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クルージングヨット教室物語28

Photo by notinx on Unsplash

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「暖かいし、夕食はキャビンではなく岸壁で食べよう」

隆の提案で、夕食はラッコを停泊した正面の岸壁にブルーシートを敷いて、そこで食べることになった。

「くさやってどこにある?」

隆は、麻美子に聞いた。陽子は、カセットコンロと網を手に持っていた。

「くさや、どこに持っていくの?」

麻美子は、どこかに、くさやを持って行こうとしている隆と陽子に聞いた。

「キャビンの中で、くさやなんか焼いたら、キャビンの中が臭くなってしまうから、岸壁で焼くよ」

隆と陽子は、くさや担当で岸壁に行って、くさやを焼き始めていた。残った麻美子、雪に香代、瑠璃子は、キャビンの中で買ってきたタコや魚を捌いていた。

「新鮮だし、料理も簡単だから、魚はお刺身で良いんじゃない」

麻美子の提案で、買ってきた魚はみな、お刺身で食べることになった。あとは、お米を炊いて、ちょっとした付け合わせのサラダを用意して、今晩の夕食は完成だった。

「本当に、こんなところで食べるの」

麻美子たちが、捌き終わった魚を盛り付けたお皿を持って、キャビンから出ると、目の前の岸壁にいる隆たちのところへ移動した。ラッコの正面の岩壁は、ちょうどバス停の目の前で1時間に1、2本のバスが停まる度に、お客さんが数人降りてくる。おまけにすぐ側に公衆トイレまであった。

「トイレの真ん前だよ」

「ちょうど良いじゃん、食べてすぐトイレに行きたくなったら、すぐに行けるよ」

隆は、笑っていた。

ラッコの皆が、そこの岸壁に大きなブルーシートを敷いて夕食を食べていると、アクエリアスのメンバーたちもやって来て、同じブルーシートの上で一緒に夕食することとなった。

「やっぱ、美味いよな」

もう何度も、大島には立ち寄っている中村さんやアクエリアスのクルーたちは、隆たちが焼いたくさやを食べながら、口々に話していた。

「日本酒を飲みながら食べるくさやは最高だよ」

中村さんは、麻美子に言った。麻美子は、隆が匂いがすごいと言っていたので、くさやに鼻を近づけて、嗅いでみた。焼いた後だとそれほどでもないが、まだ焼く前のくさやを嗅いでみると、なかなか独特な匂いが魚からしていた。

「匂うけど、なかなか美味しいね」

「あそこで、このくさやは作られているんだよ」

隆は、波浮港の丘の上にある小屋を指差して、麻美子に説明した。

「あそこが、くさやを作っている加工小屋なんだよ」

中村さんも、麻美子に説明した。

皆が、岸壁で夕食を食べていると、真っ赤で派手なスポーツカーが波浮港の港に入って来た。明らかに大島の地井さん漁港には似合っていないスポーツカーだった。

「おーい、隆くーん」

そのスポーツカーの中から坊主が降りて来て、隆に大声で声をかけて来た。

「ああ」

隆も、知り合いであるらしく坊主に大きな声で返事していた。

「これか、隆くんの新しく買ったってヨットは」

「船内に入ってみますか?」

隆は、その坊主をラッコの船内に招き入れると、キャビンの中を案内していた。なんか派手なスポーツカーで突然やって来て、隆に声をかけてくるし、誰かガラの悪い人だったらどうしようと心配になった麻美子は、思い切って一緒にキャビンの中についていった。

「うちのクルーで、俺の大学の時の同級生です」

隆は、麻美子のことを、その坊主に紹介した。

「大島の唯一の有名なお坊さん」

坊主のことも、麻美子に紹介した。坊主は、ただのスキンヘッドにしているというわけではなく、本当にお坊さんだったのだ。

「本当に、お坊さんだったんだ」

船内を見てから、しばらく一緒に話した後、また坊主が派手なスポーツカーに乗って爆音をたてながら帰ってしまった後で、麻美子は隆たちに言った。

「あんな車で大島を走り回っているのだから、不良坊主だよな」

中村さんも、麻美子に言った。

大島の坊主は、もともと隆たちがヨットを保管している横浜のマリーナのすぐ隣にある横浜市のヨットハーバーにヨットを置いている鈴木さんの知人だったが、隆たちも鈴木さんと一緒に、大島に立ち寄る度に、坊主と会っているうちに知り合いになってしまったのだった。

「隆が一緒にキャビンに入った時は、なんか絡まれているんじゃないかと心配だったわよ」

「本当に絡まられてたら、危ないから中に来るなよ」

「そんなこと言ったって、隆のことが気になるじゃないのよ」

麻美子は、隆に言った。

「隆さん、ダメだよ。麻美ちゃんが心配になるようなことしたら」

瑠璃子は、隆に言った。

なんだか、隆お父さんに麻美子お母さん、瑠璃子お姉ちゃん、一番上の雪お姉ちゃん、陽子、一番末っ子の香代ちゃんとファミリーになって来たラッコメンバーだった。

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