はじめに:リユースが当たり前になる時代に
古着や古本、メルカリやセカンドストリートなど、モノを再利用するリユースの文化は、私たちの生活に身近なものとなっています。
近年は、iPhoneをはじめとするApple製品の価格上昇を背景に、中古品への関心が高まっています。住宅においても、新築だけでなく中古住宅を購入するという選択肢が注目されています。
こうした動きは、単にモノを安く手に入れるという話だけではないと感じています。限られた資源を有効活用すること。持続可能な社会を実現すること。そして、人口減少によって生まれる新たな課題に向き合うことにもつながっているのではないでしょうか。
教育に携わってきた私が特に関心を持っているのが、学校の統廃合です。
児童生徒数が減少するなか、神戸市でも学校の統廃合が進められています。役割を終えた学校施設を、今後どのように活用していくのか。これは教育だけでなく、地域社会全体に関わる問いだと考えています。
モノを再利用するように、役割を終えた建物や場所にも、新たな価値を生み出す可能性があるのではないか。
そんな関心から今回注目したのが、神戸市兵庫区にある「NATURE STUDIO(ネイチャースタジオ)」です。神戸市立旧湊山小学校の跡地に開設された、コミュニティ型複合施設です。
今回は、この施設を通して学んだことや気づいたことを、自分なりの視点で考えていきたいと思います。
1. 役割を終えた小学校が、地域をつなぐ場所へ
NATURE STUDIOは、神戸市立湊山小学校の跡地を活用したコミュニティ型複合施設です。2022年7月に開業し、「自然と暮らしをつくる」をコンセプトに、水族館、園芸店、ブルワリー、飲食店、ショップ、保育・就労支援施設など、さまざまな機能を備えています。
施設内のテナント同士が協力し、イベントやワークショップなどを通じて、自然を身近に感じられる暮らしを提案しています。
その背景には、141年の歴史を持つ神戸市立湊山小学校の存在がありました。閉校後の跡地活用事業者として選ばれた株式会社村上工務店が、施設の企画・整備・運営を担っています。
注目したいのは、校舎を取り壊して新しい建物を建てるのではなく、既存の建物を生かす道を選んだことです。
プロジェクトを率いる村上さんは、校舎を残すことで地域の内外をつなぎ、新しい交流の場へと生まれ変わらせたいという思いを持っていました。
自然と暮らしをつくる、6つのアクション
NATURE STUDIOでは、自然をより身近に感じられる環境をつくるため、6つのアクションを掲げています。
- Regenerate|再生する:かつて地域のシンボルだった小学校を、自然豊かな地域づくりや健康的な暮らしを支える場所へと再生する。
- Reuse|再利用する:校舎の床材や家具など、学校で使われてきたものを再利用し、資源を生かしながら新しい空間をつくる。
- Relearn|学び直す:水族館やハーブショップ、フードホールでのワークショップなどを通して、自然と暮らしについて新たな発見や学びを得る。
- Respect|尊重する:地域の自然や人々とのつながりを大切にする。敷地内の水源やハーブ、自分で釣った魚を食べる体験などを通じて、自然の恵みへの理解を深める。
- Return|取り戻す:緑の景観や食べられる植物を育てるエディブルガーデンなどを整備し、かつて身近にあった自然と暮らす感覚を取り戻す。
- Relate|つながる:施設内外の人々や企業が協働することで、新しい商品やサービス、活動を生み出し、そのつながりを地域へと広げる。
この6つのアクションから見えてくるのは、古い建物を再利用するだけでなく、自然、学び、人、地域のつながりまで含めて、新しい価値を生み出そうとする姿勢です。
実際に訪れて感じたこと
私自身、子どもを連れて、この施設に何度も足を運んできました。
水族館には、かつての小学校で使われていた椅子や机が活用されている場所があります。本が置かれていたり、子どもが思わず遊びたくなるような仕掛けがあったりと、学校だった頃の面影を感じられる空間です。校舎の床も、そのまま生かされています。
