書籍【経営教育~人生を変える経営学の道具立て】読了
著者は、気鋭の経営学の研究者であり、東京大学大学院で初の経営学の博士号を取得した方とのことだ。
経歴が非常に特徴的で、中学卒業で自衛隊、旧大検資格を経て慶應大に入学し、東大大学院ということらしい。
学費が払えないために進学を諦め、自衛隊に入隊したとのこと。
そのために、東大初の経営学の博士号と言っても、環境的には恵まれていた訳では決してなく、様々な紆余曲折の中で「どうすれば勝てるのか」を模索し、結果を出していったということだ。
その試行錯誤の手法を示したのが、本書であり、著者が提唱する「経営教育」となる。
この手法は経営者のみが有効ということではなく、すべての人が人生をより良く生きるための、普遍的な「道具立て」という位置づけなのだという。
確かに我々は、生まれたときから何らかの組織に属している。
家族が最初であるが、それから地域社会、学校、そして会社に所属して働いている。
すべての場所で、私たちは何らかの形で実は「経営」に関わっている。
「自分自身の人生をどう生きるか」
このこと自体が、実は壮大な「経営」であるという解釈だ。
本書の核心にあるのは、経営の本質とは「資源配分」と「価値創造」であるという点。
この二つの概念は、個人の人生にそのまま当てはまる。
特に「資源配分」という考え方には、膝を打った。
我々がそもそも持っている資源とは何か?
それは、時間であり、体力であり、お金であり、自らの才能である。
これらの資源は、すべて有限だと言える。
無限に使える資源など、この世には存在しない。
地球という有限の器の中で生きている以上、我々が持ちえる資源もまた有限であるということだ。
うーん、深い。
有限であるからこそ、それらをどこにどのような分量で投下していくかが重要になる。
これがまさに「資源配分」という、経営の重要な意思決定になるということだ。
例えば、毎日の24時間をどう使うのか。
これは、最も基本的な資源配分と言える。
日々の仕事にどれだけの時間を割くのか。
家族との時間にどれだけ充てるのか。
あるいは、自己投資としての読書にどれだけを費やすのか。
これらを意識的に選択して実行することが、人生の経営戦略に他ならない。
長期戦略的にも、このことは理に適っている。
20代の貴重な時間を何に使うのか。
30代はどうするのか。40代、50代は?
多くの人は、目先の忙しさに追われてしまう。
私も含めて、ついつい近視眼的になりがちだ。
配分の計画を持たないまま、流されてしまうこともある。
しかし、資源を漫然と「消費」してしまえば、価値は生まれない。
もちろん「浪費」など、もっての外だ。
自分の人生という事業を、黒字にしたいのか、赤字でもよいとするのか。
それもこれも、自らの資源配分のクオリティに、全てが懸かっている。
もう一つの本書の核心が「価値創造」である。
どうやって「資源配分」をして、「価値創造」に繋げるのか。
結果的に「価値」を生むことが目的であり、「資源配分」は手段でしかない。
自らの「価値」の定義を正しく行い、それをより大きくするための方策を、計画的に行うべきだ。
本書は、そのための具体的な方法論として、「問題解決の三種の神器」を示している。
「問題解決の三角形」
「未来創造の円形」
「七転八起の四角形」
著者考案のフレームワークがあるのだが、その使い方は本書を読んでもらえば分かるだろう。
本書の後半では、未来の働き方について、紙幅を割いている。
これからの時代、テクノロジーの進化はさらに凄まじいものになる。
生成AIは日常の一部となり、ホワイトカラーの仕事の多くを代替していくだろう。
データ分析や効率的な資源配分は、人間よりもAIの方が圧倒的な得意分野だ。
計算能力で機械に対抗することは全く意味がない。
では、そんな時代に人間に残された役割とは何なのだろうか。
本書はその問いに対しても、明確な示唆を与えてくれる。
それこそが、「価値創造」の領域である。
AIはデータを高速で処理することはできるが、自ら「生きたい」という衝動を持つことはない。
誰かのために何かをしたいという「志」や「情熱」も持たない。
ある出来事に対し、なぜそれが素晴らしいのか、なぜそれが愛おしいのか。
その「納得感」や「意味」を作り出すのは、私たち人間にしかできないことだと思う。
経営学とは、単なる金儲けのテクニックではない。
人間同士が協力して、社会に新しい価値を生み出すための「人間学」とも言えるのではないだろうか。
だからこそ、AI時代にこそ「経営教育」が必要だと、著者は説いているのだ。
機械に使われる側になるのか、機械を賢く使いこなす側になるのか。
その分岐点は、自分自身の価値をどう定義するかにかかっている。
誰かに与えられたタスクをこなすだけの生き方は、これからは通用しない。
自ら課題を問い続け、独自のストーリーを紡ぎ出していくこと。
手触り感のある人間関係を大切にし、組織の中で信頼関係を築いていくこと。
これらはすべて、人間だからこそ発揮できる経営の力だ。
時代が変わるのを恐れる必要はない。
新しい道具を手に入れて、自分自身をアップデートしろということだ。
人生の時間は限られている。
後から時間を取り戻すことは、絶対にできない。
だからこそ、今持っている資源を、社会のため、そして周囲の大切な人たちのために、正しく投下していきたい。
(2025/12/31水)