廃れゆく街に、若者3人が仕掛けた実験
私の故郷・大邱(テグ)という地域にある、不老洞(ブルロドン)古墳公園。1500年前の古墳が都市の中にひっそりと佇む、なんとも不思議な散歩スポットです。
ここは私の故郷の近くにある場所で、子どもの頃から何度も足を運んできました。静かで、どこか時間の流れが違う感じがして、ずっと好きな場所でした。
でも今、この街は少しずつ死にかけています。
若者は出ていき、観光客も減り、かつて賑わっていた商店街も閑散としてきました。その現実を目の当たりにして、ずっと気になっていた問いが頭に浮かびました。
「マーケティングで、街は変えられるのか?」
答えを出すために、2人のチームメンバーと一緒にプロジェクトを始めることにしました。
目次
1.Project 01 | 모주(モジュ)— 地域の味を、形に
① 何をしたか
② なぜこれを選んだか
④ 結果
⑤ 学んだこと
2.Project 02 | テラリウム — 自然を、手に取れるものに
① 何をしたか
② なぜこれを選んだか
④ 結果
⑤ 学んだこと
3. Project 03 | ローカルマガジン『Bul.log』— 街を、言葉に
① 何をしたか
② なぜこれを選んだか
③ どうやったか
④ 結果
⑤ 学んだこと
4.この実験から学んだこと
1.Project 01 | 모주(モジュ)— 地域の味を、形に
① 何をしたか
不老洞(ブルロドン)の特産物である막걸리(マッコリ)をベースにした伝統飲料「モジュ」を、不老洞(ブルロドン)テーマでOEM生産。オリジナルキャラクターとパッケージをデザインし、試飲会・地域児童センターへの寄付を実施しました。
↑ 思ったより多くの方々が関心を寄せてくださった試飲会
② なぜこれを選んだか
不老洞(ブルロドン)はもともと막걸리(マッコリ)文化が根付いた街。チームメンバーの一人が地域のマッコリアカデミーに参加したことをきっかけに出会ったのが「モジュ」でした。モジュとは、막걸리(マッコリ)をベースに韓方素材を加えた伝統飲料です。この地域に根ざした飲み物を「持ち帰れるもの」にすることで、訪れた人が不老洞(ブルロドン)を思い出すきっかけになると考えました。
↑ マッコリアカデミー開催時のチームメンバー(アン・ジホさん)の様子
↑ せっかくなので、商品ページっぽく写真も撮ってみました。
③ どうやったか
全州(チョンジュ)にあるモジュ専門工場にコンタクト。大学生であること、販売目的ではなく地域PRのためのプロジェクトであることを正直に伝え、異例の少量生産を実現させました。
↑ これが本当に出てくるんだね···
パッケージのデザイン制作は外注しましたが、企画はすべて自分たちで行いました。不老洞(ブルロドン)という地名の由来は、韓国戦争時に大人が徴兵され若者だけが残ったことから「老いない(不老)街」と呼ばれるようになったこと。この「老いない」というキーワードから、長寿の象徴である亀をキャラクターとして着想。막걸리(マッコリ)を抱えた亀のキャラクターと、下部に不老洞(ブルロドン)古墳公園を形象化したイラスト、シグニチャーカラーの緑を基調としたパッケージに仕上げました。
↑ 最初はあまり良くなかったけど、見ているうちに可愛いかな?
④ 結果
大邱(テグ)ローカルクリエイターアイデアコンテストおよびローカルキャップストーンデザインキャンプにて最優秀賞を受賞。モジュを1,200本実際に生産し、地域の児童センターへの寄付と青年センターでの試飲会を実施。参加者から温かい反応をいただき、食品企業や起業家から販売協力の提案を2件いただきました。
↑ 発表はいつも緊張するけれど、それが心地よい高揚感をくれる。
↑ 私たちのアイデア、なかなかいいかもしれない。。!
