クルージングヨット教室物語49
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「隆くん、今日だけど、式根ではなく三宅島に行かないか」
散歩から戻ってきた隆に、アクエリアスの中村さんが提案していた。朝、起きたときに麻美子から聞いた話と同じ内容だった。
「良いですが、今からだと、三宅までここからでもけっこう距離ありますけど」
「でも、夕方の日が沈むまでには到着できるでしょう」
「そうですね、確かに式根に渡るよりは、三宅に行く方が船の数も空いていそうですけどね」
隆は、周りの皆の顔を眺めた。
「空いている方が良いじゃない」
「香代ちゃんも空いている方が良いって言ってるわ」
陽子と麻美子が、隆に伝えた。
昨日の新島の原宿みたいな様相に少しうんざりしているようだった。
「少し遠いけど、三宅島まで移動してみるか」
隆の言葉に、皆は賛成した。
「それじゃ、急いで出港準備をしよう!」
朝ごはんは、海に出てから海上で食べることになった。
新島港を出港して、沖合いでメインセイルとミズンセイルを上げると、機帆走で新島と式根島の間の狭い海域を通り抜けて、三宅島を目指す。
ギャレーで朝ごはんを作り終わった麻美子と香代、瑠璃子がお盆にのせた朝ごはんを持って、デッキに出てきた。デッキのテーブルに並べられた朝ごはんを皆で頂いていた。
「うちのヨットって、誰もヨットで船酔いする人がいないんだな」
隆は、元気に朝ごはんを食べているクルーたちを眺めて呟いた。
「私、ヨットに乗る前はけっこう船酔いするかもって思っていたんだけど、乗ってみたら、ぜんぜん船酔いのふの字もしなかったから自分でも驚いた」
陽子が、隆に返事した。
「私も、ぜんぜん船酔いらしきものになったことない」
瑠璃子も隆に答えた。
「みんな強いのね、私たまになんか船酔いするよ」
麻美子は、皆に伝えた。
「でも、麻美子も船酔いしてもう動けないってほどにはなったことないよね」
「そこまでは、さすがに船酔いしたことないけどね」
麻美子は、隆に伝えた。
「皆が船酔いに強いってのは船長としても助かってるよ」
隆は言った。
「誰か1人に船酔いされて、デッキ上でマグロになっていられると、その介抱するだけで、介抱される側もそれなりに疲れちゃうからね」
「それはあるかもね」
陽子は、隆に返事した。
「ラットを代わるよ」
朝ごはんを食べ終わった香代は、ラットを握っている隆のところへやって来て声をかけた。
「もう食べ終わったのか、それじゃ代わってもらおうかな」
隆は、ラットを香代に手渡した。
ラットから解放されたので、隆も皆と朝ごはんを食べ始めた。