AIが変えるのは、採用業務ではない
企業が「人を採用する前提」そのものが変わり始めている
私はこれまで、エグゼクティブサーチやRPOという立場で、大手企業、外資系企業、スタートアップなど、企業規模も成長段階も異なる採用現場に関わってきました。
採用戦略の設計、ダイレクトソーシング、候補者との面談、面接やオファーの支援、採用オペレーションの構築まで、企業の中に入りながら幅広く担当してきました。
業界についても、IT・SaaSだけではなく、製造、エネルギー、再生可能エネルギー、データセンター、スポーツなど、さまざまな領域の採用を経験しています。
こうした複数の採用現場を横断してきたからこそ、最近、強く感じている変化があります。
それは、企業から求められるものが、
「どうすれば人を採用できるのか」
だけではなく、
「そもそも、このポジションは本当に新しく人を採用する必要があるのか」
というところまで広がり始めていることです。
これまでであれば、退職者が出たら同じポジションの人を採用する。
事業が拡大したら、それに合わせて採用人数を増やす。
それが一般的な考え方でした。
しかし、生成AIやAIエージェントが企業の業務へ入り始めたことで、この前提そのものが変わろうとしています。
人を一人採用する前に、まずは業務を見直す。
AIで代替できるのか。
既存メンバーとAIの組み合わせで対応できるのか。
社内異動や育成によって補えるのか。
外部の専門家や業務委託を活用できるのか。
それらを検討した上で、それでも必要な人材を採用する。
これからの採用は、空いているポジションを人で埋める仕事から、企業がどのような組織をつくるのかを考える仕事へ変わっていくのではないでしょうか。
第1章|なぜ今、「採用」が大きく変わろうとしているのか
AIによる変化について語られるとき、多くの場合は、
「どの仕事がAIに奪われるのか」
「人間の仕事はなくなるのか」
という話になりがちです。
しかし、採用の現場から見ていると、もう少し複雑な変化が起きているように感じます。
AIによって仕事が一斉になくなるのではありません。
人が担当してきた仕事の一部がAIへ移り、一人が担当できる業務の範囲が広がり、企業が必要とする人数や能力が変わっていく。
その結果として、企業が採用する人材の条件や、採用担当者に求める役割も変化していきます。
つまり、AIが変えるのは採用の手法だけではありません。
企業が人を必要とする理由。
候補者を評価する基準。
採用担当者の仕事。
そして、組織の中で人が担う役割そのものです。
私自身、採用支援の現場で、求人票に書かれている条件をそのまま受け取るだけでは、採用がうまくいかないケースを何度も見てきました。
企業が求める条件をすべて満たす人が、採用市場にほとんど存在しない。
仮に存在していても、その人が今すぐ転職を考えているとは限らない。
採用できたとしても、企業が本当に解決したかった課題と、人材に任せる業務が一致していない。
こうした問題は、候補者をたくさん探したり、スカウトの送信数を増やしたりするだけでは解決できません。
必要なのは、
「この会社が本当に解決したい課題は何なのか」
「その課題は、新しい人を採用しなければ解決できないのか」
「採用するのであれば、どの能力を最優先にするべきなのか」
を、経営や現場と一緒に整理することです。
AIの登場によって、この問いはさらに重要になります。
人を採用する前に、AIで代替できる業務を分ける。
AIだけでは対応できない判断や対話を整理する。
その上で、人に任せる仕事を再設計する。
採用活動を始める前の段階で、ここまで考える必要が出てきています。
これからの採用担当者に必要なのは、人を採る方法だけではありません。
人を採るべきなのかを判断する力です。
第2章|世界の雇用の約4割が、AIの影響を受ける
AIによる雇用への影響は、一部のテクノロジー企業だけで起きている話ではありません。
IMFは、世界の雇用の約40%が、何らかの形でAIの影響を受ける可能性があると分析しています。
特に先進国では、その割合が約60%に達するとされています。
ただし、「AIの影響を受ける」という言葉は、すべての仕事がなくなることを意味しているわけではありません。
AIによって生産性が高まる仕事もあれば、人が担ってきた業務の一部をAIが実行することで、労働需要や採用数が減少する仕事もあります。