施設の外に目を向けると、広い芝生や小川、木の実がなる植物など、自然を身近に感じられる環境が広がっています。都会の中にありながら、どこか懐かしく、落ち着いた気持ちになれる場所です。木の実の中には食べられるものもあると知り、自然を眺めるだけでなく、触れて味わうことまで暮らしの一部にしている点が印象に残りました。
訪れるたびに感じるのは、ここが単なる商業施設ではないということです。かつて学校だった場所の記憶を残しながら、新しい人々が集まり、新しい体験が生まれる。過去と現在が自然につながっているように感じます。
2. なぜ、校舎を壊さずに残したのか
村上さんは、プロジェクトに関わるにあたり、地域における小学校の役割について考えたそうです。
小学校は、子どもたちが初めてさまざまなことを学ぶ場所です。それだけではありません。地域の人々にとっては、自分たちのアイデンティティを形づくる象徴であり、人と人とのつながりが生まれる出発点でもあります。
だからこそ、跡地を活用する際には、その役割を一度リセットするのではなく、これからも引き継いでいくことが大切なのではないか。
地域の人々が愛着を持ってきた校舎を取り壊して新しいものに置き換えるのではなく、思い出を残しながら改修し、未来へつないでいく。その考え方が、施設づくりの根底にあります。
校舎や体育館を活用することには、環境への負荷を抑えるという側面もあります。しかし、村上さんが大切にしているのはそれだけではありません。生まれ変わった施設にも、地域の人々が引き続き愛着を持てるようにしたいという思いです。
また、「スタジオ」という言葉には、学校が持っていた学びの機能をこれからも引き継いでいくという意思が込められています。小さな場所からクリエイティブなものが生まれ、さまざまな人の活動が広がっていく。そんな場所を目指しているそうです。
校舎の形が残っていることで、地域の人々が安心感を覚える。その感覚は、更地にして新しい建物を建てるだけでは生み出せないものなのかもしれません。
今回の取り組みを知り、私が特に考えさせられたのは、「あるものを残すことには、どのような価値があるのか」という問いです。
建物を更地にすれば、新しいものを自由につくることができます。一方で、そこに暮らしてきた人々の思い出や、地域が積み重ねてきた歴史まで失われてしまう可能性があります。
NATURE STUDIOの取り組みは、過去を単に保存するのではなく、歴史や記憶を新しい価値の一部として捉え直しているように感じました。
そこにあったものを残す。そこにいた人々の思いを大切にする。そして、それらを土台にしながら、新しい人々が集まりたくなる場所をつくる。
過去をそのまま維持するのでも、すべて壊して新しくするのでもない。過去と未来をつなぎながら、価値を育てていくという考え方です。
3. 地域と一緒につくるリノベーション
NATURE STUDIOの学校リノベーションについて調べるなかで、村上工務店の取締役営業統括・香田さんと、企画営業部課長・灰本さんのお話にも触れました。
お二人が大切にされていたのは、建物を改修することだけではありません。地域の人々が、改装後も変わらず愛着を持てる場所にすることです。
そのため、設計段階から地域住民との意見交換の機会を定期的に設け、地域のニーズを反映しながらリノベーションを進めていったそうです。
香田さんは、旧校舎には天井の高い体育館など魅力的な空間が数多く残されていたことに触れ、今あるものを生かしながら何ができるかを考え、形にしていく過程の楽しさを語っておられました。
もちろん、思い出や雰囲気を残すだけで施設が成立するわけではありません。建築基準を満たすための改修やエレベーター棟の増築など、施設として機能させるための丁寧な整備も行われています。
興味深いのは、かつての学校の空間が、それぞれの特性を生かして新しい用途へと変わっていることです。
