【高倉友彰】行列ができるラーメン屋の「水」の重要性
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お昼時に街を歩いていると、長い行列ができているラーメン屋に出くわすことがあります。多くの人は、その店の秘伝のスープや自家製麺に注目するでしょう。しかし、私がその行列に並びながら一番に確認するのは、店員さんがお客さんに差し出すコップ一杯の水の提供スピードと、その水の冷たさです。実は、一杯のラーメンという成果物を完成させるために最も重要なのは、メインの具材ではなく、それらを繋ぎ、支え、循環させる「水」のような存在の質にあるのではないかと考えています。
組織もプロジェクトも、一見すると華やかな主役にばかり目が向きがちです。独創的なアイデアを出すリーダーや、圧倒的な技術力を持つエンジニアは、いわば濃厚なスープや主役のチャーシューです。しかし、それら強い個性がぶつかり合う現場において、全体を滑らかにし、熱くなりすぎた空気を冷やし、次の工程へと喉越しを良くする潤滑油がいなければ、どんなに美味しい素材も台無しになってしまいます。私は、そんな目立たないけれど欠かせない「水の役割」を担う人こそが、最強の組織を作る鍵だと確信しています。
優れた水の役割を果たす人は、自分が前に出ることはありません。しかし、会議が紛糾しそうになったときに絶妙なタイミングで資料を提示したり、誰かが困っているときにさりげなく手を差し伸べたりします。それはシステムで言えば、表からは見えないけれどデータの渋滞を防いでいる裏方の処理のようなものです。地味で目立たない仕事かもしれませんが、その処理がたった一秒遅れるだけで、ユーザー体験という名のラーメンの味は一気に落ちてしまいます。
最近のビジネスの世界では、個人の能力を数値化し、どれだけ目立った成果を上げたかが重視される傾向にあります。もちろんそれは大切なことですが、数値化しにくい「水の貢献」を正しく評価できる文化があるかどうかが、その組織が長く愛される名店になれるか、一時的な流行で終わるかの分かれ道になります。誰かが気持ちよく仕事ができているとき、そこには必ず、誰にも気づかれないようにコップに水を注ぎ足し続けている人の存在があるのです。
私はこれまで、多くの現場で設計図を描いてきました。しかし、最終的にプロジェクトを成功に導いたのは、完璧な図面よりも、現場に流れるコミュニケーションの質でした。お互いの意見を否定せず、まずは受け入れる。熱量を保ちつつも、冷静さを忘れない。そんな水のような柔軟性を持つメンバーが一人いるだけで、チームの生産性は驚くほど向上します。主役を引き立て、最後まで飽きさせない。そんな裏方の美学に、私は何よりも惹かれます。
もしあなたが、今自分の役割が地味だと感じていたり、主役になれないことに焦りを感じていたりするなら、ぜひ自信を持ってほしいと思います。あなたが提供しているその一杯の水が、実はチーム全体の喉を潤し、最高のパフォーマンスを引き出しているのです。私たちはこれからも、派手なトッピングを競い合うだけでなく、土台となる水質の良さを追求し、誰にとっても居心地の良い、そして最高に美味しい体験を提供できるチームであり続けたいと思っています。