先進国ほどAIの影響を受ける割合が高い理由の一つは、認知的な仕事を担うホワイトカラーが多いことです。
これまでの技術革新では、機械やロボットによって代替されやすいのは、工場や物流などの肉体労働だと考えられてきました。
しかし、生成AIが対象としているのは、
文章を作成すること。
情報を調査すること。
資料を要約すること。
複数の情報を比較すること。
データを整理すること。
一定の条件から候補者を検索すること。
文章や経歴から評価材料を抽出すること。
といった、ホワイトカラーが日常的に担当してきた業務です。
国際労働機関のILOが2025年に発表した分析でも、世界の仕事のおよそ4分の1が生成AIの影響を受ける可能性があるとされています。
ただし、ILOは、仕事が完全に消滅するよりも、業務内容が変化する可能性の方が高いとしています。
特に影響が大きいのは、事務や管理などの職種です。さらに、金融や顧客対応など、業務の多くがデジタル化されている領域でもAIの影響が広がっています。
採用業務は、まさにこの影響を受ける領域と重なります。
求人票の作成。
候補者の検索。
職務経歴書の要約。
スカウト文の作成。
応募者への連絡。
面接の日程調整。
面接記録の文字起こし。
採用レポートの作成。
市場や競合企業の調査。
これらはすでに、AIによって補助・自動化できる業務になり始めています。
この変化を、単に「仕事が楽になる」と捉えるだけでは不十分です。
採用担当者一人が以前より多くのポジションや候補者を担当できるようになれば、採用チーム全体に必要な人数も変わる可能性があります。
AIによる業務効率化は、採用担当者にとって大きな機会です。
その一方で、これまでと同じ役割や人数が必要なのかを、経営側から問い直されるきっかけにもなります。
第3章|仕事はなくなるのではなく、入れ替わっていく
AIの脅威を考える際に、
「仕事がなくなるのか、なくならないのか」
という二択だけで見ると、本質を見失ってしまいます。
実際に起こるのは、仕事全体がなくなることよりも、求められる仕事とスキルの大規模な入れ替わりではないでしょうか。
世界経済フォーラムの「Future of Jobs Report 2025」では、2030年までに、現在の仕事の22%に相当する構造的な変化が起こると予測されています。
世界全体で約1億7,000万件の仕事が新しく生まれる一方、約9,200万件の仕事が失われる、または別の仕事へ置き換わると予測されています。
差し引きでは約7,800万件の雇用が増える計算です。
この数字だけを見ると、
「仕事は最終的に増えるのであれば、問題はないのではないか」
と思うかもしれません。
しかし、ここで重要なのは、失われる仕事と新しく生まれる仕事は、同じ仕事ではないということです。
職種も違います。
求められるスキルも違います。
働く場所や業界も異なる可能性があります。
現在の仕事を失う可能性がある人が、そのまま新しく生まれた仕事へ移れるとは限りません。
例えば、事務処理を正確に行う能力だけではなく、
AIへ適切な指示を出す力。
AIが出した内容を検証する力。
間違いや偏りを発見する力。
複数の情報から意思決定する力。
顧客や候補者との信頼関係をつくる力。
経営や事業の課題を理解する力。
変化に応じて新しいスキルを学ぶ力。
といった能力が、より重要になります。
世界経済フォーラムは、2030年までに、仕事で必要とされる主要スキルの39%が変化するか、現在ほど重要ではなくなると予測しています。
つまり、本当の問題は仕事の数だけではありません。
現在働いている人が、新しく必要になる仕事へ移れるのか。
企業が既存社員を育成できるのか。
採用担当者が、新しい能力を持つ人材を正しく見極められるのか。
企業が、自社に必要なスキルを言語化できるのか。
この「スキルの移行」が、これからの採用や人材戦略における大きな課題になります。
学歴や勤務先、経験年数といった従来の条件だけで候補者を見るのではなく、
何を実現したのか。
どの課題を解決したのか。
その成果は別の環境でも再現できるのか。
AIをどのように仕事へ取り入れているのか。
新しい環境で何を学べるのか。
という視点で人材を見る必要があります。
採用基準は、
「どこにいたのか」
