「御社って、もともと何の会社なんですか」
初めての商談で、わりとよく聞かれます。音響設備、CDの修復、水、そしてAI。並べて話すと、たいてい一度、間が空きます。まあ、そうなりますよね。笑
社名は「サウンド・テック」なのに、いま一番よく話しているのはAIの話だったりする。自分でも説明しながら、一貫性がないなと思っていました。
ただ、会社の歴史を年表にして眺めてみたら、案外はっきりした線が一本ありました。今日はその話をさせてください。
1970年、うちは音の会社ですらなかった
創業は1970年。当時の社名は「株式会社東洋技研」で、作っていたのは自動制御装置でした。音とは何の関係もありません。
創業した人は、もともと電電公社の配電盤を据え付ける仕事をしていたそうです。機械と電気の、わりと泥くさい現場。会社の出発点は、思想でもビジョンでもなく、**手が動く技術がひとつあった**、というだけのことでした。
音響・放送設備の設計施工に手を広げたのは1986年です。社名を「サウンド・テック」に改めたのも、このとき。
順番が逆なんです。音の会社になろうと決めて名前をつけたのではなく、気づいたら音の仕事が増えていたから、名前をそちらへ寄せた。名前は結果でした。
世界初のCD修復と、水道水の限界
会社の流れが大きく動いたのは1995年です。
傷がついて読めなくなったCDの表面を削って、もう一度再生できる状態に戻す。世界で最初のCD修復技術でした。放送局や、国立の図書館、全国の大学・公立図書館150か所以上。「もう聴けない」と言われた盤が持ち込まれてくる仕事です。
僕はこの時代を知らない世代なので、当時を知る人から聞いた話になるのですが、届く盤の多くは代わりがないものでした。同じ音源がもう一枚ある、という前提が使えない。削れるのは一度きりで、削りすぎたら戻せません。**やり直しが効かない前提で、削る量を決める仕事**だったわけです。
ここで、地味な行き詰まりがありました。研磨に使っていたのが、ただの水道水だったんです。
CDの素材はポリカーボネートで、アルコール系の溶剤を使うと表面が溶けてしまう。界面活性剤も残る。かといって水道水では、研磨剤がうまく散らずに仕上がりが安定しない。削る精度は、研磨剤をどれだけ均一に散らせるかで決まる。
それで、研磨剤の分散と洗浄を兼ねる水を共同開発しました。これが還元イオン水です。
狙いどおり、研磨の品質は上がりました。ここまでは、まだ計画の範囲内の話です。
副産物のほうが、長生きした
想定外だったのは、そのあとでした。
使い続けるうちに、この水そのものに、研磨の道具としてではない機能があると分かってきます。金属やレンズを傷めずに油分を落とせる。薬剤を使わずに洗える。2004年以降、食品を洗う水として、備蓄向けの除菌水として、肌に使う化粧水として、消費者向けと業務用の両方へ広がっていきました。
一方で、CDのほうは市場そのものが静かに縮んでいきます。音楽は配信で聴くものになりましたし、傷ついた盤を修復してでも残したい、という場面自体が減っていきました。
残ったのは、主役だった技術ではなく、その技術のために仕方なく作った道具のほうでした。
いま社内で一番動いている水は、もともと「CDをきれいに削るための水」です。誰も、次の柱にしようと思って作っていません。
危機のたびに、柱が入れ替わってきた
2020年。コロナ禍で人を減らし、総務も経理も営業も、在庫管理も発送も、僕が一人で回していた時期があります。段ボールを組み立てながら翌日の広告文を考えている、みたいな日々でした。
そこにChatGPTが来ます。慎重に検討した記憶はなくて、単純に手が足りていなかったので、次の日には見積書の下書きも議事録の整理も全部そこへ突っ込んでいました。
その様子を打ち合わせのたびに見ていた取引先の方から、「うちでもやってもらえませんか」と言われたのが始まりです。2023年の秋、AI総合プロデュース事業として正式に発足しました。いまは電力、精密機器、自動車部品、製造や商社の現場に入っています。
音響 → CD修復 → 水 → AI。並べると脈絡がないようで、全部、直前の事業の周辺から出てきています。
ひとつ書いておきたいのは、僕はこの歴史を作った側ではなく、受け取った側だということです。3代目として代表を継いだのは10年ほど前で、年表の大半は、僕が生まれる前か、子どもの頃の出来事です。
継いだ側には継いだ側の緊張感があります。先代が積み上げてきたものを壊さずに、それでも時代からは外れていかないようにする。この二つは、けっこうな頻度でぶつかります。僕がAIに飛びついたのも、先を読んでいたからではなくて、たぶんこの綱渡りの途中で手が足りなくなっただけでした。
計画ではなく、発見でつないできた
年表を眺めて分かったのは、うちが一度も「次はこれで行く」と決めて当てたことがない、ということでした。
毎回、目の前の仕事をちゃんとやっている過程で、余ったもの・困って作ったものが次の柱になっている。危機が来たときに新しいものを探しに行ったのではなく、**すでに手元にあったものの使い道が、危機のときに初めて見えた**、という順番です。
だから僕は、AIのご相談で現場に伺うときも、まず「すでに動いているもの」から見ることにしています。何を導入するかを決める前に、どこで流れが滞っているのか。業務を分解して、関数で済むところは関数で、人がやったほうが早いところは人のままで。AIを置くのは、そこでないと無理だと分かった場所だけです。
「うちには、目立った資産なんて何もなくて」とおっしゃる会社ほど、たいてい何かあります。無いのではなく、師さんと気がついていない、という感覚に近い。
そういえば、うちの水も30年近く、ただの研磨用の水でした。
御社で、本業のために仕方なく作ったものは、何ですか。
※ ご相談は、正社員としての転職ではなく、業務委託・技術顧問という形を前提にお受けしています。