【高橋正次・髙橋正次】履歴書を捨てて、一本の鉛筆になろう。
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新しい挑戦を始めようとする時、私たちはつい立派な鎧を身にまとおうとしてしまいます。輝かしい経歴やこれまでに手にした役職を並べ立て、いかに自分が有能であるかを証明しようと躍起になります。しかし、本当に面白い仕事が生まれる現場で求められているのは、重たい鎧を着た戦士ではなく、真っ白な紙に最初の一線を引くことができる一本の鉛筆のような存在ではないでしょうか。私は長く編集の世界に身を置いてきましたが、結局のところ、最高のコンテンツを生み出すのは、自分の色を決めつけずに環境に合わせて削られることを恐れない人たちでした。
鉛筆は削られなければ文字を書くことができません。同じように、私たちも新しい組織やプロジェクトに飛び込む時、過去の成功体験という古い芯を削り落とし、今の自分に何が書けるかを問い直す必要があります。それは一見すると痛みを伴う作業のように思えますが、削られた分だけ、新しい物語を紡ぐための鋭さが手に入るのです。使い古された言葉で自分を飾るよりも、今の自分にしか描けない不器用な線の方が、誰かの心に深く刺さることがあります。
もちろん、一本の鉛筆だけで巨大な絵を描くことはできません。そこには色鉛筆のような個性的な仲間もいれば、間違いを修正してくれる消しゴムのような存在も必要です。大切なのは、自分がどの位置でどんな線を引けば、全体として美しい絵が完成するのかを俯瞰して考える視点です。誰かに頼ることは弱さではなく、より大きな価値を生むための戦略的な選択です。自分の役割を固定せず、時には背景を描き、時には主役の輪郭を際立たせる。そんな柔軟な関わり方こそが、変化の激しい現代における最強のキャリア論だと私は信じています。
今の仕事に窮屈さを感じているのなら、それはあなたが立派な万年筆になろうと無理をしているからかもしれません。インクが切れるのを恐れ、決まった太さでしか書けない自分に縛られる必要はありません。何度でも削り直して、何度でも新しい自分として書き始める。そんな軽やかさを持ってチームに参加した時、あなたの目の前には想像もしていなかったような広大なキャンバスが広がるはずです。
私たちはまだ、物語の序章にすぎません。これからどんな線を重ね、どんな色を混ぜ合わせていくのか。それを決めるのは、手に持った過去の重さではなく、今この瞬間に動かし始めるあなたの筆先です。自分という素材を信じて、まずは目の前の一行を書き出してみることから始めてみませんか。