から、
「何ができるのか」
へ。
さらに、
「今、何ができるのか」
だけではなく、
「変化の中で、何を学び続けられるのか」
へ移っていくのだと思います。
第4章|採用の増加と人員削減が、同時に起こる
AIによって、すべての企業が採用を止めるわけではありません。
むしろ、AIを活用できる人材や、AIだけでは代替できない仕事を担える人材への需要は増えていくと考えられます。
一方で、AIによって自動化しやすい仕事では、採用数や人員が減る可能性があります。
世界経済フォーラムの調査では、AIで自動化できる業務が増えることを理由に、40%の企業が人員削減を想定しているとされています。
つまり今後は、
「AIによって採用がなくなる」
のではありません。
「AIを使える人の採用が増える一方で、AIが担える仕事の採用は減る」
という二つの変化が、同時に進みます。
人手不足なのに、採用されにくい人が増える。
多くの求人がある一方で、企業が求める能力を持つ人が見つからない。
仕事を探している人はいるのに、採用したい人材がいない。
そのようなミスマッチが、今後さらに広がる可能性があります。
企業にとって重要になるのは、単純に採用人数を増やすことではありません。
どの仕事を人が担うのか。
どの仕事をAIへ任せるのか。
既存社員をどこへ配置するのか。
どのスキルを社内で育てるのか。
どの能力を持つ人材を外部から採用するのか。
正社員として採用する必要があるのか。
業務委託や外部パートナーで対応できないのか。
これらを、一つの人材戦略として設計する必要があります。
これからの採用は、採用部門だけで完結する仕事ではありません。
経営。
事業部門。
人事。
IT部門。
現場の責任者。
これらの関係者が一緒になって、
「これから、どのような組織をつくるのか」
を考える必要があります。
そして採用担当者には、その議論をつなぎ、必要な人材やスキルを具体化する役割が求められるのではないでしょうか。
第5章|採用業務は、どこからAIへ移っていくのか
採用担当者が担っている仕事のすべてが、一度にAIへ置き換わるわけではありません。
最初に影響を受けるのは、手順が比較的明確で、一定のフォーマットに落とし込みやすい業務です。
例えば、
求人票や募集文章の初稿作成。
スカウト文の作成と個別調整。
候補者の検索や条件による絞り込み。
職務経歴書やプロフィールの要約。
候補者と求人情報のマッチング。
応募者への定型連絡。
面接の日程調整。
面接記録の文字起こしと要約。
採用数値の集計やレポート作成。
競合企業や採用市場の調査。
こうした業務です。
いずれも、採用に欠かせない仕事ではあります。
しかし、何を入力し、どのような形式で出力するかが比較的明確であるため、AIと相性の良い領域でもあります。
私自身も日々の採用支援において、企業や業界の調査、求人情報の整理、候補者情報の要約、スカウト文の下書き、面談内容の整理などにAIを活用しています。
以前であれば数時間かかっていた情報収集や文章作成が、短い時間で進められるようになりました。
これは、採用担当者にとって大きなメリットです。
これまで事務作業や情報整理に使っていた時間を、企業や候補者との対話に振り分けることができるからです。
一方で、経営側から見ると、別の意味も持ちます。
一人の採用担当者が、以前より多くのポジションや候補者を担当できるようになる。
同じ採用活動を、より少ない人員で運営できる可能性が生まれる。
採用チームに必要な人数や役割を、改めて見直すきっかけになるということです。
求人を受け取る。
検索条件を設定する。
候補者を探す。
テンプレートを使ってスカウトを送る。
日程を調整する。
数値を集計する。
こうしたオペレーションだけを中心にしている役割は、今後、特に大きな影響を受ける可能性があります。
ただし、これは採用担当者の仕事がなくなるという話ではありません。
採用担当者に求められる仕事の重心が変わるということです。
AIが情報の収集や整理を担うようになれば、人には、
何を調べるべきかを決めること。
出てきた情報が正しいかを確認すること。
企業の状況に合わせて意味づけすること。
複数の選択肢から、何を選ぶかを判断すること。
が求められます。
AIが「情報の処理」を担い、人が「意味づけと意思決定」を担う。
