「ITに強い看護師」でいいじゃん、と言われた私が出した答え
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1. 現場で感じた「限界」の正体
「なんでエンジニアなの?」
「最大の強みの国家資格があるのになぜそれを活かさないの?」
「ITに詳しい看護師として、現場を支えればいいじゃない」
「あなたがやりたいことは政治家のような仕事ではないか?」
キャリアチェンジを志してから、何度もいただいた言葉です。確かに、現場でシステムの操作を教え、Excelでシフト表を効率化する「ITに強い看護師」は、どこの病棟でも重宝されます。実際病棟勤務していた時には委員会の資料作成やミスを防ぐために掲示する表の作成、患者様への説明資料作成などを任せていただく機会が多くありました。
しかし、私はあえてその「枠組み」から飛び出す道を選びました。なぜなら、現場に留まる限り、解決できない「根本的な仕様バグ」があることに気づいたからです。
2. NST立ち上げで見えた「設計」の重要性
かつて私は、NST(栄養サポートチーム)の立ち上げに携わりました。多職種が連携し、患者さんの栄養状態を改善する「新しい仕組み」をゼロから構築する経験です。
そこで痛感したのは、どんなに立派な理念があっても、「情報の流れ(アルゴリズム)」と「現場の動線(ユーザー体験)」が正しく設計されていない仕組みは、現場を疲弊させるだけだという事実でした。
実体験としてNSTの立ち上げ時導入を進めるための計画書などはなくとりあえずやってみてできないところがあれば修正していこうという形だったため、現場の不安や戸惑いを肌で感じていました。
「ITに強い看護師」として現場で工夫するのは、不便なシステムという傷口に「絆創膏」を貼るような対症療法です。
私がやりたいのは、不便さの根源を特定し、プログラムの構造から作り替える「根治手術(システム設計)」なのです。
3. 「ユーザー」という檻を越えて
看護師はシステムの「ユーザー」です。どれだけ知識があっても、決められたルールの内側でしか動けません。電子カルテの使いにくい画面を、自分の手で一行のコードも書き換えることはできないのです。
対してエンジニアは、ルールそのものを定義する「クリエイター」です。 私は、看護師として培った「ドメイン知識(現場の解像度)」を、単に使うためではなく、「正しい設計」のために使いたい。
- 現場の動線がなぜ混乱するのか?
- なぜこの入力項目が看護師の時間を奪い、結果として給与と労働の見合わない感覚(納得感の欠如)を生むのか?
これらの課題を、医療法や経営指標(簿記の視点)を理解した上で、技術の力で根本から解決したい。そのために、私は「作る側」の専門性を手に入れる決断をしました。
4.政治家になって法律を変えればいいのではないか
私がやりたいことを話すと「政治家になって法律を変えればいいのではないか」
そう言われました。しかし日本の医療DX化に対する流れを変えたい(今以上に最適解がある)とは思いません。私より何倍も頭がいいだろう方達が考えたものであるのだから。
「医療法や報酬制度という『変えられないルール』があるからこそ、ITの役割は重要になります。
制度という仕様(ルール)の枠組みの中で、いかに現場の動線を最適化し、看護師の負担を最小化するか。それは政治の領域ではなく、現場の解像度を持ったエンジニアによる『緻密な設計』の領域です。
私は、制度を嘆く政治家になりたいのではありません。制度という制約条件下で、現場を救う『最適解』をコードで書き出すエンジニアになりたいのです。」
5.好きなことは、趣味でいいのではないか?
「好きなことを仕事にすると幸福度が下がる。趣味に留めておけばいい」 そんなアドバイスもいただきました。
しかし私にとって、医療現場の課題を解き明かし、最適なシステムを設計することは、単なる「趣味」で片付けられるほど軽い熱量ではありません。 自分の関心が強い領域だからこそ、複雑な制度の仕様にも、泥臭いデバッグ作業にも、粘り強く向き合える。「好き」を「専門性」へと昇華させ、誰かの役に立つ形に実装すること。 それこそが、私がエンジニアとして追求したい幸福の形です。
6. 準備は、戦略的に。
「今すぐ転職すればいい」という声もありますが、私はあえて今、学習期間を設けています。 医療情報の基礎を固め、基本情報の資格を取り、Reactで自ら「動線管理ツール」のプロトタイプをビルドする。この「二段構え」の準備こそが、現場と開発の距離を縮められる「ブリッジエンジニア」になるための最短ルートだと確信しているからです。
「ITに強い」という形容詞ではなく、「技術で医療をアップデートする」という動詞で語れる存在へ。 半年後、さらに成長した姿で、この想いに共鳴してくれるチームと出会えることを楽しみにしています。