企業SNSで、本当に直しにくいのは、社長が出てくれない状態ではない。
社長が、出すぎている状態だ。
会社は商売をしている。
それなのにSNSは、いつの間にか「社長の連続ドラマ」になっている。
最近、ある貴金属の買取会社のSNSを見た。
YouTubeを開く。
社長。
少し下へスクロールする。
社長。
さらに下へ。
撮影場所は変わったが、社長は変わらない。
金相場、プラチナ、ダイヤモンドの知識、経営の話。
すべてが同じ万能テンプレートに収まっている。
そのテンプレートは、編集ソフトではない。
社長本人だ。
チャンネルには、すでに数千本の動画がある。
同社は公開ページでも、継続して大量に発信する方針を掲げている。
量の目標は、十分に達成している。
むしろ、十分すぎるほどだ。
では、視聴者が翌日も戻ってくる理由まで、同じくらい明確になっているだろうか。

図1:公開動画一覧をもとに、テーマが変わっても同じ経営者が繰り返し登場する構造を再構成した。
数字は「社長が悪い」と言っていない
ここで、
「社長の自己満足だ」
と切り捨てるのは簡単だ。
だが、再生数はそこまで単純ではなかった。
直近の通常動画14本を確認した。
金・プラチナ相場を扱った9本は、平均再生数が400回台。
ダイヤモンドの知識を扱った5本は、平均100回未満だった。
同じ社長。
似た撮り方。
それでも、結果は違う。
少なくとも今回のサンプルでは、再生数の差を社長の顔だけで説明することはできない。
視聴者が知りたいのは、
今日の金相場はどう動いたのか。
今は売るタイミングなのか。
自分の判断に直結する疑問を扱った動画ほど、実際に見られていた。
だから、本当の問題は「社長が出ること」ではない。
「社長が出ること」が、あらゆる発信の初期設定になっていることだ。
しかも、相場動画は一定数見られている。だから、「社長を減らせば解決する」とも言い切れない。この曖昧さが、改善を難しくしている。
相場も、知識も、経営観も、日常も、すべてを社長一人に背負わせてしまう。
社長は、番組の案内役にはなれる。
しかし、企画名、カテゴリ分け、サムネイル、運用方針まで、すべてを社長一人の顔で代用することはできない。

図2:直近14本では、相場情報9本の平均再生数は約441回、ダイヤモンド知識5本は約84回だった。同じ出演者でも結果が異なることを示す限定サンプルであり、因果関係を示すものではない。出典:公開YouTubeデータ(2026年8月18日確認)
一部の縦長動画は3分を超え、通常動画欄に掲載されている。
PC画面では、左右に大きな黒い余白も出ていた。
YouTubeの標準チャンネルでは、2024年10月15日以降にアップロードされ、アスペクト比が正方形または縦長で、長さが3分以内の動画はShortsに分類される。
3分を超える動画を長尺として出すなら、構成やテンポも長尺向けに組み直す必要がある。
しかし、これらの動画には、ショートの切れ味も、長尺動画としての厚みも見えにくい。
まるで、降りる駅を通り過ぎた動画のようだ。
素材はある。ただ、出番がない
一方、Instagramを見ると、この会社が素材不足ではないことも分かる。
鑑定スタッフ。
商品の細部。
梱包や発送。
運送保険。
取引の流れ。
顧客の不安を減らせる材料は、すでに社内にそろっている。
それでも公開ページを見ると、投稿のたびに選ばれる答えは、
「今日も社長を一本」
に見えてしまう。
もちろん、社内で本当にカメラを奪い合っている、と言いたいわけではない。
公開ページから見えるのは、経営者だけがレギュラー出演者になり、ほかのスタッフや信頼材料はゲスト出演にとどまっている、という構造だ。
同業の小規模チームであるDDJapanも、代表者が動画に出演している。
ただし、動画は「プラチナを今売るべきか」「ダイヤモンドの価値をどう考えるか」といった、具体的な疑問から始まる。
代表者が出るのは、鑑定の専門家として答えられるからだ。
「今日も社長を撮る日だから」ではない。
Brand Bankでは、出演者を固定企画やルールの中に置いている。
企業規模も演出方法も異なるため、そのまま真似はできない。
それでも、人を企画の中で役割づける考え方は参考になる。
社長を消すより、出演シフトを組む
社長を画面から追い出す必要はない。
必要なのは、出演シフトを組むことだ。
毎日の相場情報は、30〜60秒の定型Shortsにする。
週に一度、社長が価格変動の背景を詳しく説明する。
ダイヤモンドの知識は、顧客から実際によく出る質問を起点にする。
その質問に最も詳しい人が答える。
Instagramでは、鑑定、発送、保険、取引の流れを重点的に見せる。
さらに、企画ごとにサムネイル、冒頭、出演者を固定する。
一覧を見た瞬間に、何を扱った動画なのか分かる状態をつくる。

図3:社長を消すのではなく、企画ごとに出演者とプラットフォームの役割を分ける改善案。公開情報をもとに筆者作成。
これなら、社長は企業の顔であり続けられる。
ただし、企業の全コンテンツにはならない。
「経営者の顔が見えること」は、信頼につながる。
しかし、「経営者の顔しか見えないこと」は、フォローする理由を見失わせるかもしれない。
毎日、社長を動画に出せる。
それは、強い実行力だ。
今日この動画を見る理由を、視聴者に伝えられる。
そこまでできて、初めてSNS運用になる。
毎日きっちりタイムラインに現れる社長を、あなたは少しずつ信頼するだろうか。
それとも、
「タイムライン上の上司が、今日も出勤してきた」
と感じるだろうか。
参考資料
- 分析対象企業のYouTube、Instagram、公式運用方針(2026年8月18日閲覧。公開版では匿名化のためURL非掲載)
- YouTubeヘルプ「3分間のYouTubeショート動画について」
- DDJapan公式YouTubeチャンネル
- Brand Bank公式YouTubeチャンネル
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