この役割分担が、これからの採用業務の基本になっていくのではないでしょうか。
第6章|採用担当者がいなくなるのではなく、「中間業務」が薄くなる
今後、採用担当者という職種が完全になくなるとは考えていません。
むしろ起こるのは、企業と候補者の間に存在していた中間的な業務が、AIによって圧縮されることだと思います。
これまで、一つのポジションを採用するためには、
求人内容を整理する人。
候補者を検索する人。
スカウトを送る人。
応募者へ連絡する人。
日程を調整する人。
面接情報を管理する人。
レポートを作成する人。
と、複数の役割が必要でした。
これからは、一人の採用担当者がAIを活用しながら、これらの業務をまとめて担当できるようになります。
その結果、採用チームは少人数化する可能性があります。
一方で、一人ひとりの採用担当者に求められる能力は、これまで以上に高くなります。
単に求人を受け取り、候補者を探すのではありません。
なぜ、このポジションが必要なのか。
この人を採用することで、事業はどのように変わるのか。
候補者が持つ経験は、自社でも再現できるのか。
要件に合う人が採用市場にいない場合、何を変えるべきなのか。
採用ではなく、育成や配置転換で解決できないのか。
そもそも、その業務は人が担当する必要があるのか。
こうした問いを、経営や現場と一緒に考える必要があります。
これまで採用担当者の価値は、
何人の候補者を探したか。
何通のスカウトを送ったか。
何人を面接へ進めたか。
何人を採用したか。
といった数字で評価されることが多くありました。
もちろん、採用活動を管理する上では、こうした数字も重要です。
しかし、AIによって検索や文章作成、日程調整が効率化されれば、作業量だけでは採用担当者の価値を測れなくなります。
今後、より重視されるのは、
本当に必要なポジションを定義できたか。
採用できる現実的な要件へ調整できたか。
候補者と企業の双方が納得できる意思決定を支援できたか。
採用した人が入社後に活躍したか。
組織や事業にどのような変化を生み出したか。
という成果です。
採用担当者の価値は、作業量から判断の質へ。
採用人数から、組織へ生み出した価値へ。
そのように移っていくのではないでしょうか。
第7章|エグゼクティブサーチにも、AIの波は確実に来る
私が携わっているエグゼクティブサーチも、AIの影響を受けない領域ではありません。
候補者のロングリストを作る。
対象となる企業を洗い出す。
業界構造を調査する。
候補者の経歴や実績を整理する。
複数の候補者を比較する。
こうした業務は、AIによって大幅に高速化できます。
これまで数日かけていた市場調査や情報整理が、数時間、場合によってはさらに短い時間で進められるようになる可能性があります。
候補者を「見つけること」だけを価値としているサーチ業務は、今後、AIとの競争になるかもしれません。
しかし、AIが候補者を発見できたとしても、その人が転職するとは限りません。
特に、経営層や高度な専門性を持つ人材ほど、求人票やスカウト文を送るだけでは動きません。
現在の会社で一定の立場や待遇を得ている人。
すぐに転職する必要がない人。
採用市場に積極的に出てきていない人。
そうした候補者に、新しい機会を検討してもらうためには、単なる情報提供以上のものが必要です。
なぜ今、その企業へ移る意味があるのか。
そのポジションが、本人のキャリアとどうつながるのか。
企業は、その人に本当は何を期待しているのか。
転職することで、何を失い、何を得るのか。
候補者自身も言葉にできていない不安は何か。
新しい会社で、どのような未来を描けるのか。
こうしたことを対話によって整理し、企業と候補者の双方が納得できる意思決定へつなげる部分には、人の介在が必要です。
私自身、エグゼクティブサーチに携わる中で、候補者の経歴が求人要件に合っているだけでは、採用は決まらないと感じてきました。
企業側の期待。
候補者側の価値観。
転職するタイミング。
家族や生活への影響。
今後のキャリア。
こうした複数の要素が重なって、初めて転職という意思決定が生まれます。
AIは、候補者を探すことや情報を整理することはできます。
しかし、その機会が本人にとってどのような意味を持つのかを一緒に考え、迷いや不安を整理し、意思決定を支援することは、単純なマッチングだけでは完結しません。
