目次
口コミサイトを眺めていると、看板メニューの写真がずらりと並んでいる。
角度も、ほぼ同じ。
構図も、ほぼ同じ。
真ん中の卵黄まで、毎回同じ場所に出勤しているように見える。
まるで料理の証明写真だ。
ところが、その一杯を大型グルメアカウントが撮ると、照明が入り、カメラが動き、同じ料理なのに別物のように見える。
「いいね」の数も、数十件から数万件へ跳ね上がることがある。
すると、ついこう考えたくなる。
フォロワーが多いほど発信力も強い。ならば、予算をかける価値も高い。
間違いとは言い切れない。
けれど、そのまま信じると、店は予算の使いどころを簡単に間違える。
飲食店が売っているのは、再生回数ではない。
料理だ。
お客さんは「下位ランクのインフルエンサー」ではない
お客さん、日常的に発信するクリエイター、地域密着型インフルエンサー、大型グルメアカウント。
この4者は、下から上へ並ぶランクではない。
それぞれ、役割が違う。
お客さんは、自分の実体験を通して、「今の店」の姿を口コミで伝える。
日常的に発信するクリエイターは、継続して投稿し、料理や店の細かな魅力を拾う。
地域密着型インフルエンサーは、地元の人に店の情報を届け、来店のきっかけをつくる。
大型グルメアカウントは、短期間で認知を広げたいときや、地域外でのイベント、ブランド展開に向いている。
普通のお客さんが何気なく投稿した一枚が、思いがけずバズることもある。
逆に、数字は派手でなくても、本当に来店してくれる地元のフォロワーを持つクリエイターもいる。
フォロワー数は、確かに依頼料を左右する。
だが、その人が店にどれだけ役立つかまでは、教えてくれない。

図1:発信者は上下関係ではなく、それぞれ役割が違う
先に決めるのは、「誰に頼むか」ではなく「何を買うか」
日々の集客を安定させたいなら、全国に広く知られることよりも、実際に店へ来られる地域の人にきちんと届くことのほうが重要だ。
客席数も、営業時間も、1日に出せる食数も限られている。
一夜にして全国区になっても、一夜にして客席を何百席も増やせるわけではない。
注目は集まる。
だが、それだけで商売が安定するとは限らない。
一方、新しい地域への出店や商業施設でのイベントなど、短期間でブランドの認知を広げたい場面では、大型グルメアカウントが力を発揮する。
大型アカウントは、小規模アカウントをそのまま大きくした存在ではない。
頼む目的が、そもそも違う。
日常の集客が目的なら、判断軸は、ざっくり次のように置ける。
依頼の価値 =
商圏内の有効リーチ × 来店意向
× 店の受け入れ余力 ÷ 総コスト

図2:目的が変われば、相性のよい発信者も変わる
総コストは、現金だけではない。
料理の無償提供、事前連絡、当日の対応、撮影協力、素材管理。
どれもコストに含まれる。
固定リストではなく、候補を試して入れ替える
同じ相手に頼み続けるうちに、候補リストは、いつの間にか「お付き合い名簿」に変わっていく。
だからこそ、候補を増やし、小さく試し、定期的に見直す仕組みが必要になる。
投稿の内容や雰囲気が、店に合っているか。
フォロワーが、実際に店へ足を運べる地域にいるか。
コメント欄に、本当に「行ってみたい」という反応があるか。
一度バズっても、すぐに「神扱い」はしない。
一度数字が弱くても、すぐに見切らない。
合う相手は残す。
成果が安定すれば、任せる範囲や予算を広げる。
何度か試しても合わなければ、入れ替える。
フォロワー数だけで大・中・小に分けるより、手間はかかる。
だが、判断の精度はずっと上がる。

図3:候補を小さく試し、残す・広げる・入れ替える
看板商品は繰り返していい。発信まで手を抜いてはいけない
口コミサイトに同じ看板商品の写真が何枚も並んでいても、「ほかのメニューも撮ってほしい」と嘆く必要はない。
お客さんは、食事をしに来ている。
店のコンテンツKPIを達成しに来ているわけではない。
その繰り返しが、看板商品の認知を少しずつ積み上げる。
写真や切り口に変化をつけるのは、公式アカウントや店と組むクリエイターの仕事だ。
料理そのものは、毎日違う顔にはなれない。
それでも、仕込み、調理の技、食べ方、スタッフの人柄、受け継がれてきた物語、まだ知られていない別のメニュー。
伝えられることは、いくらでもある。
写真や評判が、最初の来店をつくる。
味が、次の来店をつくる。
技術や人、物語まで伝われば、その店は記憶に残る。
新商品、季節のイベント、話題が生まれやすい時期も、あらかじめ年間計画に入れておきたい。
新商品の発売前日になって、
「明日から新商品なんですが、来てくれるインフルエンサー、いませんか?」
と慌てても、もう遅い。
まとめ
飲食店のSNSには、2つの思い込みがつきまとう。
「一度バズれば、店を救える」
「フォロワーが一番多い人が、一番役に立つ」
大切なのは、一番大きなアカウントに一度頼むことではない。
役割の違う相手を組み合わせ、継続的に試しながら、自店に合う形を探すことだ。
残す。
広げる。
入れ替える。
来店につながらない再生回数は、最後には管理画面の数字として残るだけだ。
店の商売を支えるのは、画面に並ぶ「何万回」ではない。
実際に店の扉を開けてくれる、一組一組のお客さんだ。