クルージングヨット教室物語50
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「陽子、釣りでもしようか」
朝ごはんを食べ終わった隆は、横に腰掛けている陽子に声をかけた。
「釣り?」
「うん。釣りしてみよう」
隆は、陽子と一緒にキャビンの中に入ると、パイロットハウスの床板を開けると、床下にしまってあった釣り道具を取り出した。
「これ、どうやって使うの?」
「飛行機っていうトローリング用の釣り竿さ」
隆が取り出した釣り道具は、いわゆる釣り竿と餌や浮きではなく、赤いおもちゃの飛行機が長い釣り糸にぶら下がっているものだった。
「これを、こうやって船の船尾から流すんだよ」
隆は、陽子にトローリングのやり方を説明していた。
「え、何それ?どうやって釣るの?」
隆と陽子がやっているトローリングに興味を持って、近づいてきたのは、瑠璃子だった。陽子と瑠璃子は、隆から教わったトローリングの釣り方をいろいろ糸を引いたり出したり工夫していた。
「あれ、風が吹いてきているじゃん。いつまでも、機帆走で走っていなくても、風が吹いてきたらジブセイルも出して、セーリングで走っていいんだぞ」
隆は、ラットを握っている香代に言った。
「そんなこと言われても、まだ風が吹いてきているのかいないのかなんてわからないよね」
麻美子が、香代に言った。
「ジブセイルは出したかったんだけど、いま私はラットを握っていたから出せなかったの」
「そういう時は、こっちにヒマそうに乗っている麻美子と雪がいるんだから、2人に言って、ジブセイルを出してもらえば良いんだよ」
隆が、香代に助言した。
そう言うと、隆は、自分でジブセイルのファーリングロープを緩めてから、麻美子と雪にジブシートを引っ張るように指示を出した。麻美子と雪がジブシートを引いた。
「すごい走り出した!」
ラッコは、ジブセイルを出した途端、風を受けてかなりの艇速を上げて、風で走り始めていた。
「エンジンカット!」
隆は、エンジンを停止して、ラッコは風の力だけで走り始めていた。
「香代ちゃんって、隆に言われる前に、風が吹き始めていたこと気づいていたの?」
香代は、麻美子に頷いた。
「私、風が吹き始めたなんて、ぜんぜん気づかなかったよ」
「もう麻美子なんかよりも、香代の方がセーリングのテクニックわかってきているよ」
隆は、麻美子に言った。
「香代ちゃんの方が、私よりもヨット上手だね」
麻美子は、香代の頭を優しく撫でてあげていた。
船尾では、さっき覚えたばかりのトローリングの糸を引いたり出したりして、瑠璃子と陽子が夢中になって釣りに精を出していた。
「たぶん、もう今は魚なんて釣れないよ」
隆は、2人に言った。
「どうして?」
「ヨットのスピードが速すぎるから」
隆は、2人に説明した。
「このスピードで走っていたら、魚が食いつきたくても、糸が早すぎて、魚が追いつかないもの」
「そうなんだ」
陽子は、隆に言われて釣るのを諦めたが、瑠璃子はまだ夢中になって釣りを続けていた。