これからのエグゼクティブサーチでは、
候補者を見つける力。
候補者を理解する力。
候補者へ機会の意味を伝える力。
企業の本音と候補者の本音をつなぐ力。
双方の意思決定を支援する力。
これらの価値が、より高くなるのではないかと考えています。
AIによって候補者を探すコストが下がるほど、候補者を動かし、信頼関係をつくる力の価値は、むしろ高まっていくのかもしれません。
第8章|RPOは「採用業務の代行」から「組織設計の支援」へ
RPOについても、役割は大きく変わっていくと思います。
これまでRPOは、企業の採用担当者が不足している際に、
スカウトを送る。
候補者を管理する。
面接を調整する。
採用数値を報告する。
といった業務を代行する役割として捉えられることが多くありました。
もちろん、採用活動を安定して運営するためには、こうしたオペレーションも欠かせません。
しかし、オペレーションだけを提供するRPOであれば、AIや採用管理システムによる自動化の影響を強く受けます。
今後のRPOに求められるのは、企業から依頼された業務を正確に処理することだけではありません。
事業計画から、必要な採用人数を考える。
採用市場の状況に合わせて、人材要件を見直す。
正社員、業務委託、社内異動、育成、AI導入を比較する。
現場責任者と、採用要件の優先順位を整理する。
採用できない原因が、母集団不足なのか、条件なのか、選考なのか、認知なのかを分析する。
採用後の活躍まで見ながら、次の採用を改善する。
そうした、企業の採用機能そのものを設計する役割へ変わっていく必要があります。
私自身も、RPOとして企業へ入る中で、提示された採用要件をそのまま受け取るだけではなく、
「本当に、この条件をすべて満たす必要があるのか」
「採用市場に、その人材はどのくらいいるのか」
「一人にすべてを求めず、業務を分けた方がよいのではないか」
「採用以外の方法で解決できないか」
「採用後に、その人が成果を出せる環境は整っているのか」
というところまで考える場面が増えています。
例えば、採用がうまくいかないとき、すぐに母集団を増やすという判断が正しいとは限りません。
求人要件が厳しすぎる可能性があります。
提示している条件が、採用市場と合っていない可能性があります。
選考期間が長く、候補者を逃している可能性もあります。
企業や仕事の魅力が、候補者へ正しく伝わっていないこともあります。
現場と人事の間で、求める人物像が一致していないケースもあります。
こうした問題を整理しないまま、スカウトの送信数だけを増やしても、根本的な解決にはなりません。
これからのRPOは、採用作業を代行する存在ではなく、
採用できない理由を分析する存在。
企業の人材要件を再設計する存在。
経営と現場、人事をつなぐ存在。
人材戦略を現場で実装する存在。
へ変わっていく必要があるのではないでしょうか。
RPOの価値もまた、業務量から、企業の採用機能や組織へどのような変化を生み出したかへ移っていくと思います。
第9章|候補者側もAIを使う時代に、何を見て採用するのか
AIを活用するのは、企業や採用担当者だけではありません。
候補者もAIを利用して、
履歴書を作成する。
職務経歴書を読みやすくする。
求人ごとに志望動機を作り分ける。
面接の想定質問を作る。
回答内容を整理する。
自分の経歴に合いそうな求人へ応募する。
といったことができるようになりました。
これは、候補者にとって必ずしも悪い変化ではありません。
文章を書くことが苦手な人でも、自分の経験を整理して伝えられるようになります。
過去の経験を客観的に振り返り、自分の強みを言語化するためにもAIを活用できます。
外国語での応募や面接準備も行いやすくなります。
一方で、企業にとっては、応募書類の完成度だけで本人の能力を判断することが難しくなります。
文章が整っていることと、仕事ができることは同じではありません。
一般的な面接質問に上手に答えられることと、実際の職場で成果を出せることも同じではありません。
候補者の書類や面接回答が、AIによって一定の水準まで整えられるのであれば、企業はその先を見なければなりません。
何を担当していたのか。
どのような課題があったのか。
その中で、本人は何を考えたのか。
どのような選択肢があり、なぜその判断をしたのか。
