クルージングヨット教室物語116
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「続いては、クルージングヨット教室の卒業式に移ります」
司会が会場の皆に言うと、ビンゴ大会が終わって、いよいよ今期のクルージングヨット教室の卒業式が始まった。
「今回も、事故もなく皆さん無事にクルージングヨット教室を卒業できることをお喜び申し上げます」
司会に再度呼ばれて、横浜のマリーナ理事長が前で生徒たちに挨拶していた。
「皆さんが配属されたヨットのオーナーさんから卒業OKですという連絡を受けて、事務の方で作成された卒業証書が、こちらに届いています。お名前をお呼びしますから、取りに出てきてください」
理事長が、卒業証書に書かれている名前を1人ずつ呼び始めた。
「卒業証書って、オーナーさんから卒業OKって提出してもらえた生徒さんしかもらえないんだ」
「本当に、卒業NGって人は作成してもらえないんだね」
以前に、舫い結びができずアンドサンクに注意されていたことがある雪が呟いた。
「うちは、全員大丈夫よね」
「大丈夫に決まっているじゃないの。皆、卒業できますよ」
心配そうに呟いた陽子に、麻美子が大丈夫と太鼓判を打っていた。
「いや、わからないよ。口では大丈夫と言いながらも、こいつは、まだ卒業は難しいだろうって人には卒業NGを出しているかもしれないよ」
隆は、イタズラっぽく笑いながら、陽子に答えた。
「人間の考えていることってわからないからね」
「そうだよね」
雪は、隆に返事した。
「じゃ、私も卒業NGかもしれない」
「いや、陽子ちゃんが隆さんから卒業NGをもらっていたら、私人間不信になるよ」
いつも仲良くお喋りしている陽子と隆を見て、瑠璃子が答えた。
「永田瑠璃子」
前で、瑠璃子の名前が呼ばれた。
「はい!」
ピンクのワンピースの裾を揺らしながら、瑠璃子が立ち上がると前方に出て行った。
「卒業証書、永田瑠璃子さん、以下同文・・」
瑠璃子は、理事長から卒業証書を受け取っていた。
「もらったよ!」
理事長からもらった卒業証書を皆に見せながら、瑠璃子が席に戻ってきた。麻美子は、皆が卒業証書をもらっているところを必死でカメラで撮影していた。
「あれ、皆もらえた?雪ももらえた?」
「もらえたよ」
雪は、自分の卒業証書を隆に見せながら、返事した。
「よかったね、皆そろって卒業できたんだね」
ラッコの皆は、漁港の建物の前に並ぶと、まるでハリーポッターの映画のように、もらったクルージングヨット教室の卒業証書を空中高く投げながら、写真を撮っていた。
「これで、横浜のマリーナのクルージングヨット教室の今期の全行程は無事終わりで、また来年の春になったら、新しい生徒さんが受講しにやって来る感じ」
「そしたら、どうなるの?」
「香織も、クルージングヨット教室の先輩になるんだよ」
隆は、香織に答えた。
「そうか、来年からは皆、先輩になるのか」
主な著作「クルージングヨット教室物語」「プリンセスゆみの世界巡航記」「ニューヨーク恋物語」など