係を解きほぐし、当事者以上に当事者意識を持ってキーパーソンの背中を押すスタイル。
廣田拓也(左上)
「お客様の半歩先を行く」をモットーに、顧客の課題意識を察知してタイムリーな問いや情報を繰り出しつつ、顧客自らがイシューにたどり着けるようサポートする。最近は教育の分野において、地方自治体とのコラボにより公立高校の探究型学習導入に向けた現場の変革支援に取り組んでいる。
聞き手:三上晃潤(下)
ソフィアにて事業開発を担当。数多くお顧客の声に耳を傾ける中で、伴走型支援のニーズ増加を感じている。
“手探り経営”をしている企業が増えている
三上:ソフィアはかれこれ10年以上にわたって大手企業のビジョン浸透や組織変革の支援をしてきましたが、最近、企業自体のあり方が変化しているという声をよく耳にします。企業のご担当者とお会いしたとき、組織運営に関する悩みや相談をお聞きすることはあっても、何を解決すべきなのか、明確に定まっている企業はほとんどない状況です。そういったこともあって、以前からソフィアの中で「伴走型支援」と呼んでいる支援のあり方が、一層求められているように感じています。
森口:いま、動いているプロジェクトを考えても、企業から「こういうことで困っている」「解決策を示してほしい」と具体的に相談を持ちかけられて始動したケースはほぼ皆無。たとえば、本題とはまったく関係のない周年記念の提案をしていたら、いつの間にか組織課題の話になった、というようなケースが多いかな。
廣田:現在、多くの企業がモヤモヤしたものを抱えているのでしょうね。モヤモヤの正体はわからないけれど、何か解決しなければならない課題があるのはわかる。いってみれば、そうしたモヤモヤの正体を突き止めて、一緒に解決策を考えるのが私たちの役割。
森口:ソフィアには以前から「壁打ち」という言葉がありますよね。これは、企業の担当者と何度も会話を繰り返し、組織課題を深堀りしていくこと。こうした壁打ちを繰り返すうちに企業との距離感が縮まり、お互いの目線がそろってくる。その過程を経てようやく本当の課題が見えてきて、お客様と一緒になって組織の課題に立ち向かう体制が整うのだと思います。
廣田:そう考えると、壁打ちの段階でソフィアの伴走支援は始まっているんですね。最近では企業だけでなく、教育や行政の現場でも伴走支援を求める声が大きくなっています。たとえば学校では、大人が子どもに正解を教え育てる「教育」から、子どもの気づきを大人が支えて育むことが重視されるようになってきており、文部科学省が教育関係者に向けて発信したメッセージなどにも「伴走」という言葉が登場しています。社会全体として、一方向的に正解を求める「コンサルティング」や「指導」「教育」ではなく、ともに考え、ともに進む「伴走」を求める動きが目立ってきているのではないでしょうか。
なぜ、現代社会で「伴走者」が求められるのか?
三上:特に近年、伴走支援を求める声が大きくなっているように思います。その背景には何があるのでしょうか。
廣田:一つ目は、「現代社会は不確実性を増している」ということ。社会の構造が複雑化するとともに不確実性が増し、組織の課題もますます漠然としてきている。そのなかで、組織のリーダーに求められる役割も変化しています。時代そのものが変化したということが、大きいのではないでしょうか。
森口:状況が刻々と変わる中、組織マネジメントやプロジェクトマネジメントの難易度が特にこの3年くらい急激に上昇しているのを感じます。「既存事業は右肩下がり。新規事業を立ち上げなければならないけれど、そんな簡単な話ではない」「いろいろな事業を始めてみたが、一体どう整理したらいいのかわからない」。そんな悩みを抱える企業が増え、求められる経営者の人物像も変わってきているのを感じます。
廣田:リーダーひとりが強力な権力を持ち、すべての責任をひとりで負うことは難しい時代だからこそ、共に考え、進んでいく伴走者が必要になるんですよね。組織や事業を取り巻く問題は複雑化して、リーダーも答えを持っていないにもかかわらず、組織の中でリーダーに対して率直に意見できる人はなかなかいません。組織外の人間なら社内の前例や組織の常識にとらわれずに視点や視座などを偏りなく持つことができますし、第三者だからこそ気づくこともあるでしょう。そして何よりも、組織内の利害関係や上下関係に縛られず、常に目的思考で、リーダーに対して意見を出すことができます。
三上:かつてのように、権力が一元的に集中した、支配型のリーダーシップが求められた時代とは組織のあり方が違うのでしょうね。
森口:裏返せば、もはや旧式のリーダーシップでは戦えない時代。スムーズに新式のリーダーシップに移行できた企業はなんとかなっているけれど、変革が遅れた企業ほど、多くの課題に直面しているのだと思います。
「伴走者」に求められるものとは?