成果のうち、本人が担った部分はどこなのか。
別の環境でも、その成果を再現できるのか。
うまくいかなかった経験から、何を学んだのか。
こうした部分を、具体的に確認する必要があります。
今後は、
実際の業務に近いワークサンプル。
過去の成果を深掘りする構造化面接。
その場で考え方を確認するケース面接。
成果物やポートフォリオ。
リファレンスチェック。
本人確認。
AIをどのように使用したかの確認。
などが、より重要になると考えられます。
ただし、候補者のAI利用を一律に禁止することが、最善とは限りません。
実際の仕事でもAIを使うのであれば、選考でAIを使えること自体は、仕事に必要な能力の一つになる可能性があります。
大切なのは、
「AIを使ったか、使っていないか」
だけではありません。
「AIを使って、何を作ったのか」
だけでもありません。
AIが出した内容に対して、本人が何を考え、どのように検証し、何を判断したのか。
そのプロセスを見ることです。
これからの採用では、完成された回答だけではなく、そこへ至る思考の過程や、本人の判断基準を確認することが必要になります。
また、企業側もAIを使って候補者を評価するのであれば、その結果を無条件に信じるべきではありません。
過去の採用データに偏りがあれば、AIがその偏りを再現する可能性があります。
特定の経歴や言葉を過度に評価し、本来見るべき能力を見落とす可能性もあります。
AIが出した候補者の順位や評価を、そのまま合否に使うのではなく、
なぜ、その評価になったのか。
評価基準は、自社の採用目的と合っているのか。
候補者に不当な不利益が生じていないか。
最終的に、人が責任を持って判断しているか。
を確認する必要があります。
候補者側も企業側もAIを使う時代だからこそ、採用に必要なのは、AIを排除することではありません。
AIを使いながらも、人の能力や可能性をどのように正しく見極めるか。
その選考設計が、これまで以上に重要になるのだと思います。
第10章|日本はアメリカと同じ道をたどるのか
日本の採用市場が、アメリカとまったく同じ形で変化するとは限りません。
アメリカでは、職務内容を明確にした採用や、職種ごとの労働移動が日本より進んでいます。
企業が事業環境に合わせて、人員構成を変える速度も、日本より速い傾向があります。
一方、日本には、
長期雇用。
社内育成。
配置転換。
新卒一括採用。
職務を限定しない総合職採用。
といった、独自の仕組みがあります。
そのため、日本ではAIによって人を一気に置き換えるというよりも、まずは人とAIを組み合わせながら、一人当たりが担当する業務の範囲を広げていく方向へ進む可能性が高いと思います。
最初に進むのは、採用業務の一部をAIで効率化することです。
求人票の作成。
スカウト文の下書き。
候補者検索。
面接記録の要約。
日程調整。
採用レポートの作成。
こうした業務から、AIの活用が広がっていくでしょう。
その次に起こるのは、採用担当者一人当たりの担当範囲が広がることです。
これまで複数人で分担していた業務を、一人の採用担当者がAIを使いながらまとめて担当するようになる。
採用オペレーションだけを専門にする役割は減り、採用戦略、採用広報、候補者対応、現場との要件調整まで、一人が担う範囲が広がっていく可能性があります。
さらにその先では、採用だけではなく、
社内人材の配置。
社員の育成。
スキル情報の管理。
入社後の活躍。
離職や定着。
といった領域まで、採用担当者が関わるようになるかもしれません。
つまり、日本では採用担当者が急にいなくなるのではなく、役割が統合され、仕事の範囲と責任が広がっていくと考えられます。
例えば、
これまで5人で担当していた採用業務を、AIを使いながら3人で運営する。
採用だけを担当していた人が、配置や育成まで担当する。
候補者を探す人から、事業に必要な人材を設計する人へ変わる。
そうした変化です。
採用担当者の人数がすぐに減らなかったとしても、仕事の内容は確実に変わります。
日本はアメリカの変化をそのまま追いかけるのではなく、
AIによる効率化。
日本企業が持つ育成文化。
社内異動や配置転換。
長期的な人材育成。
これらを組み合わせた独自の形へ進んでいくのではないでしょうか。
第11章|採用人数ではなく、「入社後に生み出した価値」を見る