- 理科室や図書室があった校舎は、水族館へ。
- 給食室だった空間は、既存の排水構造を生かしたビールの醸造所へ。
- 体育館は、その広さを生かしてフードホールやセントラルキッチンへ。
さらに、解体した校舎の床材を水族館の内装に使ったり、教室の椅子や黒板、階段、窓などを再利用したりと、かつての学校を構成していた素材も随所に生かされています。
そこにある空間の特徴や素材を見極め、新しい用途と組み合わせる。そうすることで、過去の面影を残しながら、以前とは異なる価値を持つ場所へと生まれ変わらせているのです。
『エリアリノベーション』から考える、まちづくりの変化
ここで、今回の取り組みと重なると感じた一冊を紹介します。馬場正尊+Open A編著『エリアリノベーション 変化の構造とローカライズ』です。
この本を通して考えたのは、これまでの都市計画やまちづくりの進め方と、地域から新しい価値を生み出していくアプローチの違いです。
従来のマスタープラン型のまちづくりでは、まず建築家や都市計画家、コンサルタントなどが計画を立て、それに沿ってゼネコンや工務店などが建物をつくり、最後に使い手へと引き渡します。大まかにいえば、「計画する人」「つくる人」「使う人」という順番で進む構造です。
こうした手法には、街全体を計画的に整備し、一定の機能や品質を実現しやすいという利点があります。
一方で、効率や均質性を重視した開発が進むと、地域ごとの歴史や個性が十分に生かされず、どこへ行っても似たような風景が広がってしまうのではないか。そんな問題意識もあります。
そこで注目したいのが、エリアリノベーションという考え方です。
建物単体を新しくするだけでなく、既存の建物や地域の資源を生かしながら、人の活動やつながりを通して、エリア全体に変化を生み出していく。
あらかじめ完成形を決めて、その通りにつくるだけではありません。実際に使う人や地域で活動する人が関わり、そこで生まれた動きが次の活動を呼び込み、少しずつ地域の価値が育っていく。そうしたプロセスに特徴があると捉えています。
計画する人、つくる人、使う人が交わる
この考え方をNATURE STUDIOの取り組みに重ねてみると、共通する部分が見えてきます。
村上工務店は、地域の人々と繰り返し意見交換を行い、ニーズを取り入れながら施設をつくっていきました。これは、事業者が一方的に計画を立て、完成した施設を地域に提供するという関係とは異なります。
地域の人々も、完成した施設を利用するだけの存在ではありません。自分たちの思いやニーズを伝え、場所のあり方を考えるプロセスに参加しています。
つまり、「計画する人」「つくる人」「使う人」が明確に分かれて順番に役割を果たすのではなく、それぞれの視点が交わりながら、場所の未来をつくっていく。私は、そこに今回の取り組みの重要なポイントがあると感じました。
もちろん、NATURE STUDIOの施設づくりだけで、エリア全体の変化が実現したと断定することはできません。しかし、既存の建物を地域の人々とともに再生し、新しい活動や交流が生まれる拠点をつくることは、エリアリノベーションの考え方と重なるものがあるのではないでしょうか。
建物を改修することが目的なのではなく、その場所を起点に、人や活動、地域のつながりがどう変わっていくかを考える。そう捉えると、NATURE STUDIOの取り組みは、単なる廃校活用にとどまらない可能性を持っているように思います。
4. 東遊園地とアーバンピクニック
村上工務店が手がけているのは、NATURE STUDIOだけではありません。神戸市中央区の東遊園地でも、公園の新しいあり方づくりに関わっています。
東遊園地は、近代神戸の歴史を象徴する公園です。2015年、この公園で「アーバンピクニック」という社会実験が始まりました。芝生広場などを整え、人々が公園で思い思いに過ごす風景を、試しながらつくっていく取り組みです。村上工務店は、この社会実験を協賛企業として支えてきました。