三上:時代とともに、伴走者に求められる役割も変化しているように感じます。「伴走者」というと、「頑張っている人や組織に寄り添う人」という意味で捉えられることも多いのですが、実際はどうでしょうか。
森口:多くの企業のプロジェクトを手がけるなかで、正直いって、「寄り添う」という目線を持ったことは一度もないですね。「寄り添う」というよりは、むしろ共に戦う「戦友」のような感じかな。企業の方針が間違っていると思えばズバリと指摘しますし、ときには企業の方針転換にともなうステークホルダーの不利益をどう説明するかなど、難しい問題と向き合わなければならないこともあります。そうした過程を経ながら、ひとつずつ、企業が抱える組織課題を解決していく。そういう意味では、伴走者とは企業にとって「戦友」という感覚です。
廣田:「寄り添う」という言葉からは、たとえば「親と子」や「先生と生徒」のように「解を指導する側」と「される側」の関係をイメージしますが、私たちが考える伴走支援は、明確な解がない課題に対して挑むもの。そう考えると「寄り添う」という関係性ではなく、「共に解を探し、一歩ずつ突き進んでいく」という関係性に近い。
森口:ロールプレイングゲームの登場人物みたいだな、と思うんですよね。組織変革を進める中では、社長やステークホルダーというキャラクターが難易度の高いミッションを提示してきて、それをクリアするために私たちは一生懸命、突き進んでいく。企業の担当者や私たちはパーティを組んでいて、剣や弓などをくり出したり、呪文を唱えたりしながら難局を乗り越えていく。パーティはそれぞれの役割が明確で、シーンによって配置や使う武器・呪文変わるというイメージ。だから「伴走者」と「伴走してもらう企業」の関係性は、上下でも横でもなく、一塊のグループというイメージ。もちろん、戦って破れたときには回復の呪文も唱えます。
「未知の領域にみずから進む意思のある人」に伴走する
三上:これまでは「伴走を必要とする人=企業、組織」「伴走する人=ソフィア」というふうに考えてきましたが、私たちは一体、「誰に」伴走しているのかということを明確にしておきたいと思います。
森口:私たちが伴走するのは、企業における「変革の推進者」です。彼らは組織課題を解決し、組織を変えようとしている変革者たち。「組織を変えよう」という大きな課題に立ち向かうのですから、彼らはとてもタフですし、よほどのことがない限り心が折れることはありません。とはいえ、ときには誰かに頼ったり、ヒントをもらいたかったりすることもある。そうしたときに、仲間であり続けるのが伴走者の役割だと思います。
組織課題解決に向けた企業支援の方法は色々ありますが、その中で伴走支援の位置付けは下の図のようなイメージ。外からアドバイスするだけ、作業を手伝うだけではなく、組織に深く関与して、現場を巻き込み、一緒に施策を実行していきます。その分、取り組みを推進する企業の担当者にも、支援する私たちにも、強い覚悟が必要です。
廣田:確かに、私たちが伴走しようとしている相手は、今まさに山を登ろうとしている人たち。平地をピクニックしているような人には、伴走者は特に必要ないですからね。
森口:企業の支援をしていて嬉しいと感じる瞬間は、企業の担当者に「自分も成長できました」という声をいただいた時。普段、会社で仕事をしていても「未知のものに挑みながら前進する」という経験はほとんどないですよね。組織を変えようというプロセスのなかで、初めての人たちと触れ合い、これまでにない成果を出す体験を通して、自分が一皮むけたとおっしゃる人はとても多いんです。
廣田:企業の担当者にとっても、組織変革という経験は非常に有意義なものになるでしょう。結局、企業の経営者や担当者自身が「山に登る」という覚悟を持たなければ、組織変革をアウトソースしただけということになってしまうのですよね。それでは、せっかくの伴走も意味がなくなってしまう。
森口:そう。だからこそ組織変革に率先して取り組む企業担当者は、自分自身の成長も実感できる。以前、ある企業の方に「働きがいとはなんですか」とお聞きしたら、「人生すべてを賭けてまで働きたいと思えること」とおっしゃっていたのです。その言葉がとても印象的で、まさに私たちが伴走支援を行うときにも、これくらいの熱量を持って、その組織や改革に深くコミットしなければ、軽々しく「組織を変革する」なんて言えないのだと思いました。
廣田:組織にいる人たち自身、前に進む意思がなければ、ただ引きずられるだけになってしまう。そういう意味では、伴走される側も、伴走する側も、同じ想いや熱量を持って組織変革に取り組むことが大切なのですね。
森口:現在は、不確実性の高い社会。多くの企業が困難な状況に直面しています。そのなかでも、あえて変革を進めようとしている人は、まさに人生を賭ける覚悟を決めている人だと思います。伴走者は、それと同じ熱量で応える覚悟がなければできない。それが、お客さまが今まさに、伴走者に必要としていることだと思います。