新天地で見つけた仕組化のチャンス。新人研修を『迷わない動線』に変えたい
20年間のスターバックス生活を区切りに、人生で大きな挑戦をしたいと考えた私は、大手ITプラットフォームのCS組織へ飛び込むことを決めました。
長年正規雇用での能力発揮を希望していましたが、転勤族の妻であるが故にそれを諦めざるを得なかった私。
コロナ後の世界に確立されたリモートという働き方が、そんな私に大きなチャンスと選択肢を与えてくれました。
都心にそびえ立つビル。
IDカードをタッチしてくぐるエントランス。
ドラマで見たような本社の建物に緊張して固まっていることを恥ずかしく思いながらの初出社日は新鮮でした。
歩いている人すべてが私より勝って見えるような、何とも言えない感情を抱いたことを思い出します。
さて、CSとしてのキャリアがスタートしたわけですが、私にとってのチャレンジは新人研修直後から始まります。
これはどの組織の入社研修にも共通する課題かもしれませんが、研修に登場した担当業務は多岐に渡り、覚えることの量は膨大でした。
初日に「これから3週間覚えることが多くて大変だと思いますが、必ずできるようになりますので頑張ってください」と言われた通り、情報の密度は非常に高いものでした。
新しい学びが好きな私にとって、未知の業務に触れることは好奇心をくすぐるものでしたが、多くの同期にとっては、リモート下での情報の多さは大きな壁となっていたようです。
所属グループに配属後は本格的なリモート勤務が始まり、実務と研修内容がうまくリンクしない、資料をどこから探していいか分からない等、同期チャットは毎日ヘルプや質問の嵐でした。
「点」で受けた教育を「線」の仕組みへ
配属後に気づいたことですが、業務には不定期に発生するものと定期的なものがあり、後者は1か月のリズムがほぼ固定されていました。
ですが、研修はその流れに沿ったものではなく、ランダムに学んだので、業務は「線」でつながらず「点」のまま。
これまで経験してきた多くの研修でも感じたことですが、マニュアルを学ぶことと、それを実務の「流れ」に繋げることの間には、どうしても埋まりにくい溝が存在します。
私たち新人も同様で、今どの処理をすべきか困惑し、研修資料とにらめっこする場面がしばしばありました。
実務開始から半月ほどして、新人にとっての一番の無駄は、業務を正確に進めるために参照する資料を探す時間だと痛感しました。
また、これもどんな組織でも起こりうることですが、情報のアップデート速度に、教育カリキュラムの構造化が追いつかなくなるジレンマがあります。
その結果として先輩のフォローも属人化しがちな側面があり、質問のタイミングを逸してしまうメンバーは、資料探しの無駄が影響し業務が停滞してしまう、といった構造的な課題も見えてきました。
そこで私は、次に入ってくる新人がよりスムーズに実務に入っていけるように、新人研修への提言をまとめることにしました。
同期にアンケートをとり、有志として意見を集約し、課長へ提出。
それからすぐ、新人のためのツールを作ることを決めました。
研修の課題整理と、解決へのアプローチ
研修で気づいた課題をおさらいすると以下でした。
- 業務の流れの把握:1か月の中で定型化されているが、順序がバラバラに学んだため流れが把握しにくい
- 目的の明確化:各業務の「意義・目的」を明確に共有しきれないため、ゴールがぼやけがち
- 優先順位の判断:1か月の業務リズムが分からないまま実務に入るため、突発対応と固定業務の優先順位が判断しにくい(リモート環境では自己解決しやすい環境が重要になるため)
- 情報のアクセシビリティ:必要なマニュアルや資料の格納先が複数あり、慣れるまで閲覧先が分かりにくい
- フォローの平準化:先輩フォローが属人化してしまう
まず必要なことは、固定業務のスケジュール把握でした。
いつどの業務が開始し、いつまでに終えるのかというタイミングを理解することで、突発的に発生する業務にも心の余裕をもって対応できるからです。
また、資料を探す時間を削減するため、私はカレンダー状のポータルツールを作ることを思いつきました。
第1金曜日が「業務A」の対応開始日であれば、カレンダーの「業務A」をクリックすると、必要なマニュアルの最新リンクに直結させます。
この時重要なのは、資料そのものを添付するのではなく「リンク」にすることです。
ツールがアップデートされても常に最新版を見られるようにし、資料探しの無駄を極力減らします。
また、業務の意義や目的を注釈として記しました。
これだけのことで、一気に1から4までの課題を解決することができました。
さらに、5についても助けとなるよう、先輩メンバーに相談しながら社内用語集と、固定業務を進めるためのスケジュール管理のアドバイスもまとめました。
このツールは業務改善ツールの社内公募に応募してみましたが、受賞はしませんでした。
ですが、半年後の研修から、私の提案したツールが新人研修の仕組みに反映されているのを知りました。
