【栗山和暉】砂漠で自販機を探すような仕事はやめよう
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道端に置かれた自動販売機を見て、その佇まいに感動する人はまずいません。けれど、真夏の炎天下でのどが渇ききっているとき、視界の端に青い光が見えたら、それはどんな名画よりも輝いて見えるはずです。私がウェブサイトを作る上で常に意識しているのは、この喉の渇きと、それに応える光のタイミングについてです。多くの企業が、砂漠の真ん中に豪華な宮殿を建てようとします。金箔を塗り、シャンデリアを吊るし、誰も歩いていない場所に壮大な門を構える。しかし、本当に求められているのは、冷たい水が一本だけ入った、迷わず買える自販機だったりするのです。
ビジネスを成長させるためのデザインとは、自己表現の場ではありません。それは、誰かが抱えている問題を解決するための、究極の親切心であるべきだと私は考えています。派手なアニメーションや奇抜なレイアウトは、時にユーザーを疲れさせます。駅の乗り換え案内の看板が、芸術的なフォントで書かれていたら困ってしまいますよね。私たちがウェブ制作で目指すべきは、その看板のように、頭を使わずに目的地へたどり着かせる、圧倒的な分かりやすさです。それを突き詰めることが、結果としてコンバージョンという数字に繋がっていきます。
以前、あるプロジェクトで大幅に要素を削る提案をした際、クライアントから、何もないのは寂しいと言われたことがありました。でも、余白は寂しさではなく、次に進むための深呼吸の場所です。情報を詰め込めば詰め込むほど、ユーザーの心には壁ができてしまいます。大切なのは、伝えることではなく、伝わることです。そのために、私は日々、画面の向こう側にいる人の視線を想像します。どこで迷い、どこで指が止まるのか。大手制作会社で何千もの画面を見てきた経験は、その違和感を敏感に察知するための筋力になりました。
プロとして活動する中で、私は自分の色を消すことに全力を注いでいます。私の名前が表に出る必要はありません。完成したサイトを見た人が、誰が作ったかは知らないけれど、なんだか使いやすくて信頼できるな、と感じてくれること。それが私にとっての最高の報酬です。職人が作った道具のように、使い込むほどに馴染み、ビジネスという戦場でなくてはならない存在になる。そんな、静かだけれど強固な基盤をウェブ上に構築することが、私の使命だと確信しています。
今の時代、技術は誰でも手に入るようになりました。でも、その技術を何のために使うかという哲学は、自分で育てるしかありません。数字を追うことは重要ですが、数字の先にあるのは一人の人間の生活です。誰かの困りごとを解決し、新しい挑戦をサポートする。そのために最適な形を追求し続けること。そんなシンプルで、かつ終わりのない探求こそが、この仕事の醍醐味です。砂漠で迷っている人に、最高の一杯を届けるために、今日も私は余計な装飾を削ぎ落とし、最短の導線を磨き上げています。