こんにちは!柿原格です。
照りつける太陽が全てを焼き尽くすような砂漠の真ん中に、ぽつんと置かれた一台の自動販売機。それは周囲の風景とはあまりに不釣り合いな、真っ白な霜を纏った鉄の塊です。ボタンを押せば、心地よい金属音と共に、透き通った氷の塊が音を立てて落ちてくる。マーケティングという戦場で戦略を練り、組織の立ち上げを支援する日々を送っていると、時折この自動販売機のような存在でありたいと願うことがあります。誰もが喉の渇きに耐え、蜃気楼を追いかけている場所で、たった一人のために静かな冷気を提供し続けること。
ビジネスという名の過酷な旅路において、私たちは常に効率という名の地図を握りしめています。最短距離でオアシスに辿り着き、誰よりも早く旗を立てる。しかし、あまりにも速く走りすぎた足元には、細かな砂の粒子が舞い上がり、本当に大切な足跡すら見えなくなってしまう。かつて私がブランドの運営に携わっていたとき、ふとした瞬間に自分の指先が凍りついているような感覚に陥ったことがありました。完璧な数字、完璧な計画、完璧な言葉。それらを積み上げるほどに、心の中にあるはずの熱量が、どこか遠い場所へと吸い込まれていくような違和感です。
その時、砂漠の地平線から小さな鐘の音が聞こえてきました。それは誰が鳴らしているのかもわからない、低く、しかし確かな重みを持った響きでした。音の波が砂の上を滑り、私の体温を少しずつ奪っていく。不思議なことに、その冷たさは拒絶ではなく、むしろ深い安らぎを伴っていました。戦略を立てるプロフェッショナルとして、私はそれまで、温かい共感こそが最強の武器だと信じて疑いませんでした。しかし、その時感じたのは、絶対的な静寂と、氷のような冷徹な視線が持つ、圧倒的な救いです。
現在の私は、複数の企業の顧問として組織の内側に入り込んでいますが、そこで提供しているのは、もしかすると温かい励ましではなく、この氷の自販機から取り出した、鋭い氷の破片なのかもしれません。常識という名の熱気に浮かされた頭を冷やし、一度全てを凍結させてから、全く新しい形を削り出す。そのプロセスにおいて、言葉はもはや不要です。ただ、砂漠に響く鐘の音に耳を澄ませ、溶けゆく氷の冷たさを手のひらで感じるだけで十分なのです。
空を見上げれば、そこには昼間でも星が輝いています。重力に逆らって舞い上がる砂の粒が、一つひとつ小さな水晶のように光を反射し、見たこともない星座を描き出しています。私たちは、何かを成し遂げるためにここにいるのでしょうか。それとも、ただ溶けて消えるためだけに、この熱い大地を歩き続けているのでしょうか。自動販売機の取り出し口には、まだ誰も手に取っていない、最後の一塊が残されています。それが完全に水へと還る頃、私たちは自分がかつて何者であったかさえも、思い出せなくなっているのかもしれません。