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クルージングヨット教室物語51

Photo by Buddy Photo on Unsplash

「なんかスピードが落ちていないか」

隆は、ラットを握っている香代に言った。

「セイルトリムが風に合っていないんじゃないか」

「どういう風に設定したら良いかな?」

隆の言葉で、ジブのウインチにジブシートとウインチハンドルを準備してから、後ろで舵を取っている香代の方を振り向いて、麻美子と雪が聞いた。

「セイルっていうか、船がなんか後ろに引っ張られているみたいな感じなんだけど」

香代は、2人に答えた。

「ジブセイルを少し出してみる?」

陽子が、ジブのウインチの側に寄って、香代に聞いた。

「おおっ!」

船の後ろを眺めていた隆が大声で叫んだ。

その声に、皆が後ろを振り向いた瞬間、また大きな魚が海上から浮かび上がって水面で跳ねた。

「重たい・・」

トローリングの糸を操作していた瑠璃子は、必死に糸を巻こうとしていた。

「釣れたんだ!」

瑠璃子は、重たい糸を引いたり出したりするのに必死で、周りの人の声など聞こえていなかった。

「大丈夫?」

陽子が、瑠璃子の側に来て、何か手伝おうとしたが、基本的に瑠璃子が1人で糸を操作しているので、デッキ上に散らかった糸の整理ぐらいしか手伝えることが無かった。

それでも、少しずつ糸が回収されてきて、魚は船に近づいてきていた。

「タモを持ってこよう」

隆は、キャビンの中に入ると、長い竿の付いたタモを持って出てきた。

「デッキが高くて、持ち上げるのが大変!」

瑠璃子は、釣り上げた魚をデッキに上げようと必死になっていた。隆がタモを魚に近づけて、タモの中に入れようとしたが、魚が大きすぎてタモの中に入り切らなかった。

「このまま、釣り上げるしかないな」

尻尾の方だけタモの中に入れると、糸を持っている瑠璃子とタイミングを合わせ一緒に、デッキ上に持ち上げた。ようやく魚がデッキ上に上がった。

銀色が、緑色と黄色に光り輝いている四角い顔をした魚だった。

「シイラだな」

隆は、魚の姿を見て言った。

「これ、シイラなんだ」

父のサンフランシスコ支店に行った時に、父と行ったホテルのレストランで食べた白身の魚の味をもいだしながら、麻美子が答えた。

「シイラって高級魚よね」

雪も、デッキ上に上げられた魚を眺めながら答えた。

「サンフランシスコで食べたシイラもかなり高級ホテルのレストランだった」

「美味しいの?」

「いや、それほどでもない・・」

隆が呟くのと、ほとんど同時に、

「あっさりしていて美味しかったよ」

と、麻美子が瑠璃子に答えた。

「それは、たぶんシェフの料理の腕が良かったんだよ」

「このお魚どうするの?」

「もうお亡くなりになられているし、リリースも出来ないから美味しく頂きましょう」

隆が、香代に言った。

「それじゃ、血抜きをしなきゃね」

「魚の血抜きなんてしたこともないよ」

隆が麻美子に言ったので、仕方なく麻美子自身でギャレーから出刃包丁を持ってくると、デッキ上でシイラの血抜き作業を始めた。釣った本人の瑠璃子も、麻美子のことを手伝っていた。

「まず血抜きして、血が抜けたら、部位ごとに解体して冷蔵庫に入れておきましょう」

麻美子は、瑠璃子と話していた。

「これだけデカい魚だったら、今夜はお買い物に行かなくても、夕食の量は十分ね」

麻美子は、解体作業しながら話していた。


作家プロフィール

主な著作「クルージングヨット教室物語」「プリンセスゆみの世界巡航記」「ニューヨーク恋物語」など

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