「大学で学んだ地質の知識は、仕事でどこまで使えるのだろう」
就職活動中の私は、答えを持てていなかった。
実際、入社直後に必要だったのは、研究テーマそのものよりも、地盤や土質、調査の進め方、現場での判断だった。
けれども今は、学生時代に培った専門性や研究の進め方が、確かに今の仕事を支えていると感じている。
1.入社時に感じた、大学の研究と実務の距離
私は地質を専攻していた。ゆえに、地質の知識を活かして仕事ができればと考えていた。
会社訪問で、すでに入社していた研究室の先輩に仕事内容を伺った。
思った以上に、大学で研究していたこと以外のことが多いな、という印象を受けた。
正直な話、地質というよりも、土質や地盤工学に近い業務が多いのだなと感じた。
入社する段階においても、漠然としか業界理解はなかった。
地質調査の位置づけすら理解していなかった。
地盤工学に関しては一切学んでいないようなものであり、地盤の硬さを把握する指標であるN値すら知らなかった。
資格が必要という認識もなく、入社した。
入社後に社内の地質を専攻してきた諸先輩・上司との協働を経て、地質の知識を社会に還元するという社会的・実務的な意義を理解していった。
その積み重ねの先で、技術士にも合格できた。
2.仕事観を変えた二つの経験
仕事への向き合い方が大きく変わった経験が、2つある。
1つは、与えられる役割と求められる能力に差があることを自覚したこと。
もう1つは、資格試験に失敗して、資格に求められる能力やアウトプットと、自分が示せるものには違いがあると自覚したこと。
1つ目は、国交省業務の地質調査の現場管理をしていた時の出来事。
現場で予定外の変更が必要になった際、自分で判断できず上司に確認した。
その際に、君は目的を理解する意識が欠けていないか、と指導をいただいた。
それまでは、上席の意思決定を現場で再現する、それが私の役割だと誤認していた。
それからは、目的を理解したうえで、どの範囲まで融通を利かせられるか、を意図的に考え、自らの責任で現場判断する意識を持つようになった。
2つ目は、地質調査技士の試験に不合格となった経験である。
1回目の受験では自分なりの準備しかしていなかった。第三者の客観的評価を踏まえた回答を作るなどしなかった。
択一対策は万全であり、自己採点でも高得点だったため、合格できるだろうと思っていた。
落ちてから、第三者に回答を見せ、意見をいただき、より客観的に自分のアウトプットを見る必要があることを認識した。
また、資格にふさわしい考え方ができているかも意識するよう、温かく建設的な指導をいただいた。
これは技術士のコンピテンシー理解にも通じる構造的な捉え方であったと思う。
3. 学生時代に身につけた“専門以外”の力
学生時代に学んだことは、業務で生かせるのか。
私はおおむね活かせると感じている。
ただ、専門的な内容だけが活きているわけではないと思う。
専門以外の力
・膨大な先行研究の論文を読み込んで要約したプロセス。
・学会発表などのプレゼン技法。
・IMRADのような基本的な論理構成。
・分かりやすい文章の書き方の基本。
・現状と理想の差から課題を設定し、検証と改善を繰り返す力。
・論理的思考とメタ認知。
こうした力は、テーマが変わっても生かせる、問題解決と課題遂行のための骨格だと思う。
一方、専門的な知識は、実務で生きる。
地質図を書く能力は、三次元的に地質の広がりを現場や社内で共有し、それを意思決定資料に落とし込むのに役立つ。
岩石や堆積構造を見る目は、現地踏査やボーリングコアの観察に欠かせない。
建設コンサルタント業務では、構造物を計画するための調査に携わることが多く、工学的な記載が求められる。
学生時代に血眼になっていた記載岩石学や堆積学の視点は、直接求められないかもしれない。
だが、付加価値として提供することはできる。
時には、その考え方が事業の意思決定を支える視点となり得るかもしれない。
専門知識は仕事の土台になり、研究で身につけた考え方は仕事の進め方を支えている。
4.最後に
学生の自分に伝えるなら。
やってきたことは間違えていない。
幅広い知識はあった方がいい。
視野を広く持って、好奇心は否定せず、やりたいようにやれ。
君がやりたいと思ったことの裏には必ず、実現したい未来があり、その時に必要なアプローチを見定め、それを冷静に遂行する意思があったのだから。
地質・建設コンサルタントの仕事でも、その力は必ず生きるから。