これまで採用部門では、
何人採用したか。
採用単価はいくらだったか。
採用までに何日かかったか。
何通のスカウトを送ったか。
何人が応募したか。
といった数字が、成果として重視されてきました。
もちろん、採用活動を管理するためには、こうした数字も必要です。
しかし、AIによって候補者検索や文章作成、応募者対応が効率化されれば、作業量だけでは採用担当者の価値を測れなくなります。
採用の本当の成果は、候補者が入社した時点では、まだ分かりません。
入社後に、期待していた成果を出したのか。
必要としていたスキルを発揮できたのか。
新しい組織に定着したのか。
周囲の生産性を高めたのか。
採用前に想定していた事業課題を解決できたのか。
将来のリーダー候補として成長しているのか。
こうした結果まで見て、初めて採用が成功したかを判断できます。
しかし、多くの企業では、採用と入社後の評価が十分につながっていません。
採用担当者は、候補者が入社した時点で担当を終える。
入社後の評価は、現場や人事が別に行う。
育成や配置の情報も、別のシステムや部署で管理される。
その結果、
どのような採用基準が、入社後の活躍につながったのか。
面接で評価した能力が、実際の仕事でも発揮されたのか。
どの採用チャネルから入社した人が、定着・活躍しているのか。
採用要件が、本当に事業課題と合っていたのか。
を十分に検証できないことがあります。
これからは、
採用。
配置。
評価。
育成。
定着。
これらのデータをつなぎ、採用した人材が企業へどのような価値を生み出したのかを見る必要があります。
採用担当者の評価も、
「何人を採用したか」
から、
「どのような人材を採用し、その人が入社後にどのような価値を生み出したか」
へ移っていくのではないでしょうか。
採用スピードや採用単価だけを追うのではなく、入社後の成果まで見る。
それによって、次の採用要件や選考方法を改善する。
採用を一度きりの活動ではなく、組織づくりの循環として考えることが重要になります。
第12章|これから価値が高まる採用担当者とは
AI時代に価値が高まるのは、候補者をたくさん検索できる採用担当者だけではありません。
経営や事業の課題を理解できる人。
事業課題を、必要な人材やスキルへ変換できる人。
業務を分解し、人が担う部分とAIへ任せる部分を整理できる人。
採用市場を分析し、現実的な人材要件を設計できる人。
現場が求める条件に対して、必要であれば修正を提案できる人。
候補者の経歴から、成果の再現性を見極められる人。
候補者との信頼関係をつくれる人。
転職に伴う不安や葛藤を理解できる人。
企業と候補者の双方へ、難しいことも誠実に伝えられる人。
AIが出した情報や評価を、そのまま信じずに検証できる人。
入社後の活躍まで見ながら、次の採用を改善できる人。
こうした人材です。
これまで採用担当者は、
採用業務を正確に処理する人。
候補者を探し、採用する人。
という役割で見られることが多くありました。
しかし、これからは、
採用市場を踏まえて企業と候補者へ助言する人。
事業戦略から人材戦略を考える人。
人とAIの役割を組み合わせ、組織を設計する人。
へ変わっていくのではないでしょうか。
採用担当者の価値は、作業量から判断の質へ。
採用人数から、組織へ生み出した価値へ。
そのように変わっていくと思います。
そのためには、採用担当者自身も学び続ける必要があります。
AIを使う力。
データを読む力。
事業を理解する力。
経営や現場と議論する力。
人材市場を分析する力。
候補者の意思決定を支援する力。
こうした能力を、組み合わせていく必要があります。
採用担当者がAIと競うのではありません。
AIを活用しながら、人にしかできない判断や対話へ時間を使う。
その役割転換ができるかどうかが、今後の大きな分かれ目になるのではないでしょうか。
第13章|私自身も、AIを使いながら変わっていきたい
私自身も、日々の業務でAIを活用しています。
企業や業界の情報収集。
採用市場の整理。
求人票やスカウト文の下書き。
候補者情報の整理。
面談記録の要約。
採用レポートの作成。
こうした業務にAIを使うことで、以前よりも短い時間で情報を整理できるようになりました。
その結果、企業や候補者との対話へ、より多くの時間を使えるようになっています。
