【阪田和典】「無名の瞬間」に投資する
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フリーランスになって間もない頃、とあるスタートアップのInstagram運用を任された。ブランド名はまだ世の中に知られておらず、プロダクトも開発中。投稿しても反応は数件。誰も見ていないような画面の向こうに、私は一人で向き合っていた。
普通なら、広告を回して一気に拡散したくなる。だけど私はあえて、それをしなかった。やったのは、毎日投稿を作り、週に2回ストーリーを上げ、たまに長文のキャプションを書くこと。しかも数字ではなく、手触りを重視した。誰が見ているかわからないアカウントに、毎日人の温度を注いだ。
2ヶ月後、一通のDMが届いた。「この投稿、なんでか分からないけど泣けました」見ず知らずの誰かが、ブランドの価値を言葉にしてくれた瞬間だった。その後、製品リリースと同時にアカウントのフォロワーが急増し、リピーターも生まれた。広告費は、ゼロだった。
世の中はスピードとスケールを求める。でもマーケティングの本質って、名もなき時期に、どれだけ誠実に向き合えるかだと思う。注目されてからではなく、誰も注目していないときにどれだけ自分の言葉で語れるか。あの“無名の瞬間”に、投資できるかどうかが、ブランドの未来を決める。
私は広告も運用もSEOもやっているけど、どの施策も、「届いていないように見える時間」を経験しないと、本質には辿り着けないと思っている。数値に表れない時間に、実は一番の価値がある。なぜなら、ファンは静かに育つからだ。データが跳ねる前に、心が動いている。
今、SNSや広告の仕事で結果を急がれることも多い。でも、届いていない時期ほど、未来の土台ができている。スタートアップでの支援が得意な理由は、そういう時間を愛せるからだと思っている。ゼロから何かを育てるには、目に見えない信頼や温度を積み上げる必要がある。それは、どんなツールよりも強い資産になる。