そして、Park-PFI(公募設置管理制度)の仕組みを活用し、園内に施設を建てて運営することになりました。施設にはイベントスペースやカフェ、屋外で本に親しめるアウトドアライブラリーが設けられ、公園の日常的なにぎわいを生み出しています。
使われ方を確かめてから、形にする
私が注目したいのは、いきなり施設を建てたのではなく、社会実験から始まっている点です。
まず公園を開き、人々が実際にどう過ごすのかを確かめる。その積み重ねの上に、拠点施設がつくられました。完成形を先に決めるのではなく、使う人の動きから場所の形を見つけていく。これは、3章で触れたエリアリノベーションの考え方と重なります。
今ある場の価値を尊重する
もう一つ印象的なのが、建物のたたずまいです。施設は園内の中心にありながら、存在を主張しすぎない形をしており、公園に張られた大きなタープをイメージしているそうです。
新しい建物が主役になるのではなく、歴史ある公園そのものが主役であり続ける。そこにあるものの価値を尊重しながら、新しい機能を加える。この姿勢は、校舎を壊さずに生かしたNATURE STUDIOの考え方とも共通しているように感じます。
実際に訪れて
広々とした芝生広場、タープのあるベンチ、噴水のある水辺、カフェ。実際に訪れてみると、休日に家族でくつろぐ人もいれば、平日にひと息つく人もいます。それぞれが自分なりの目的でこの場所を使い、日々の暮らしに自然に溶け込んでいる様子が印象的でした。
NATURE STUDIOも東遊園地も、施設を整備して終わりではありません。今ある場所の価値を大切にしながら人が集まり、それぞれの過ごし方が生まれ、日常の中で使われ続けている。そこに、これからの場所づくりの可能性を感じます。
5. おわりに:価値付けの範囲を広げる
今回、施設やエリアの再生について考えてきましたが、私が大切にしたいと感じたのは、今あるもの、そして失われつつあるものの価値を見つめ直すことです。
その場所に関わる人々の声に耳を傾け、何が大切にされてきたのか、どのようなニーズがあるのかを理解する。そして、そこにある資源や可能性を生かしながら、関わる人々とともに新しい価値をつくっていく。
この考え方は、施設や地域に限った話ではないと思います。
例えば、企業や組織、人材、身の回りの道具、コミュニティ。さまざまなものに対して、これまでの価値観だけで判断したり、役割を終えたからといって手放したりするのではなく、別の可能性がないかを考えてみる。
これは、人的資本にも重なると思います。
私の場合は、小学校の教員としてのキャリアがあります。学校という場を離れ、新しいキャリアを考えるなかで、「教員の経験は、学校の外でどのように生かせるのか」と考えることがあります。
授業をつくる力、一人ひとりの声に耳を傾ける力、保護者や地域の方々と関係を築く力。学校の中では当たり前だったこれらの経験も、場所を変えれば、新しい価値を生み出す資源になるのではないか。NATURE STUDIOで、理科室が水族館に、給食室が醸造所に生まれ変わったように。
何かを変えるとき、必ずしもすべてを壊し、新しくつくり直す必要はなく、今あるものの中に価値を見いだし、その価値を伸ばす方法を考えることもできます。
変化の激しい時代だからこそ、変えるべきものと、残していくべきものを見極める。そして、過去から受け継いだものを生かしながら、周囲の人々と新しい可能性をつくっていく。
私もこれまでの経験を土台にしながら、教育と地域、人と人をつなぐ場づくりに関わり、関わる人々とともに新しい価値を育てていきたいと考えています。
参考
- 株式会社村上工務店 広報委員会著『SOCIAL BIOTOPE Green Development of a School』株式会社村上工務店、2024年
- 馬場正尊+Open A編著『エリアリノベーション 変化の構造とローカライズ』学芸出版社、2016年
- 株式会社村上工務店ウェブサイト「主な実績紹介」
📷トップの写真は兵庫県神戸市の東遊園地のイベントの様子