【新堀武司】雨漏りする喫茶店で、私は最強の組織を学んだ
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メガバンクの巨大な基幹システムを支え、外資系コンサルティングファームで冷徹なまでの最適解を導き出してきた私が、最近もっとも衝撃を受けたのは、駅前にある古びた喫茶店で起きた小さな事件でした。激しいゲリラ豪雨に見舞われたその日、天井の隅からポツリと雨漏りが始まったのです。最新の防災設備を備えた高層ビルで働いてきた私なら、即座にアラートを鳴らし、マニュアル通りに業者を手配していたでしょう。しかし、その店で展開された光景は、私がこれまでのキャリアで学んできたどんな組織論よりも、しなやかで力強いものでした。
雨漏りに気づいた一人の常連客が、何も言わずに自分の空いたグラスを差し出し、水滴を受け止めました。すると店員さんは慌てることなく、お礼を言いながら奥から予備のバケツを持ってきます。別の客は、床が濡れないように自分の新聞紙を敷き、周囲の席の人が濡れないよう自然に椅子を動かしました。そこにはリーダーの指示も、緻密に練られた計画もありません。ただ、店を守りたいという共通の想いと、目の前のトラブルを自分事として捉える圧倒的な当事者意識だけが、その場を完璧に統制していたのです。
多くの企業は、トラブルをゼロにするために巨大な壁を築こうとします。予期せぬエラーを防ぐために何重ものルールを作り、現場の自由な動きを制限してしまいます。しかし、どんなに頑丈なダムを作っても、想定外の濁流はいつか必ずやってきます。大切なのは、水を通さない壁を作ることではなく、水が漏れた瞬間に、誰かがそっとバケツを差し出せるような関係性を、組織の中に構築しておくことではないでしょうか。これこそが、私がコンサルティングの現場で提唱している、本当の意味でのレジリエンスの形です。
私はフリーランスとして活動する今、クライアントに最新のITツールを提案する際も、この喫茶店の情景を思い浮かべます。技術は、誰かがバケツを持って駆けつける速度を上げるためのものであり、人の温もりを置き換えるためのものではありません。管理を強化して現場を縛り付けるシステムではなく、現場の一人ひとりが主役となって、変化を楽しみながら対応できるような余白のある仕組み。そんな血の通ったデジタル活用こそが、今の日本企業には必要だと確信しています。
効率化の果てに人間味を失った組織は、小さな雨漏り一つでパニックに陥り、崩壊してしまいます。一方で、お互いの弱さを認め合い、補い合えるチームは、逆境のたびに絆を深め、より強固な存在へと進化していきます。私は、メガバンクで学んだ一ミリの狂いも許さない緻密さと、雨漏りする喫茶店で学んだ誰かを思いやる優しさ。この一見すると正反対の二つを掛け合わせることで、誰も見たことがないような新しい時代の組織デザインを描き続けたいと考えています。
もし、あなたのチームに雨が漏れ始めたら、それはチャンスかもしれません。誰が最初に動くのか、誰がそっと手を差し伸べるのか。その瞬間、組織の真価が問われます。私はこれからも、最先端の知見を携えながらも、あえてバケツを常に持ち歩くような、泥臭くて温かいエンジニアでありたいと思っています。完璧なシステムを目指すのをやめて、不完全な私たちが最高に輝ける舞台を、共に作っていきませんか。雨の日の喫茶店で味わったあの一杯のコーヒーのように、苦味の中にも深いコクがある、そんな素晴らしい未来を一緒に作り上げましょう。