クルージングヨット教室物語43
Photo by Buddy Photo on Unsplash
「おはよう」
4時のウォッチ交代で瑠璃子と陽子が起きてきた。
「香代ちゃん、ラットを代わろうか」
陽子が、ラットの側まで寄って、香代に声をかけた。
「まだ、大丈夫だよ」
香代は、ラットを握ったまま、陽子に答えた。
「まだ大丈夫なんだ、じゃ、もう少しお願いしようかな」
「でも、香代ちゃんって出航してからずっと握ってない」
瑠璃子が香代に言った。
「香代、中で一緒に寝よう。少し寝ないと疲れちゃうよ」
隆が、香代に言った。
「ヨットの中で寝るのだって楽しいだろう。クルージングに出た時でないと、ヨットのキャビンの中で寝れることなんて無いだろう」
香代は、隆に言われて頷いて、陽子にラットを代わってもらった。
「私も、何もしていないけど眠くなってきた」
雪が、隆に言った。
「何もしていないから眠くなってきたのかもしれないぞ」
「確かに、それは言える」
雪が欠伸をしながら、隆に答えた。
「俺も、何もしていないから少し眠くなってきているもの」
雪は、先にキャビンに入ると、いつも自分が寝ているフォアキャビンのバースに横になった。
「2人いれば大丈夫だろう。もう東京湾内の狭い海域はとっくに出てしまっているし」
ラッコは、観音崎を越え、三浦半島の先っぽ、剣崎の灯台も既に越えていた。
「大島の外側を通って、新島に向かおう」
隆は、GPS航海計器のモニターを眺めながら、瑠璃子にコースを説明していた。
「俺らも、朝の6時か7時には起きてくるから、どうせ、それまでには、ぜったいに大島を越えるところまでも辿り着けていないから」
「おやすみなさい」
陽子は、ラットを握りながらキャビンに入る香代と隆に声をかけた。
「中に入ろう」
香代が、アフトキャビンの閉じている扉を開いた。
「真っ暗じゃないか」
加代の後ろから部屋の中を覗き込んだ隆は呟いた。窓のカーテンは、全部しっかり閉められていて、部屋の中は真っ暗で暗さにまだ慣れていない2人の目には何も見えていなかった。
こんな真っ暗な中で、目覚ましも何もかけずに寝ていたら、麻美子のやつぜったいに起きてなんかくるわけないなと隆は思った。真っ暗な中、手探りでベッドまでたどり着ける自信もないので、隆はアフトキャビンで眠るのは諦めて、入り口の扉をまた閉めていた。
香代は、1人アフトキャビンの中に残り、手探りでベッドによじ登ると、そこで寝ている麻美子の横に、横になると眠りについていた。
隆は、もしかして雪が寝ているのかなと思いつつ、ダイニングのしまっているカーテンを開けてみると、そこには誰も眠っていなかった。
「なんだ、雪はフォアキャビンで寝ているのか」
隆は、ダイニングのさっきまで瑠璃子が寝ていたバースで1人伸び伸びと横になった。