一方で、AIを使えば使うほど、採用における人間の価値は、作業量ではなく判断の質にあると感じます。
AIは、情報を集めることができます。
文章を作ることができます。
複数の候補者を比較することもできます。
しかし、
企業が本当に抱えている課題は何か。
候補者が転職を迷っている理由は何か。
その人にとって、その転職がどのような意味を持つのか。
企業と候補者の間にある認識の違いは何か。
何を優先し、何を諦めるべきなのか。
といったことは、単純な情報処理だけでは決められません。
企業との対話。
現場との要件設計。
候補者のキャリアについての対話。
転職することの意味を一緒に考えること。
企業と候補者の双方が納得できる意思決定を支援すること。
こうした部分へ、より多くの時間を使っていきたいと思っています。
これは、これからのエグゼクティブサーチやRPOにおいても、大切な価値になるはずです。
候補者をどれだけ多く探したかではなく、
企業と候補者の双方にとって、本当に意味のある採用を実現できたか。
そこを追求していきたいと考えています。
第14章|AI時代における、本当の脅威とは
AI時代の脅威は、採用担当者が、ある日突然すべていなくなることではありません。
本当の脅威は、採用の仕事が変わっているにもかかわらず、これまでと同じ仕事を続けることではないでしょうか。
候補者を検索するだけ。
テンプレートのスカウトを送るだけ。
応募者を選考の次の段階へ流すだけ。
日程を調整するだけ。
採用人数だけを成果として追うだけ。
こうした業務は、今後AIとの競争になります。
AIより速く候補者を検索する。
AIより多く文章を書く。
AIより短い時間で情報を整理する。
その競争で、人が勝ち続けることは難しいと思います。
一方で、
なぜ、この人を採用するのか。
そもそも、人を採用する必要があるのか。
その人が入社することで、企業はどのように変わるのか。
その転職は、候補者本人の人生にとって良い選択なのか。
人とAIをどのように組み合わせれば、より良い組織になるのか。
こうした問いには、単純な情報処理だけでは答えられません。
だからこそ、採用担当者はAIと作業量を競うのではなく、AIを使いながら、より経営や人の意思決定に近い仕事へ移る必要があるのだと思います。
AIが仕事を奪うかどうかだけを考えるのではなく、
AIによって自分の仕事のどの部分が変わるのか。
AIへ任せた後に、自分はどのような価値を提供するのか。
その問いに向き合うことが重要です。
AI時代の本当の脅威は、AIそのものではありません。
変化を理解せず、これまでのやり方だけを続けることなのかもしれません。
最後に|AIは、採用に関わる私たちへ何を問いかけているのか
AIが変えるのは、採用業務だけではありません。
企業が人を採用する理由。
候補者を評価する基準。
採用担当者に求められる役割。
そして、組織の中で人が担う仕事そのものも、これから変わっていきます。
ただし、すべての企業や業界が、同じ速度で変わるわけではありません。
企業規模や業界、職種、組織文化によって、変化の形も速度も異なるはずです。
私自身は、これからの採用担当者には、人を多く採る力だけではなく、
どの業務をAIへ任せ、どこに人が関わるべきか。
そもそも、本当に人を採用する必要があるのか。
企業と候補者の双方にとって、本当に必要な採用とは何か。
を考え、経営や現場と一緒に組織を設計する力が求められると考えています。
一方で、ここまで書いてきた内容は、現在のグローバルなデータと、私自身がエグゼクティブサーチやRPOの現場で感じている変化を重ねた、一つの見方です。
実際に採用の現場に立っている皆さんは、今後の採用業務はどのように変わっていくと思いますか。
現在担当されている業務の中で、AIに置き換わると思うものはどこでしょうか。
反対に、これからも人が担い続けるべき仕事は、どこにあると思いますか。
また、これからの採用担当者や人材業界で働く人には、どのような経験や能力が求められると思いますか。
エグゼクティブサーチ。
RPO。
人材紹介。
企業人事。
採用責任者。
経営者。
それぞれの立場によって、見えている変化は異なると思います。
皆さんの現場ですでに起きている変化や、これからの採用について感じていることを、ぜひ聞かせていただけたらと思います。