「ね、横浜のマリーナから手紙が来ているんだけど・・」
麻美子は、夕食の洗い物を終えて、リビングに戻ってくると、そこで両親と休んでいた隆に声をかけた。
「何の手紙が来ているの?」
「クリスマスパーティーの招待状だって」
麻美子は、手紙の内容を隆に伝えた。
「ああ、忘年会か」
「忘年会じゃないって、クリスマスパーティーだって」
「名称はクリスマスパーティーなんだけど、皆は忘年会って呼んでる人の方が多い」
隆は、麻美子に答えた。
「どうするの、隆は参加するの?参加費がけっこう高いけど」
「会場がマリーナじゃないからね。ホテルの宴会場を借り切ってやるからね」
「そうなんだ。会場のホテルって、横浜のマリーナからけっこう近いところ?」
「ホテルニューグランド」
隆は、麻美子に答えた。
「え、ニューグランド?あの山下公園の前に建っているホテルのこと」
「そうだよ」
「あそこでやるんだ。私、行ってみたいな」
「行けば良いじゃん」
隆は、麻美子に答えた。
「行ってもいいの?」
「どうぞ」
「隆は行かないの?」
「麻美子が行くのなら、別に一緒に行ってもいいよ」
隆は、答えた。
「うちの他の子たちも行くかな?」
「うちの他の子って?」
「生徒たち、じゃなくてクルーの子たち」
麻美子は、一瞬ラッコのメンバーのことを生徒と呼んでしまって、慌ててクルーと言い直していた。卒業式をやった保田のクルージングから戻って来て、もう2週間ぐらい過ぎていた。
「行くって言うかもしれないね」
「あ、でも、参加費が高すぎるか」
「そんなでも無いんじゃない、横浜の老舗ホテルの貸し切りパーティーだぜ」
「それはそうなんだけど」
確かに、会場を考えたら隆の言う通り妥当な値段かもしれなかったが。
「香代ちゃんとか、瑠璃ちゃんだと負担が大きくなちゃわないかな」
「じゃ、経費で落としちゃえば・・」
隆が、麻美子に言った。
「経費?」
麻美子は、隆に聞き返した。
「経費って、何の経費よ。香代ちゃんも瑠璃ちゃんも、うちの会社の社員じゃないんだけど。会社のお金をそんな使い方できないわよ」
会社の社長秘書兼経理担当の麻美子は、隆に反論した。
「会社の経費が難しければ、うちで出しちゃえば」
「え、いいの?」
「いや、やり繰りは、全部そっちに任せてるから、予算的にどうなのかはわからないけど、なんとかなるなら、うちで皆の分を出しちゃえば良いんじゃないの」
「香代ちゃんと瑠璃ちゃんだけ?」
麻美子は、2人分だけ出して、他の人のは出さなかったらかわいそうじゃないと思っていた。
「2人分出すなら、皆の分出しちゃっても同じじゃないの。クルーの分も皆、オーナー負担にしているヨットって他のところでも割と多いよ」
隆は、麻美子に答えた。
「そうなんだ」
麻美子は、しばらく考えてから、
「それじゃ、そうしようか」
隆に答えた。
「まずは、皆が参加できるか、参加したいかを聞かなくちゃね」
主な著作「クルージングヨット教室物語」「プリンセスゆみの世界巡航記」「ニューヨーク恋物語」など