自分のアイデアが組織の課題改善に繋がり、実際に後輩たちの役に立つ形になったことを知ったときは、やってみてよかったと安堵と喜びを感じました。
さて、業務にも少しずつ慣れ、2か月目からはほぼ自走できるようになったのですが、次に気になったのは同僚のモチベーションです。
周りの同僚の中には、業務の多さに悩みを抱えている人も少なくありませんでした。
みんながもっと仕事に誇りをもって、楽しさとやりがいを感じながら働くためにはどうしたらいいのだろう。
新人研修への提言の次に、私が自分へのミッションとして掲げたのは、仕組みの力で同僚の生産性とモチベーションを高めることでした。
AIにどハマり。同僚の心を守るために実装を誓う
ちょうどその頃、社内でAI活用をもっと促進しようという号令がかかりました。
好奇心旺盛な私は、Copilotから使い始め、まずはいたって普通の活用法である「メール返信作成のAI化」から着手しました。
これだけでも、いやぁなんて時短になるんだ!と感動したのですが、AI沼にハマるきっかけになった一番の出来事は、社内での「Gemini&Notebook LM」の勉強会でした。
特にGeminiの、プロンプトの型をいくつも作っておける「Gem」という機能の便利さに感動。
他のAIと全く違う魅力を持つLMのすごさにも驚嘆しましたが、自分の業務にはGem機能がすぐに生かせそうだとひらめきました。
勉強会が終わるや否や、Geminiを初起動。
そこで、見よう見まねで勉強会と同じように簡単なGemを作成してみました。
するとどうでしょう。あまりの便利さとすごさに子供のように心が躍り、次から次へと固定業務の効率化のアイディアが湧いてきました。
その日からと言うもの、私は仕事をできるだけ早く片付けては時間を作り、あらゆる業務の効率化に燃えるようになりました。
それもこれも、固定業務を時短にできれば膨大な作業に追われる状況から解放され、同僚の気持ちに余裕が生まれるのでは?と考えたからです。
Gemを作成しては試してみて、もっと良くなるところを見つけては修正するを繰り返すうちに、時短よりもっと重要な使い方に気づきます。
それが、CSの提案の高品質化です。
顧客の利用状況の分析作業や提案作成は、当然ですが個人の能力によるところが大きい業務です。
所要時間も人によってまちまちで、得意な人は早いですが、そうでない人はここに多くの時間を割く必要が出てきます。
同僚を観察して確信したのは、この属人化しがちな業務が最も人に精神的プレッシャーを与えるということです。
そこで、私はGem機能を活用し、この分析作業と提案作成を一挙にできる仕組みを作りました。
AIが分析を誤らないかを何度も何度も試し、どう設定すればAIが間違わずにデータを読み込めるか修正を重ねました。
また、会社のマニュアルに沿いつつも顧客の抱える問題や特徴に沿った提案を作成できるよう、データ以外の部分をどう盛り込んでいくかの仕組みも構築。
必要事項を埋めてコピペするだけで誰でも顧客に合った提案書が作成できるプロンプトもついに完成させました。
提案書のスライド化もNotebook LMを活用し超時間短縮。
会社のフォーマットに沿って作成していた提案書よりも、顧客からは「自分たちのためだけに作ってくれたのだ」と受け止めて頂けるようになり、顧客満足度も上がりました。
提案書作成はとても時間がかかるので汎用資料を送る同僚もかなり多かったのですが、あくまでも汎用のため、個別の丁寧なフォローからは遠ざかってしまう現実がありました。
私個人の所要時間は丁寧に資料を作ると1件につき180分ほどかかっていましたが、このGemにより、それまでよりもずっと高品質な提案メールとそこに添付するPDF資料、案内時のトークスクリプトまでがセットで15分~20分ほどで完成するという効率化を実現しました。
また、顧客ごとに寄り添った提案が作れるので、それまで汎用資料ばかり送っていた同僚も、これなら顧客が提案を実装してくれると自信をもってフォロー業務を行えるようになったと喜んでくれました。
顧客も当然これまでの提案書より質が良くなっているので満足度が上がり、連絡を無視していた顧客が気持ちよく対応してくれるようになるなど、関係性が大幅に上がる効果もありました。
私がその他に作成したGemは全部で7つ、計8つの固定業務の工数を削減しました。これらを合わせるとトータルで全工数の70%を削減することに成功しました。
それで生み出した時間は、フォローの対象リストに挙がってこないが解約懸念のある顧客への早期アプローチ、アップセルやクロスセル提案の余地を自ら探しアプローチ、後輩のサポート、翌月の固定業務に向けた先手先手の準備に充てました。私はこれで、常にKPI指標すべてを達成し続けることができるようになりました。
工数削減に加え、生み出した時間でこれまでの数段ハイクオリティの仕事をこなせるようになったことで、心に余裕と自信が生まれるメカニズムを確信しました。