↑ 寄付は一方的に与えるだけだけれど、私も何かをもらった気がする。
⑤ 学んだこと
食品販売認証の取得が間に合わず、製品を広く販売できなかったことが最大の課題でした。しかし、そこから見えてきたのはローカルマーケティングの本質でした。
どれだけ地域の外へ広げられるか。そして、ローカルという文脈を外しても、製品自体がどれだけ強い本質を持っているか。
どんなに優れたマーケティングがあっても、商品自体に魅力がなければ意味がない——試飲会で子どもより大人に好まれると気づいたとき、「若い世代に不老洞(ブルロドン)を広める」という目標との乖離を感じました。製品の魅力と、届けたいターゲットの一致。それがいかに重要かを、身をもって学んだプロジェクトです。
2.Project 02 | テラリウム — 自然を、手に取れるものに
① 何をしたか
不老洞(ブルロドン)に隣接する道洞(トドン)という街に、大韓民国天然記念物第1号に指定された側柏(コノテガシワ)の森があります。この知られざる自然を「持ち帰れるもの」にするため、側柏の森を形象化したテラリウムを企画・制作。韓国のクラウドファンディングサイト「텀블벅(タムブルボク)」にて販売しました。
↑ これがあの有名な天然記念物第1号?
② なぜこれを選んだか
不老洞(ブルロドン)だけでなく、隣の道洞(トドン)にある側柏の森も一緒に伝えたかった。天然記念物第1号という唯一無二の存在でありながら、ほとんど知られていない。その「秘めた本質」をプロダクトに落とし込めると確信し、テラリウムという形を選びました。
↑ できる限り忠実に再現しようとした、その結果。
③ どうやったか
起業サークルで出会った植物事業を営む友人と協力し、プロジェクトをスタート。大邱(テグ)北区の地域支援事業に応募し、約300万ウォン(約30万円)の支援金を獲得しました。
まず側柏の森へ3回答査に赴きました。この森は一般的な森というより、木々が壁のように連なる神秘的な空間。その雰囲気をそのまま形にしたくて、容器の側面に土を付着させて「壁」のように仕上げるデザインを考案しました。
↑ かなり遠かったけれど、何度も足を運んだ。
↑ 少し奥に進むと、神秘的な雰囲気の階段がある
しかし一般的なテラリウム用の土には付着性がなく、壁への定着が難しい。何度も配合を試みる中で容器をいくつか割ってしまうほど試行錯誤を重ね、付着性と価格を両立した配合をついに発見しました。
↑ 市場にないものを生み出すことは、簡単ではない!
テラリウム制作以外——詳細ページ、パッケージ、配送方法、CSまで——すべてを自分が統括。商品写真は初めてスタジオを借り、「自分が消費者なら、どんな雰囲気の写真に惹かれるか」を考えながら、照明と向き合い一枚一枚丁寧に撮影しました。
↑ チームメンバーと共に楽しみながら撮影した商品スタイリングショット
↑ 個人的に一番うまく撮れたと思う一枚
詳細ページでは、前プロジェクトの反省を活かし「地域」よりも「製品そのものの魅力」を前面に出すことにしました。「日常の疲れを感じたとき、部屋の中で森を感じられるテラリウム」というコンセプトで、一般消費者に刺さるページを制作しました。
↑ 詳細ページのメインビジュアル
↑ フッキングページ:頭が痛くなるたびに訪れる側柏の森、これを自分の部屋に持ち込めたら?
↑ 私たちの製品はこんな特長があります!のページ
販売直前のタイミングで、不老洞(ブルロドン)側からの招待を受け、マッコリフェスティバル開催日に不老洞(ブルロドン)都市再生センターを借りてテラリウム体験クラスを開催。道洞(トドン)の側柏の森を紹介しながら、子どもたちと保護者が一緒にテラリウムを制作して持ち帰るプログラムを企画・総括しました。無料開催ながら2タイム各20名の枠が30分で満員となりました。
↑ 初めて実施したクラス··· 大変だったけど楽しかった!
↑ 自分の仕事のように手伝ってくれた感謝すべきチームメンバー
クラスを無事に終えると、今度は本格的な"配送地獄"が始まりました。オフィスの屋上で一週間以上かけて土を詰め続け、完成した荷物をオフィスの階段に積み上げたあの光景は、今でも忘れられません。ガラス製の容器が割れないよう二重三重に梱包し、それでも不安でチームメンバーと祈りながら——結果、一箱も問題なく届けることができました。
↑ テラリウムで起業はやめておこう、私たち……
④ 結果
達成率:595%
販売個数:約100個
販売額:297万ウォン(約30万円)
不老洞(ブルロドン)からの招待でテラリウム体験クラスを開催、2タイム各20名が30分で満員
↑ とにかく製品的には大成功!
