ベテランが辞めたあと、会社に技術は残るのか
ベテランがいる間は、問題が見えにくい
現場には、あの人に聞けば分かるという人がいます。
長年その仕事をしてきた人。
作業の流れを分かっている人。
道具の扱いを知っている人。
失敗しやすいところを見抜ける人。
新人に何を任せてよいか判断できる人。
こうしたベテランがいる現場は、一見すると問題なく回っているように見えます。
しかし、それは会社の中に技術が残っているからではなく、その人の中に技術が残っているだけかもしれません。
その人がいる間は、困った時に聞けます。
判断に迷った時に確認できます。
新人が失敗しそうな時に止めてもらえます。
現場の細かい違和感にも気づいてもらえます。
しかし、その人が退職したらどうなるのか。
急に休んだらどうなるのか。
別の現場へ行ったらどうなるのか。
その時に初めて、技術が会社に残っていなかったことに気づく場合があります。
ベテランがいる間は、問題が見えにくい。
ここが、技術継承の難しいところだと思います。
技術は人に残りやすく、会社には残りにくい
現場の技術は、自然には会社に残りません。
作業をしている人の経験として残ります。
教えている人の感覚として残ります。
長年の失敗や工夫として、その人の中に蓄積されます。
しかし、それが記録されていなければ、会社の中には残りません。
作業手順。
道具の使い方。
安全上の注意。
失敗しやすい場面。
品質の判断基準。
新人がつまずく場所。
こうしたものが言葉や映像として残っていなければ、その人が現場を離れた時に一緒に失われます。
技術がある会社と、技術が残っている会社は違います。
技術がある会社とは、できる人がいる会社です。
技術が残っている会社とは、その人がいなくなっても次の人が学べる状態がある会社です。
この違いは大きいです。
人に頼るだけでは、技術は会社の資産になりません。
会社の中に残す仕組みがあって初めて、技術は次の人に渡せるものになります。
新人教育は、できる人に集中しやすい
新人教育も同じです。
現場では、教えられる人に教育が集中します。
説明がうまい人。
面倒見がよい人。
作業をよく分かっている人。
危ないところに気づける人。
新人が聞きやすい人。
こうした人に質問や確認が集まります。
短期的には、それで現場は回ります。
新人も安心します。
管理者も、任せられる人がいるので助かります。
しかし、その状態が続くと、教育が属人化します。
その人がいないと新人が育たない。
その人が忙しいと説明が止まる。
その人の教え方が、そのまま会社の教育になる。
その人が辞めると、教育のやり方も一緒に失われる。
これは、教える人が悪いわけではありません。
むしろ、現場のために時間を使っている人です。
問題は、その人の頭の中にある説明や判断が、会社の中に残っていないことです。
教育を人の善意だけに頼ると、教える人も疲弊します。
新人も、聞きにくくなります。
会社としては、教育を支える仕組みが必要になります。
OJTだけでは教育が安定しない
現場教育では、OJTが重要です。
実際の仕事を見ながら覚える。
先輩の動きを見る。
自分で手を動かす。
その場で注意を受ける。
これは現場仕事には欠かせません。
ただし、OJTだけに頼ると、教育が安定しにくくなります。
教える人によって内容が変わる。
忙しい日は説明が短くなる。
新人がどこを見ればよいか分からない。
何を教えたか記録に残らない。
同じ説明を何度も繰り返す。
こうしたことが起きます。
OJTは必要です。
しかし、OJTだけでは足りません。
作業前に確認できるもの。
忘れた時に見返せるもの。
基本手順をそろえるもの。
注意点を共有できるもの。
ベテランの判断基準を残すもの。
こうした土台があることで、OJTはより使いやすくなります。
人が教える部分と、映像やマニュアルで確認できる部分を分ける。
これが、現場教育を安定させるために必要な考え方だと思います。
手順だけでは、技術は残らない
技術継承というと、作業手順を残すことを考えがちです。
何を準備するのか。
どの順番で作業するのか。
どの道具を使うのか。
最後に何を確認するのか。
もちろん、手順は大切です。
しかし、現場で本当に差が出るのは、判断の部分です。
この状態で次に進んでよいのか。
この仕上がりで問題ないのか。
どこからやり直しなのか。
どの状態なら危ないのか。
誰に確認すべきなのか。
こうした判断基準は、ベテランの頭の中に残っていることが多いです。
しかも、本人にとっては当たり前になっているため、言葉にされていないこともあります。
見れば分かる。
このくらいなら大丈夫。
ここは危ない。
まだ任せるには早い。
こうした言葉の中には、長年の経験があります。
しかし、新人にはその基準が分かりません。
だからこそ、技術を残す時には、手順だけでなく、何を見て判断しているのかを残す必要があります。
映像で残す意味
私は、現場作業や職人技術を映像で残すことに意味があると考えています。
文章や写真だけでは伝わりにくい作業があります。
手元の動き。
道具の角度。
体の向き。
作業の流れ。
良い例と悪い例の違い。
危ない動き。
ベテランが見ている場所。
こうしたものは、映像の方が伝わりやすい場合があります。
映像は、教育担当者の代わりではありません。
映像を見ただけで、一人前になれるわけでもありません。
しかし、何度でも確認できる教材にはなります。
新人が作業前に見る。
忘れた時に見返す。
教育担当者が説明に使う。
ベテランの技術を記録する。
外国人スタッフ向けに字幕やナレーションを付ける。
このように、映像は現場教育の土台になります。
人は忘れます。
一度説明されただけでは覚えられません。
だから、何度でも確認できる形にしておくことが大切です。
職人技 EK Studioが取り組んでいること
職人技 EK Studioでは、現場の作業や職人技術を映像で記録し、新人教育、技能伝承、マニュアル化に活用できる形へ整える映像制作を行っています。
単にきれいな映像を作ることが目的ではありません。
現場で使えることを重視しています。
作業の流れを見せる。
手元の動きを見せる。
注意点を整理する。
判断基準を残す。
教育担当者が説明に使える形にする。
新人やスタッフが何度でも確認できる形にする。
こうした映像を作ることを目指しています。
私は、大工として現場を経験し、二級建築士として図面業務にも関わり、その後、茅葺き職人として10年以上現場に入りました。
その中で、技術は人に残りやすく、会社には残りにくいものだと感じてきました。
だからこそ、技術を人の記憶だけに頼らせず、会社の中に残す仕組みが必要だと考えています。
技術を会社の資産として残す
ベテランが辞めたあと、会社に技術は残るのか。
これは、多くの現場にとって避けて通れない問いだと思います。
人手不足。
新人教育。
ベテラン退職。
外国人スタッフの受け入れ。
多言語対応。
育成就労。
これらの課題は、すべて別々に見えるかもしれません。
しかし、根本には同じ問題があります。
現場作業を、どう教えるのか。
技術を、どう残すのか。
誰が、何度も同じ説明をするのか。
教える人がいない時に、どう確認するのか。
技術を人の記憶だけに頼る時代は、だんだん難しくなっていくと思います。
これからは、現場の技術を会社の資産として残すことが必要になります。
そのために、映像は一つの有効な手段になります。
職人技 EK Studioは、現場の技術を映像で記録し、教育や技能伝承に使える形へ整えることで、会社の中に技術を残す手伝いをしていきたいと考えています。