いよいよ同僚の自尊心を高めるためのチャレンジ
次に着手したのはナレッジを広めることです。
目的は自分への評価を上げることではありません。
同僚たちに笑顔をもたらしたかったからです。
どうやら私のモチベーションはスタバ時代から一貫して、「目の前の人の幸福度を上げる」ことなのだとしみじみ理解しました。
まずは自グループメンバーと同期、仲良しの同僚にGemを共有、どのように使うかの文章も添えて使ってもらうようお願いしました。
するとこれは便利だと皆が驚き感謝してくれるようになり、自然と周りにツールを広めていってくれたのです。
AI活用のナレッジをみんなで共有するためのオンライン勉強会も自主的に企画。
グループを超えた有志に声をかけ、任意参加のオンラインミーティングを開催。
その場でよりよい活用法も生まれ、ミーティングの録画は別グループのAI勉強会で活用していただく機会もありました。
Gemを使った人からは、ヘルススコアフォロー業務の質が圧倒的に上がった、自信をもって提案できるようになった、顧客から感謝された、顧客との関係が向上した、仕事が楽になった等、うれしくて涙が出るような感想をたくさん聞けるようになりました。
これが私の目指していたゴールでした。
仕事における「自尊心」とはまさにこれだと思うのです。
仕事を頑張る→報われる→仕事に自信が出る→次はもっと頑張る→また報われる→仕事にもっと自信が出る…
作りたかったのはこのサイクルです。
このサイクルの間に時々「ミス」や「失敗」が入り込んできても、自尊心があれば全体が崩れることはほぼありません。
多少業務が増えてもイレギュラーが起きても、時間と心の余裕を生み出す仕組みさえあれば、多くの人が仕事に誇りを持ち楽しめるようになるはずなのです。
そしてそれは結果として、必ず組織へも利益をもたらすこととなります。
私が「清流」を流し続ける理由
若いある日、仕事をしていて気づいたことがあります。
それは、流れが停滞してしまっている場所を無理に動かそうとするより、その隣に新しい「清流」を流した方が、結果として全体は早く整うということです。
うまくいっていないことを直接変えようとする努力も大切ですが、もっといいものを作って、それを広められそうなところから始めていく。
これは人を動かしたい時に常に実践して効果を感じてきた手法でした。 変えたい人、変えたいものにがっぷり四つで組み合っていくよりも、別なところからアプローチする方がずっと近道であることが多いのです。
私がどんな場所でも常に清流を流したいと考えているのは、結果それが多くの人の幸せにつながると信じているからです。
大企業のCSとして一定の結果を出せた私は、リモートワークを生かしてもっと大きな裁量で働きたいと思うようになりました。
やりがいと喜びを感じていた仕事でしたが、派遣社員から念願の正社員に全力で挑戦するため、退職を決意します。
退職する際も、自分にできる最大限の還元をして、チームの力になれる形で辞めたいと考えていました。
引継ぎのまとめもAIを駆使して高品質かつ超時短で進めながら、時間をつくってはナレッジを資料化していきました。
私のアカウントで作成したGemは退職後しばらくすると誰もアクセスできなくなってしまうため、共有での利用ではなく各メンバーが自分のGemini内にGemを作成しておく必要があったのです。
退職前に、以下をまとめました。
・誰でもGemは作れる!超簡単Gemって何?&作り方(PDF)
・これで業務工数7割削減!コピペで完了Gem厳選6種レシピ&プロンプト集(PDF&ドキュメント)
・1か月の業務はこう進める!効率とロマンス両立の仕事術(音声付きスライド資料)※各業務をより早くより高いクオリティで行うためのナレッジ集
そして、厚かましいかとは思いつつも課長にすべてを提出。
身近な同僚には、少しでも今後の助けになればという想いで、これらのナレッジを共有して職場を後にしました
退職後、これらはチームキックオフで共有して頂いた上、Gemの資料はチームのAI勉強会のテキストとしてご活用頂いたことを知りました。
私にとって感無量の瞬間でした。
25年のキャリアを通じ実感するのは、CS(顧客の成功)とイネーブルメント(組織開発)は表裏一体であるということです。
今回の経験でもそれを実感しました。
従業員が快適に働ける仕組みが整えば個々が自走を始め、顧客により高い価値を提供するようになる。
その価値は組織に利益をもたらし活性化していく。
活性化した組織はより働きやすくなり、従業員はますます成長していく。
この理想のサイクルのスタートはイネーブルメントであり、ここがうまくいけば組織の成長はどんどん加速していくことは、25年を通じての実感から間違いないと確信しています。
これまでの経験を生かして、若い力と切磋琢磨しながら協働し、新しい世界を見てみたい。
自分の成長余地に、まだまだわくわくしています。