AIと原始人と火の話——膨大な「未知の知」を、信用できる形に翻訳する
AIと原始人と火の話——膨大な「未知の知」を、信用できる形に翻訳する|Wantedly Story
FAXを自動化するシステムを作りながら、ずっと考えていたことがある。
「これは本当に自分が作ったと言えるのか」という問いだ。
コードの大部分はAIが生成した。設計の相談もAIにした。エラーの原因分析もAIに聞いた。
じゃあ、自分は何をしたのか。
AIを「信用できる形」に翻訳する仕事
AIは膨大な知を持っている。でも、そのまま現場には使えない。
波佐見焼の窯元という具体的な文脈、FAXという具体的な媒体、「LINEなら使える」という具体的な制約——そういった現実の条件を、AIはそれだけでは知らない。
AIが生成したコードを、実際の本番環境で動かすためには何度もエラーと向き合った。環境変数の名前の不一致、Gitへの秘密情報の漏洩リスク、Notionのスキーマ設計の是非——これらは全部、AIが指示しても人間が判断して解決しなければ前に進まなかった問題だ。
AIは「知」を持っている。でも「この文脈で、今、何を選ぶか」は人間が決める。
膨大になっていくAIという未知の知を、信用できる形に翻訳して、その人にしか創り出せない時間を作る。それが、今という時代の仕事なんだと気づいた。
やることは、原始人と火のレベルから変わらない
ここで気づいたことがある。
原始人が火を手に入れたとき、彼らがやったことは何か。火そのものを作ったわけじゃない。雷が落ちて燃えた木を見て、それを「使える形」にした。どこに置けば安全か、何を燃やせば長持ちするか、どうすれば食べ物に使えるか——未知のエネルギーを、生活の文脈に翻訳した。
AIも同じだ。
過度に鵜呑みにする必要もない。過度に恐れる必要もない。ただ、未知の力を自分の文脈で信用できる形に翻訳して、自分にしかできないことに時間を使う。それだけだ。
本質的にやっていることは、何万年も変わっていない。
「自分にしかできないこと」とは何か
この問いが、今の自分を動かしている。
波佐見焼の窯元にFAXが届くという現実を知っていたのは、自分がHASAMI-Nextというプロジェクトに関わっていたからだ。「LINEで写真を送るだけにしよう」と決めたのは、窯元のおじさんたちに「新しいアプリを覚えさせたくない」と思ったからだ。「動的プロパティは3ヶ月後に破綻する」と判断したのは、使われ続けることを想像したからだ。
AIはこの文脈を持っていない。持っているのは自分だけだ。
AIは火だ。強力で、使い方を間違えれば危うく、でも正しく使えば圧倒的に生活を変える。
自分の仕事は、その火を持って、誰も行っていない場所へ歩いていくことだと思っている。
開発したシステムのコードはGitHubで公開中。