⑤ 学んだこと
前プロジェクトの反省を活かし、製品自体の魅力で勝負した結果、定量的な成果につなげることができました。一方で、「このテラリウムをきっかけに不老洞(ブルロドン)を実際に訪れたい」という流れを生み出せたかというと、まだ不明瞭です。製品としての完成度と、地域への送客——この二つを同時に達成することの難しさを実感しながらも、その答えを探し続けるためにマガジンプロジェクトへと進みました。
3. Project 03 | ローカルマガジン『Bul.log』— 街を、言葉に
① 何をしたか
不老洞(ブルロドン)の飲食店・カフェ・名所・地域で活動する人々を直接取材し、ローカルマガジン『Bul.log』を制作・発行。600部を印刷し、地域内の店舗や慶北大学校(キョンブクテハッキョ)図書館など各所に配布。現在も韓国のオンライン書店にて販売中です。
↑ 何度も撮り続けた不老洞(ブルロドン)古墳公園の写真の中から、一番よく撮れた一枚を表紙に
② なぜこれを選んだか
テラリウムで「製品を通じた地域発信」を試みましたが、それだけでは不老洞(ブルロドン)そのものへの関心を生み出すには限界がありました。「地域を直接照らす」という本質的な目的と、自分の強みである「書くこと」を掛け合わせた結果、ローカルマガジンという形を選びました。
まず起業サークルで知り合ったメンバーを一人加え、二人でローカルマガジンを手当たり次第購入して読み込みました。そこから見えてきた方針は「デザインより、読んでいて飽きない文章と、自分たちが直接撮影した写真で勝負する」こと。
コンテンツの軸は3つ。不老洞(ブルロドン)で長年一つの場所を守り続けてきた飲食店・カフェの紹介、地域を盛り上げるために黙々と活動する人々へのインタビュー、そしてこれまでの自分たちのプロジェクト活動の総集編です。
③ どうやったか
↑ デザイナーがいないから……内容のクオリティで勝負する!
インタビューは2本が目玉でした。衰退しつつある街の中で、トレンドを取り入れながら若い世代にも人気を集める不老洞(ブルロドン)のカフェオーナー、そして막걸리(マッコリ)アカデミーを受講中の受講生2名。あえてインタビューまで行った理由は、数字や情報では届かないものがあると思ったからです。この街で黙々と自分の仕事を続ける人々の言葉を通じて、不老洞(ブルロドン)のリアルな姿を届けたかった。
↑ 2時間にわたるインタビューは、10ページにわたるインタビューページに変更された
デザインは二人で全て担当。表紙や本文レイアウトは自分が、読んでいてメリハリをつける特別ページはメンバーが担いました。取材は二人で行い、文章はほぼ全て自分が執筆。印刷所は大邱(テグ)市内の業者を選定し、部数の決定から打ち合わせのメール・対面ミーティングまで自分が対応しました。
↑ 「雑誌」らしいデザインをかなり真似してみた。。!
↑ 「チームメンバーが作ってくれたかわいい特設ページが至る所に
↑ 本の後半には、これまでに実施したブルロドンプロジェクトの総集編!
④ 結果
- 600部を制作・配布
- 取材した飲食店・カフェに設置し、他の地域から訪れた客にも継続的に読まれる環境を構築
- 慶北大学校(キョンブクテハッキョ)図書館に所蔵図書として登録
- 現在もオンライン書店にて販売中
⑤ 学んだこと
「地域を、どう届けるか」——この問いと向き合い続けたプロジェクトでした。製品でも、マガジンでも、地域に人とお金を呼び込むところまで届けることの難しさを痛感しました。もっとバズる動画を作るべきだったか、体験型のプログラムを企画すべきだったか、より大きな予算と時間をかけてスタートアップ的に動くべきだったか——様々な問いが残りました。ただ、マーケティングに正解はなく、この経験そのものが「届けることの本質」を体で学ぶ場になりました。小さなプロジェクトでも、企画・制作・営業・運営を一人でやりきる力は、確かにここで育ったと感じています。
4.この実験から学んだこと
マーケティングの視点から
- どれだけ優れたマーケティングがあっても、製品自体に魅力がなければ意味がない
- ローカルマーケティングの本質は、地域の外へどれだけ広げられるか。そしてローカルという文脈を外しても、製品がどれだけ強い本質を持っているか
- 人とお金が集まってこそ地域は活性化する——その手前で止まることの難しさを実感した
実務の視点から
- 企画・制作・営業・運営を一貫して担うことで、プロジェクト全体を俯瞰する力が身についた
- 前のプロジェクトの反省を次に活かす、仮説と改善のサイクルを自然と回せるようになった
- 予算・時間・人員が限られた環境で、何を優先すべきかを判断する力が鍛えられた
最後までお読みいただき、ありがとうございました!