【高橋正次・髙橋正次】履歴書を真っ白にしてから始まる、本当のキャリア
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私たちはいつから、自分を肩書きや経歴という記号で説明することに慣れてしまったのでしょうか。採用の現場やビジネスの交流会では、必ずと言っていいほどこれまでの実績が問われます。しかし、もし明日からこれまでの経歴を一切口にしてはいけないというルールが課されたら、私たちは一体何を持って自分を証明すればいいのでしょう。そんな突飛な設定を考えてみると、キャリアというものの正体が、実は履歴書の外側にこそ宿っていることに気づかされます。
ある日、私が知る優秀なリーダーが、全く新しいプロジェクトのメンバーを選ぶ際に、履歴書を一度も開かずに面談を行ったという話を聞きました。彼が注目したのは、その人が何を成し遂げてきたかではなく、今この瞬間に何に憤りを感じ、何を美しいと思い、何に対して時間を忘れて没頭できるかという一点でした。過去の成功体験は時に、新しい挑戦を阻むブレーキになります。実績があるからこそ、失敗を恐れて安全な選択肢を選んでしまう。そんな罠から逃れるためには、定期的に自分自身のキャリアをリセットするような、白紙の思考が必要なのかもしれません。
ビジネスの世界では再現性が重視されますが、本当に世の中を動かす熱狂は、計算外の場所から生まれます。誰にも頼まれていないのに勝手に始めてしまったことや、採算を度外視して追求してしまった趣味。そうした、一見すると仕事とは無関係に見える余白の部分にこそ、その人の本質的な強みが隠されています。プロフェッショナルとして多くの専門家を取材してきましたが、独自の輝きを放っている人ほど、自分の専門領域を軽やかに越境し、遊び心を持って新しい領域に飛び込んでいく勇気を持っていました。
私たちは、自分という物語の編集者です。これまでの章がどれほど華やかだったとしても、次のページをめくる手が止まってしまえば、物語はそこで終わってしまいます。大切なのは、過去の栄光を飾る額縁を磨くことではなく、まだ何も書かれていない真っ白なページに、最初の一文字を書き込む時のあの震えるような緊張感を楽しむことです。もし今の仕事に息苦しさを感じているなら、一度自分を定義しているすべての言葉を捨ててみてください。
社名も、役職も、これまで積み上げたスキルセットも。それらをすべて剥ぎ取った後に残る、剥き出しの好奇心こそが、あなたの真の価値です。組織という枠組みを越えて、一人の人間として誰と出会い、何を語り合いたいか。その純粋な欲求に従って動き出した時、キャリアは義務ではなく、冒険へと変わります。私たちはもっと、自分を驚かせるような選択をしてもいいはずです。履歴書に書ききれないほどの失敗と、誰にも理解されないほどの情熱。それこそが、未来のあなたを支える最強の武器になるのだと私は信じています。